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私の乙女ゲームデビュー『AMNESIA』の思い出

乙女ゲームって、プレイしたことありますか?

イケメンとの恋愛を楽しむという、プレイしているのを人にはちょっと言いづらい類のゲームだと初めは思っていました。それもまた乙女ゲームの一面だと今でも思っていますが、それだけではない、ということを今は身に染みて知っています。

その面白さをもっとたくさんの人に知ってほしい。

そして単に私が、好きなものを存分に吐き出したい…

そしてそしてあわよくば周りの人に布教して、語り合える仲間が欲しい…そんなちょっぴりの下心の元、こうして記事を書きます。

好きな作品がたくさんあるので、そのひとつひとつを心行くまで愛でます。
今回はその一作目。2011年発売の『AMNESIA』(アムネシア)について思い出していきたいと思います。

Ⅰ.出会いは突然に

そもそも私が乙女ゲームというものに興味を持ったのは、当時から好きだったあるアーティストさんのCDアルバムがきっかけでした。普段からアニメを見る人は名前を知っているかもしれません。やなぎなぎさんです。1stアルバム『エウアル』に同梱されていた特典映像の中に、やなぎなぎさんの楽曲を使用していたアニメ『AMNESIA』のOPが収録されていたのです。その音楽はもちろん、OP映像に私は一目惚れして、このゲームに興味を持ったのです。

まずどストライクだったのが、主人公の容姿の可愛さでした。
とにかく可愛い。主人公が好きかどうか、というのは私が今後乙女ゲームをプレイするにあたっての最重要選別ポイントとなっていくのですが、いろいろな乙女ゲームをプレイしてきた今になっても、あの可愛さは全く色褪せていません。
このOPをきっかけにまずアニメを見ました。これが普通に面白かったんです。あんまりな言い方かもしれませんが、乙女ゲームのアニメ化で私にちゃんと刺さったものって、今のところこの『AMNESIA』一作だけなんです…。乙女ゲームには”ルート分岐”という概念が必ず付きまといますので、それを一本のアニメ作品としてまとめるのには、相応の工夫が必要になります。それを絶妙なバランスでやってのけたのが『AMNESIA』だと、私は思っているんです。
攻略キャラ5人分のルートからそれぞれいいとこ取りをしつつ、ループもの、パラレルワールドものとしてのサスペンス要素が、全12話の中で一本筋を通して描かれています。ラストは、ゲーム本編への導入としてすごく良いなと思える演出になっていて、私の中ではとても好きなアニメ作品となっています。
そのアニメを経てついに、私は本編のゲームに手を出すというわけです。

今思うとこのゲーム、乙女ゲームの中でもなっかなかクセのある、個性的な作品でした。そしてそれこそが『AMNESIA』の魅力でもあります。どこが個性的かというと、以下のような感じです。

主人公の個性が限りなく薄い
選択肢がめちゃめちゃ多い
ルートによって、周りの人間関係ががらりと変わる
キャラもシナリオもクセがつっよい

これらを順に書き連ねていこうと思います。

Ⅱ.主人公の希薄な個性

まずあらすじをご紹介しますね。公式から引用です。

とある架空世界の、とある架空の国の、とある架空の街での物語。

それは、8月1日のこと。
朝、目覚めた主人公は、突如として8月1日以前の記憶を『全て』失ってしまっていた……。
自分がどのような人生を送ってきたかも、周囲の人間関係もまっさら白紙の状態。

そんな彼女の目の前に現れたのは、自身を『精霊』と名乗るオリオンという少年だった。
オリオンの導きにより、記憶を取り戻すために奮闘することになる主人公。
まずは自分の日常生活から探っていこうとした矢先、彼女のものであるらしい携帯電話が着信を告げる。

――液晶画面に表示されたのは、やはり『知らない』名前だった――

名前も顔も知らない、主人公の『恋人』であるらしい『彼』との出会い。
誰を信用するべきか不明な状況で、相手に記憶喪失を悟られないよう行動する主人公。
それにより物語は複雑に絡み合っていく。

