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ももこの幼稚園生活⑤ マラソン大会

ももこが通う小さな幼稚園では、毎年2月にマラソン大会を開催していた。
マラソンと言っても走るのは園児なので、年少さん、年中さん、年長さんに適した距離で、おなじみの公園を走るものだった。

ももこは何事にもマイペースな子だったし、新しい事に慣れるのも人より時間がかかった。
年少さんの時のマラソン大会は、初めての行事に参加してお腹が痛くなったり、泣きだすことも十分考えられたので、ももこから私の姿が見えるように移動しながら見守っていた。

大人にとってはちょっとそこまでの距離でも、3歳の子どもが馴染みのある公園とはいえ、一人でゴールを目指して走ることは不安でいっぱいなのではないだろうか。

何でもすぐできたり、理解の早い子がいるように、何事にも時間のかかる、ももこのような子も当然いる。
ももこの行動を見ていると、好きか嫌いか出来そうか出来なさそうか、怖いか怖くないか、きっと小さな胸の中はそんなことでいっぱいだったのではないだろうか。

母親になったから子育てをするのだけれど、私はももこの行動を見るまで子どもはどんな生き物なのか、ちっともわかっていなかったように思う。
ももこが自ら選んだ小さな幼稚園での生活は、考えたり試したりしながら少しずつももこを成長させ、同時に私も変えていった。


さて、そんなももこが幼稚園生活最後の行事であるマラソン大会でどう走るのか、私はとても楽しみだった。
もちろん、もう私の見守りは必要ない。

年少さんから順に走り、年中さんが全員ゴールした後、最期の年少さん達がスタートラインに立った。
その日はとても寒い日で、体操着の子ども達は寒さのためか顔が強張って見えた。

誰が速いか、コソコソと予想を立てる下の学年の保護者達。
Mちゃんよね、K君よね、SちゃんもWちゃんもいるわよ、などと囁き合い、当然だけれどももこの名前は出てこない。

8人のこども達が一斉にスタートし、飛び出して行ったのは運動の得意なMちゃん、体の大きなK君、Sちゃん、Wちゃん。
ここは予想通り。
飛び出して行った子たちの後をとことこ自分のペースで走る子は、ももこを含めて4人。

いつも遊びに行っている近くの公園なので、迷う事もなければ一人で不安になることもないだろう。要所要所に先生方が立っているので、年長さんになれば先生の顔が見えることも、このコースで良いこともよく分かっているはず。

距離にすると2キロ程度はあっただろうか。
幼稚園では外での活動もそれなりに多く、それが大好きだったももこにとって走ることも不得手ではなかったはず。人より速く走ることはなくても、きっと完走するだろうと、私は思っていた。

本人が満足できれば十分であり、マラソン大会の成績など私にとってはどうでも良い事だった。

しばらくすると、Mちゃんがトップで帰ってきてゴールした。
やっぱりね、という周囲の顔。
随分差はついていたけれど、2番目に帰ってきたのは何とももこだった。
「え!ももちゃん?あの子が2番で帰ってきたよ、嘘みたい」急にガヤガヤしだす外野。
ちょっと、聞こえているのですが~
そんなことお構いなしに、予想が外れて2番目にゴールをしたももこの事をあれやこれや、まあうるさいこと。

結局、スタートで勢いよく飛び出して行った子ども達は、途中で燃料が切れたのか疲れてよろよろしながら戻ってきた。
最初から最後までマイペースで走ったももこは、誰に追いつこうとか誰を抜かそうなど考えることなく、ただただ走っただけ。

後でももこに聞くと、「追いつくとか追い越すってスピードを上げなくちゃいけないでしょ?そんなことをしたら疲れちゃうもん。ももこは普通に走っただけだよ。」と言った。
人のペースに惑わされることなく走るって、私にできるだろうかと思った。
2番になったから大喜びするでもなく淡々としているももこを見て、この子ってなんだかおもしろい子だな、と私は改めて思った。

手作りのメダルをかけてもらった後、ようやく嬉しそうに笑ったももこ。
ももこなりに緊張していたようで、帰宅するといつもより長い昼寝をした。


🌸 ももこはどうも「できなさそう」と思われることが多かった。
本人はもちろん悔しいと思う事もあったようだけれど、あまりそれを口にしたり顔に出すこともなく相変わらずコツコツと積み上げていくのだった。
ももこを見ていると本当に努力は裏切らないと思えたし、不器用でも真面目に物事に向き合う事の尊さを、私の方が教わったように思う。
私はももこの母親だからももこより偉いことなんて一つもなく、むしろ無垢で一生懸命なこの子に教わる事ばかりだった。
ももこを通して今まで置き去りにしてきた大切な事を、改めて大切な事として自分の中に収めることができた。

親というのは、子どもに食事と衣服、過ごしやすい環境を与えるだけで、本当はこどもから教わることの方が多いものなのだということを、私は日々感じながら過ごしてきた。
子どもの言葉に耳を傾けると、そこには思いもよらない視点があることに気付く。
大人だから、親だから偉いことなんて一つもない。

🌸 余談
小学生6年生で行われた水泳記録会での選抜男女混合リレーのこと。ももこは隣のレーンで順番待ちをしていた他クラスの男子児童に「なんだオレの相手はももこか、楽勝だな。」と言われたが、ももこの泳ぎは彼の予想を見事に裏切る結果を出したのであった。


「ももこの幼稚園生活」はこれで終わります。
読んでくださってありがとうございました。
今後もももこシリーズは続けます。ももこの不思議な世界の話や、スピリチュアルに関する事も書いていきたいと思います。



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