平和研究会

2024.7.7(第百五十一回)

ベル・フックス『フェミニズムはみんなのもの——情熱の政治学』


わたしが望んできたのは、「フェミニズムって何なの?」という質問に対して、恐れや夢物語に根ざしたものではない答えをみんなが手にできることだ。「フェミニズムとは、性にもとづく差別や搾取や抑圧をなくす運動のことだ」という、とてもシンプルで何度でも読み返せる定義をみんなが手にできることだ。この定義がわたしはお気に入りである。これを最初に書いたのは十年あまり前、『フェミニズム理論——周縁から中心へ』の中でだった。この定義がお気に入りなのは、これがフェミニズム運動は男性に反対する運動ではないということをはっきり示しているからだ。この定義がはっきりさせているのは、問題は性差別だということである。そしてそのことが想い起こさせるのは、わたしたちはみんな、女であれ男であれ、生まれてからずっと性差別的な思考や行動を受け入れるように社会化されている、ということだ。その結果として、女性も男性と同じように性差別的でありうる。そして、そのことで男性の支配が看過されたり正当化されたりするわけではないが、同時にもしフェミニズム運動は単に女性が男性に反対するものだと見なすフェミニストがいるとしたら、それはあまりにもナイーヴで間違った思考である。家父長制(制度化された性差別の別の呼び方)をなくすためにはっきりさせなくてはならないことは、わたしたちはみんな頭や心を変えない限り、そして性差別的な思考や行動をやめて、フェミニズム的な思考や行動をとらない限り、連綿と続く性差別に加担しているということである。

フェミニズムを知ってほしい

 集団としての男性は、男性は女性よりも優れているから女性を支配すべきだという思い込みのもとに、家父長制から最も利益を得てきたし、いまなお得ている存在である。だが、その利益は代償を伴っている。男性は家父長制から得るすべての利益と引き換えに、家父長制を機能させ続けさせるために、必要とあらば暴力を振るってでも女性を支配したり、搾取し抑圧することを求められている。ほとんどの男性は、家父長主義的に振る舞うことはできないと感じている。ほとんどの男性は、男性が女性に振るう暴力のせいで女性たちが感じている憎悪や恐怖に動揺を感じている。それは、みずから暴力を振るう男性でさえそうなのだ。だが、男性たちは利益を失うことを恐れている。男性たちは、もし家父長制が変わってしまったら、慣れ親しんだこの世界にいったい何が起こるのか不安を感じている。だから、頭と心では悪いと分かっていても、このまま男性の支配を支持する方がマシと思っているのだ。男性たちが繰り返しわたしに言ったのは、フェミニズムがいったい何を求めているのかさっぱりわからない、ということだった。その言葉に嘘はないと想う。わたしは、男性が変わり成長する可能性を信じている。そして、フェミニズムについてもっとよく知れば、男性たちはフェミニズムを恐れなくなると想う。なぜなら、男性たちがフェミニズム運動に見い出すのは、自身が家父長制の束縛から解き放たれる希望なのだから。

フェミニズムを知ってほしい

 わたしが男性の支配に反対し、家父長主義的な思考に反抗し始めたとき(わたしが生まれて始めて反対した最強の家父長主義的な主張の主は母親だった)、私はまだ十代で、落ち込んで、死にたいとさえ想っていた。どのように人生の意味を見つけ、自身の居場所を見つけたらよいのか、まったくわからなかった。わたしは、生きる糧である平等と正義という土台を与えてくれるフェミニズムが必要だった。母親はやがてフェミニズムの賛同者になった。フェミニズムのおかげで、わたしを含む娘たちみんな(うちは六人姉妹)がよりよい人生を送れることを悟ったのだった。母は、フェミニズムに未来の約束と希望を見い出した。そうした約束と希望こそ、わたしがこのほんであなたそしてみんなとわかちあいたいものなのだ。

フェミニズムを知ってほしい

 想い描くのは、支配というものがない世界を生きること。女性と男性は同じではないし、いつでもどこでも平等というわけにはいかなくても、交わりの基本はおたがいに相手をおもいやることという精神がすみずみにまで行き渡った世界に生きることだ。フェミニズム革命だけでそうした世界ができるわけではない。人種主義や階級主義や帝国主義もなくさなくてはならないだろう。それでも、愛に満ちたコミュニティをつくり、ともに暮らすことができるような、真に覚醒した女や男になることは可能である。自由と正義の夢を実現し、わたしたちはみんな「生まれながらに平等である」という真理に生きることができるのだ。さあ、近くに来て。そして、フェミニズムがどんなにかあなたの人生やわたしたちみんなの人生に影響を与え、変えることができるかをみて。近くに来て、まずフェミニズムとは何かを知って、、さあ、もっと近くへ。そうすればあなたにはわかるはず、フェミニズムはみんなのものだと。

フェミニズムを知ってほしい

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