「てんとう虫」「ともだちのこいびとさま」

てんとう虫

「美」とか「愛」がつく名前の女の子は　ちゃんと名が体をあらわしていて　笑顔がかわいくて　あかるくて　人気ものだった　わたしは体操服がきらいで　肌をひかりにさしだして　健康ですって　おひさまに示さなきゃいけないみたい　まわりの子がしろくてつやつやでやわらかな肌を　惜しげもなく見せつけているあいだ　わたしはパーティーに迷い込んだ野良猫みたいに　すみっこで　てんとう虫を目で追っていました　赤白帽子も似合わなくて　笑うのが苦手なこどもだった　はやく　苗字の書かれた体操服をすてて　わたしの名前を　呼んでほしかった

ともだちのこいびとさま

大学でできたともだちがインスタグラムで　こいびとと手作りのゆびわをつくっていた　学校で会ったとき　彼女は右手の薬指に銀色のゆびわをしていて　この子は　守られているんだって　いいなっておもった　それから数週間後　ゆびわは右手の薬指から　人差し指へと移っていた　彼女はゆびわを失くしてしまったみたいで　それを泣きながらこいびとさんに言ったら　「見つかるまでおれのを付けておきな」って　言ってくれたんだって　その話をきいたあと　彼女の手をみると　薬指がひかっていたときより　もっとひかってみえて　こいびとさんの手が　彼女の手を　ずっとつつんでいるような気がした

ともだちたちは　こいびとの話をするとき　とってもかわいい　わたしは恋をすると痛々しくなってしまう　幸せになるのが怖くて　始まってしまったら終わってしまうし　幸せになったら不幸せがやってくる　幸せに麻痺してしまったとき　不幸せに耐えられる気がしない　どうしてわたしなんかを好きなのか　わからない　
こいびとの話をするともだちたちの　フレンチトーストみたいな匂いが　わたしをクラクラさせる　星を混ぜ込んだジャムみたいに　彼女たちの頬は赤らんで　光っている　どうかどうか　ともだちのこいびとさま　ともだちをずっと愛してください　泣かせたりしないで　だってこんなに　あなたのこいびとは　とってもとってもかわいい姿で　あなたのことを語るのよ