ユーザーカップリングのすゝめ

 この記事は、「フレカフェ&きりたん丼合同 Advent Calendar 2019」に12月3日分の記事として「バーチャルネットJK 竹輪16歳」の名義で参加させていただいた記事です。

 インターネットには様々なコミュニティがありますが、そこではユーザー同士に恋愛関係を見出して楽しむ「カップリング」が見られることがあります。私はこれを今回「ユーザーカップリング」と名付けました。

 かつての2ちゃんねるの文脈を踏まえれば、ユーザーカップリングとは忌避される行為でした。今でもそういった匿名性を非常に重視する場においては忌避される行為です。

 VIPPER、つまり2ちゃんねるのVIP板の住人が、かつて801板(BLについて語る板。天井と床で掛け算をしたりする)に突撃し敗北したという出来事をご存知の方は多いと思います。当時のVIPPERといえば、インターネット文化の1つの象徴的な存在だったと同時に、その圧倒的数量をもってしてインターネットを荒らし回る面倒な集団でもあったわけですが、801板の住人はVIPPERをカップリングの対象とみなして対抗した訳です。いや、対抗というのもおかしな話で、801板民にとってVIPPERはただの萌えの供給源に過ぎなかったのです。

 VIPPERが「萌えの対象とされる」ことをどれほど嫌がるかは、彼らがニート、童貞、中卒といった社会でマイナスに捉えられがちな要素を自分たちのステータスとして確立していたことからもよくわかります。これらは本来ならばほとんどのひとにとって魅力的に思えない≒萌えないはずのものですし、そういった要素を匿名性を高める、つまり個人に注目が集まることを避けるために使っていたことも想像ができます。

 そんな匿名性の高いVIPPERという集団に対してカップリングによる萌えを見出した801板民は、ユーザーカップリングをする上で、ある意味で尊敬すべき先輩方ということができます。

 話がかなり脱線しましたが、ともかくユーザーカップリング本来は忌み嫌われる行為だった訳です。しかし、現在のTwitterなどで、「オタク」と呼ばれるようなひとたちにより構成されるコミュニティにおいては、必ずしもそうだとは言えません。私たちは、画面の向こうの人間が、実は、(ニートでも童貞でも中卒でもなく)それなりの給料の職に就いていたり、性行為の経験があったり、大卒だったりすることを知っている場合もあります。「オタク」のコミュニティは昔ほど自己を主張することに対して否定的ではなくなっているのです。

 そのため、もちろん場所にもよりますが、「オタク」は個性を出してもよくなったので、オタクは同じコミュニティの他者を遠慮なく「推す」ことができるようになったし、同時に推されるような行動(つまり自己顕示と捉えられる行動)を取りやすくなったのではないでしょうか。ユーザーカップリングもこうした環境で発生したと考えられます。

 ここでユーザーカップリングが発生しやすくなる条件を整理していきます。

1.匿名性がちょうどよい
2.最近の「オタク」がコミュニティに多い
3.個性が強いひとがコミュニティに多い

 1.については今まで書いてきた通りですが、それに加え、匿名性が高い場では、誰が話したかよくわからないので1つのカップリングあたりの燃料の供給が極端に少なくなるという問題があります。先に挙げた801板の住民のように一言二言の発言から無限に妄想を膨らませる力が必要で、常人には険しい道です。また、匿名性が低すぎると、Facebookのように個人が現実に存在する人間と密接に結びつくようになってしまうので、カップリングをする上では、2次元のキャラクターのような「推す」対象っぽさが薄れ、どうしても抵抗を感じてしまいます。

 2.については、(最近のオタクと対比しての)一般人はもちろん、古い「オタク」にもカップリングの文化が薄いという問題があります。古い「オタク」の時代には(つまりTwitterやニコ動の台頭する以前、ゼロ年代中頃までは)、BLは表ではそこまでの勢いを持たず(この一因としては、腐女子はこっそり活動すべきという思想があったと思われる)、またGLについては発展途上と言える時期で、少なくとも表面的には自己投影できる「俺くん」とキャラクターとの関係性を描くことが主流だったといえます。一方現在ではBL、GLが受け入れらるようになってきたことは言うまでもありません。「百合の間に挟まれたい」という願望がしばしば否定されることからも、それが自己投影的なものと限らないことがわかります。というわけで、最近のオタクの方が創作上のカップルを眺めることに慣れてるので、そういうオタクが多いとユーザーカップリングが成立しやすくなります。

