泡日記 君の名前は

犬がお空に昇ってから一週間経ちました。
名前を呼んでご飯をあげて、散歩に行って、足を洗って。
家の階段が怖くて上り下りできない犬の為にいちいち抱えて階を移動して。当たり前の毎日の事がなくなったこの一週間は、何を見ても身が痛んで悲しく、苦しいものでした。
ごはんの袋を開ける時の音は、その行為が無ければもう聞くことは無いのです。うっかり床に落とした野菜を慌てて拾わなくてもいいのです。家を少し留守にする時、明かりやテレビを付けたままにしておかなくてもいいのです。そんな小さな日常の変化にいちいち気が付いては涙が流れてしまう。
1年かけていつか来る日の準備を固めて来たと思ったけれど、やはり覚悟なんて出来ていなかったとつくづく感じているのです。

最期の10日間は壮絶で息も苦しそうだったから、抱きながら、貧血で冷たくなってしまう手足や耳の先をさすって温めながら、もう楽になっていいんだよとささやいていたのは私です。しんどいね、辛いねと。
なんとかしてあげたいけれど、どうにもしてあげられなくてごめんね、と。
せめて離れないで一緒にいようと、病院に預けて点滴を受ける以外はずっとそばにいたのです。夜中はソファで仮眠を取りながら、次の日病院で先生に伝えられるように、何時に何ミリのお水を飲んだ、何時に下痢をしたとメモを残して、地震も羽田の事故もお腹を撫でながら、ただ茫然とテレビの画面を見つめていただけでした。
指の先にある命が小さくなっていくのを、どうしていいか分かりませんでした。

犬は柵を飛び越えるように、ある時向こう側にふっと渡っていきました。
楽になったよね、もう大丈夫だからねと言いながら、わんわんと泣きました。居なくなってしまうことに耐える自信はないのです。覚悟などないのです。そんなに泣いたら悲しむよって、家族は慰めてくれるのですが、まだまだ私はこれからも泣くのでしょう。ごめんね、心配かけます。

犬の名は、にこと言います。にこ、あいたいよ。

まだ元気な頃に友人が撮ってくれました。
バリカンしたては常に虎刈りでした。


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