『彼』との思い出を持たない主人公は、
この日から新たな恋物語を紡ぐことになる――。

私はこれが初めての乙女ゲームだったので、当時あまり気になっていなかったのですが、まず主人公の個性が他に類を見ない程希薄です。というのも、この物語の前提に「主人公が記憶喪失である」というものがあるからですね。タイトルの通り、「AMNESIA」=「記憶喪失、健忘症」というわけです。

この記憶喪失、かなりの重症です。名前以外の情報が全く皆無の状態から物語が始まります。かつ、自身が記憶喪失であることは、周りに口外してはならないことになるので、記憶喪失であることを隠しながら自身の状況を手探りで把握していかなければなりません。これ、結構描写がシビアで、序盤からかなりスリリングです。覚えのない人間関係、覚えのない約束、覚えのない仕事…どれもホラーなんですよねえ…。
主人公の自発的な発言は作中ほぼ皆無で、発言・応答が必要な場面はほとんどがプレイヤーの選択肢に委ねられます。よって自然と、選択肢の量が増えます。その選択肢がまた、クセのある2択で…いわゆる”好感度”にも繋がるため毎度気が抜けないのと、時には生死に関わる選択肢が隠されているため、これもまたスリリングです。違う意味でドキドキなんです…HAHA…

こんな状態の主人公がこの物語を歩むにあたって欠かせないのが、あらすじにもある『精霊』オリオンの存在です。自分の意思が希薄な主人公に代わって、この世界をナビゲートしてくれます。何もかもが分からない世界に放り込まれた主人公=プレイヤーの戸惑いや混乱、疑問に寄り添い、時にメタすれすれの、キレッキレなツッコミを飛ばしてプレイヤーの気持ちを代弁してくれます。プレイヤーが無条件で信用していい唯一のキャラクターであり、とっても頼れる相棒です。癒しです。天使です。精霊です。
主人公を俯瞰するお供キャラというのは、乙女ゲームではまま見られる存在なのですが、それがこれだけ大きな役割を担っている作品も他にないと思います。

Ⅲ.主人公を取り巻く人間関係

この作品ではルート分岐における特徴的な設定があります。ゲーム開始時の人間関係です。
『AMNESIA』では、ゲーム開始10分で攻略ルートを選択することになります。序盤で選べる選択肢は4つ。ハートの世界スペードの世界クローバーの世界ダイヤの世界です。これにより、主人公を取り巻く人間関係ががらりと変わるのです。
例えばハートの世界を選択すると、シンという青年が<幼馴染み兼恋人>という立ち位置で主人公の前に現れます。それがスペードの世界に行くと、<旅行先で会った大学生>という全く違う立ち位置で登場するんです。キャラクターの基本的な設定は変わらないものの、主要な登場人物は世界が変わると皆このように関係性がシャッフルされるので、全てのルートで序盤のドキドキ感(違う意味のやつ)を新鮮に味わえます。またとあるキャラクターは、人格までもが世界によって全く異なるため、見所ですね。このキャラクターの人格次第で、どのルートなのか特定できたりします。

多くの乙女ゲームでは、主人公と攻略対象の関係はゲーム開始時点で基本横並びです。共通ルートを経る中で特定のキャラクターと親睦を深め、それからルートが分岐していくことが多いのですが、『AMNESIA』においては違います。序盤で選ぶ各世界は完全なパラレルワールドとなっており、しかも登場人物との関係が既に形成された状態から物語が始まります。だからこそ、主人公だけがゼロ地点に置かれてしまった状況で、暗闇の中から周囲の人間を手探りして、関係性のイトを手繰り寄せ、本来の自分の本当の想いに目覚めていくストーリーが、主人公とプレイヤーの輪郭を重ねていく面白い過程になっています。