 3.については、単純な話で、魅力的なキャラクターを持つ人が多いほど妄想も捗るという話です。当然ながら、個人個人がその個性を出せるようになっても、個性的なひとがいなければカップリングには繋がりにくいです。その逆もまた然りで、個性的なひとが多くても、1人ひとりを識別できなかったり、個性を抑圧される環境ではカップリングは発生しにくいです。

 さて、これらの要素を兼ね備えたコミュニティがあります。その1つがかつてのマストドンインスタンスであるfriends.nico(ニコフレ)であり、サービスが終了した現在ではbest-friends.chat(ベスフレ)やfriends.cafe(フレカフェ)がその後継として機能しています(ここでマストドンについて知らないひとは説明が面倒なので自分で調べてから読み進めてください)。

 ニコフレ、及びベスフレとフレカフェ(この記事ではこれらを合わせてニコフレ系インスタンスと称します)では、LTLでのチャット文化が盛んです。つまり、ニコフレ系インスタンスはそれ自体が1つのコミュニティとなるのです(同じマストドンでもPawooではTwitterのように決まったユーザーでコミュニティが形成されます)。それなりの人数がいるにも関わらず、お互いが知り合いと呼べる状態が形成されていて、参加すればそれなりの一体感を味わえます。

 ニコフレ系インスタンスにおいては、当然それぞれがアカウントを開設して名前を持つので、個人を見分けることができます。もちろん実名登録ではないので、1.の匿名性についてはちょうど良い位置にあるといえます。

 また、ニコフレ系インスタンスのユーザーの多くはニコニコ動画やTwitterのユーザーでもあります。これらのサイトは、近年のBLやGLの発展に寄与してきたサイトの1つだともいえます。「おそ松さん」や「刀剣乱舞」、「ご注文はうさぎですか?」や「けものフレンズ」など、BLとGLの対象にされがちなジャンルはいずれもこれらのサイトでもヒットしました。つまり、ニコフレ系インスタンスのユーザーはカップリングに慣れていると言えるのです。つまり2.の条件もクリアしています。

 3.の条件については、ニコニコ動画内で多大な活躍をするクリエイターがユーザーにいるなど、多くの個性的なひとがいます。これは結局のところは見てもらわなければわからないので「います」としか言えませんが、少なくとも、ニコフレ系インスタンスは個性を抑圧するような環境ではないです。

 ここまで見てきて、Twitterで良いじゃん、と思ったひとも多いかと思います。その通りで、Twitterでもそういったコミュニティはあったりする訳です。しかし、Twitter上のコミュニティと違いが1つあるとすれば「箱」が明確かどうかです。ここで言う「箱」とはアイドルやVTuberで「箱推し」と言ったふうに使われるもので、要するにコンテンツの範囲のことです。例えばVTuberならば、それぞれの事務所(にじさんじ、.LIVE等)が1つの「箱」になるわけです。Twitterのコミュニティにおいては、「箱」はその範囲が不明瞭なことも多く、となると他のユーザーを巻き込みにくくなるので、決まった組み合わせのカップリングを推す傾向が強まります(A×BがB×Aになることはあっても、A×Cとかにはならない)。しかしニコフレ系インスタンスにおいては、インスタンスの登録者全員がそのまま1つの「箱」になるので、A×BだけでなくA×C、といった「応用」(これは人によっては唾棄すべきものと捉えられるのでしょうが)が効くことになります。

 それなりの多様性を持っていて、個性的なユーザーが多いニコフレ系インスタンスにおいて、ユーザーカップリングが発生したのはごくごく自然な事だったと言えるでしょう。そしてそれは、同じインスタンスの内部のひとにとっては、馴れ合いであると同時に、魅力的なコンテンツでもあります。この2つの要素が同時に成立することは、インターネット上のコンテンツとしてそれを楽しむ上ではとても優秀です。もしあなたのいるコミュニティとカップリング対象となるひとがそれを許してくれる(あるいは許される関係である)ならば、あなたもユーザーカップリングに萌えてみませんか?

 ネットJK竹輪は、ユーザーカップリングを応援しています。

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