平和研究会

2024.7.28(第百五十四回)

ベル・フックス『フェミニズムはみんなのもの——情熱の政治学』

 フェミニズム運動を支えていたのは、その当時わたしたちが「内なる敵」と呼んでいたもの、つまり「わたしたちの内なる性差別」への批判だった。わたしたちがまず何よりも知っていたのは、わたしたちはみな家父長主義的な思考によって女として育てられたということであり、その結果、女は男より劣等であると思い込み、家父長制の下で認められようと女同士で争う以外になく、おたがいを嫉妬や恐怖や憎悪で見るように社会化されているということだった。性差別の思考は、女性同士がおたがいを共感の眼でみず、厳しく罰し合うように仕向けてきたのである。フェミニズムは女性たちに自己嫌悪に陥る必要はないことを教えてくれだ。フェミニズムはわたしたちの意識を縛っている家父長主義的な思考から自由になることを可能にしてくれたのだ。
 男同士の助け合いは受容され、家父長主義文化の好ましい面として認知されてきた。集団の中の男性は固い絆で結ばれ、おたがいに支え合い、チームの一員として集団の利益を個人の利益や名誉に優先させるものだとされてきたのだ。だが、女同士の絆は家父長制の下では不可能だとされた。それは掟破りだった。フェミニズム運動がはじめて、女同士の絆を可能にする支えをつくったのだ。わたしたちが女同士の絆を結んだのは、男性に反対するためではなく、女性としてのメリットを守るためだった。たとえば、わたしたちは団結して女性作家の本をまったくとりあげようとしない教授に抗議したが、それはそういう男性の教授を敵視したからではない(たしかになかには嫌いな教授もいたが)。それはクラスやカリキュラムのジェンダー的な偏向をやめさせたいと想ったからだった。
 1970年代前半に共学のわたしたちの大学で起こっていたフェミニズムの波は、家庭や職場でも起こっていた。フェミニズム運動がまず教えてくれたのは、わたしたちもわたしたちの身体も男の所有物ではない、ということだった。わたしたちのセクシャリティを恢復し、安心できる効果的な避妊と生殖に関する権利を獲得し、レイプやセクシャル・ハラスメントをなくすために、わたしたちは連帯して立ち上がる必要があった。差別をなくすために、政治家にはたらきかけるグループをつくる必要もあった。女性自身がもっている性差別的な思考と対決し変えてゆくことは、アメリカ社会をラディカルに揺り動かすだろう、そうしたシスターフッドを力強いものにしてゆくための第一歩だったのである。〔…〕シスターフッドという言葉で表現された女性たちの政治的な連帯とは、単に女だからわかりあえるとか、女として受けた苦しみへの同情といったことを超えたものだった。フェミニズムの言うシスターフッドは、家父長制の下での不正——それがどんな形態をとっているにせよ——に対する闘いにともに参与することから生まれるものなのだ。女性たちの政治的な連帯は必ず性差別主義を揺るがし、家父長主義をなくす一歩となる。ただ大切なのは、もしそれぞれの女性が特権を与えられていないグループに属す女性を支配したり搾取したりする権力を手放そうとしないなら、シスターフッドは階級や人種の壁を超えて結びあうことはないということだ…女性が他の女性を支配するために階級的あるいは人種的な権力を行使する限り、フェミニズムのシスターフッドが真に実現することはない。

女の絆は今でも強い

 フェミニズム運動が始まったときには、シスターフッドの理念はあったものの、女性たちの絆を実現するのに実際に何が必要かはわかっていなかった。でも今は、これまでの経験や困難な闘いを通じて、そして、そう、多くの失敗や間違いを通して、女性たちの連帯を創出し、維持し、護守するためには何が必要なのか、新しくフェミニズムに参加する人たちに教えられるだけの理論や実践がわたしたちのもとにはある。若い女性たちは、フェミニズムについてほとんど知らないか、もう性差別は問題になっていないという間違った思考を知っているだけなので、批判的な意識をもつためのフェミニズム教育をいまだ必要としている。だが、古参のフェミニストたちは、大人になろうとする若い女性たちがいままさにフェミニズムの知識を必要としていることに気づこうとはしない。若い女性たちには道案内が必要なのに。アメリカ社会のほとんどの女性たちがシスターフッドの勝ちや力を忘れかけている。フェミニズム運動は再生し、新たなる「シスターフッド・イズ・パワフル」の旗をふたたび高く掲げなくてはならないのだ。
 ラディカルな女性たちはいまなお、シスターフッドをつくり、実際に女性たちのあいだの政治的な連帯を保つための努力を続けている。いまなお、人種や階級を超えた連帯の絆をつくろうと努力している。そしていまなお、性差別に抵抗する思想や実践を続けるならば、女性たちはおたがいに支配することなく実現や成功をなしとげられるのだという事実を確認している。わたしたちがもっているすばらしい宝、それはシスターフッドは具体的に可能だしいまでも力強いという、毎日の経験なのだ。

女の絆は今でも強い

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