そういえば、私が自分と同じ名前を付けてプレイしたことのある乙女ゲームは、後にも先にもこの『AMNESIA』だけでした。デフォルト名が無く、キャラクターからのボイス付きの名前呼びが実装されていないこともありますが、主人公との独特の連帯感があり、自分を重ねやすかった部分もあったのかなあ。

Ⅳ.クセが強い

まず、ビジュアル。ツッコみどころ満載のキャラクターのビジュアル

き……奇抜ぅ…

トランプモチーフなことが一目でわかるのですが、全員パンクっぽいっていうか、こう…ビリビリのデザインとか、スタッズがすごかったりとか、こんなところにピアスが…とか、ベルトがすごかったりとか、超長い編み上げブーツとか…
日常生活には馴染まなそうな個性的な服装ばかりなので、ちょっと引いちゃうというか、びっくりかもしれません。

それから、背景の描写も個性的です。近年の乙女ゲームは、すごく美麗で凝った背景のものが多いのですが、『AMNESIA』の背景はなんというか、情報量がとても少ないです。線も色も薄く単調で、とても淡白な印象で統一されています。

キャラクター同士が比較的ギスギスしている点も独特です。個性と価値観のぶつかり合いというか…お互いに対して情が無いわけではないのですが、相手のために譲歩するという選択肢が彼らの中に無いというか。とあるキャラクターが譲歩とか捧げるとか献身とかそういう自己犠牲的な部分を一人で抱え込んでいるせいなのか、他のキャラたちはとても自分に素直に見えます。これは嫌、それはおかしい、僕はこう思う、というのをなかなかはっきり表に出します。
噛み合っているようで噛み合っていない彼らのあのテンポが、ちょっとクセになるんですよね。みんな素直で、本音だから、ハラハラすることが多くても、見ていて不愉快ではない、愛おしい人たちでした。

一部ディスっているようにも見える章になってしまいましたが、これらのどれが欠けても、『AMNESIA』には成っていなかったと思います。

Ⅴ.まとめ<それで、肝心の恋愛要素は?

いわゆる糖度で言うと、比較的低めです。乙女ゲームにおける続編、ファンディスク(FD)においてはその限りではないですが…

全体的に、もどかしいです。記憶のない状態と、相手の強すぎる個性が災いして「こいつほんとに私のこと好きなのか???」「は??なんだこいつ!」というところから始まり、それが相手を知るほど「あれ、この人、かわいい…?」に変化し始めたあたりで「え!?」「は、どういうこと??」ってことが繰り返し起こり、「あーーーそういうことかーー」…「愛おしー…」で見事にハマっていきます。(急に雑っ

つまり、文句なしです。
PSPからPS Vita、そしてSwitchへと移植を繰り返している名作ですので、恋愛面ももちろん面白いです。

時に爆笑しながら、あれこれツッコみながら、突然死に呆然としながら、相手を知り、自分を知り、世界を知って。そのころにはきっと、『AMNESIA』の世界が好きになっていると思います。

私自身、プレイしてからかなり時間が経ってしまっている作品なので、美化している、細部が飛んでしまっている部分があるかもしれませんが、今でも、最後までこの手に残っている感触は、「面白かった」です。
この作品を皮切りに、私はいろいろな乙女ゲームの世界へと旅を始めるようになります。

乙女ゲームにもいろいろあって、好みもそれぞれです。
今までプレイしたことがなかった人には、いい出会いがありますように。
他の乙女ゲームをプレイしたことがある人は、『AMNESIA』もおすすめです。
『AMNESIA』をプレイしたことのある方は改めて、楽しかったなあとか、いっぱい死んだなあとかって、思い出していただければ嬉しいです。

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追記:2021年は、『AMNESIA』の発売から10年のアニバーサリーでした。
8月から手を付けていたこの記事を、今年中に書ききることができてよかったです。終わらない8月、やっと終わりました!
ありがとう『AMNESIA』!

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