自分用ざっくり音律の歴史

前提知識

音高とは,音波の持つ周波数fのことである.

音程とは,ある音の音高f_0を基準に,対象の音高fに対して q/[cent] =1200*lg(f / f_0) と定義されるqの値である(※lgは底を2とする対数).例えば12平均律A=440Hzでは,AとA#(絶対のラとラ#)の音程は q = 1200*lg((440*2^1/12)/440) [cent] = 100 centとなる(計算略).
人間は音程の感覚は対数的であることが知られているため(ヴェーバー-フェヒナーの法則),非常に扱いがしやすい.

人間は簡単な整数比の音高比を好む性質があり,そうでない音高比は嫌う性質がある.例えば2:3 (=702 cent)

音律とは,ある基準音に対して音程qを複数個定義した際のその全体集合である.
例えば12平均律は演算 + (mod1200)に対し<100 cent>が生成系となっている巡回群のことである.
いわゆる調律(ドレミの高さ)を決めるための決まりである.

離散音高(デジタル)楽器とは,音高を離散的にしか取ることができない楽器の総称である.例えばピアノ,クラリネットは離散音高楽器である.
対して,音高を連続的に取ることができる楽器の総称を連続音高(アナログ)楽器という.例えばヴァイオリンやトロンボーンは連続音高楽器である.

ルネサンス期まで: 主要な純正音程の発見と12音階の時代

ピタゴラス(BC582 - 496)は同じ力で張った弦を2つ用意し,これらの弦の長さを1:2,2:3といった簡単な整数比にして同時に鳴らすとよく響き合うことを発見した.特に1:2の比ではどちらも単音で聴くと同じような感覚を覚える(=オクターブ等価性)ことも発見した.その比から少し(数cent)外れるだけでも唸りが生じて不快な響きを発生することも同様である.ここから,長さを2/3し,もしも1/2以下だったら2倍する…という操作を繰り返すことで,ピタゴラス音律が発明された.ここでピタゴラスは2/3する操作を12回繰り返したとき,それがほとんど同じ音高であったことから,これと基準音を同じであると近似して位数12の巡回群とした.実際, 2^19=524288, 3^12= 531441であり, この誤差は約+23 centである.これをピタゴラスコンマという.
ピタゴラス音律は歴史上初めての音律であり,これが現代に続く12音律( C, C#, D…)の源流である.ルネサンス期,いわゆるクラシック以前まではほとんどピタゴラス音律が用いられていたようだ.実に2000年近く使われていたことになる.

さて,ピタゴラス音律には問題点がある.先程述べたピタゴラスコンマを含む音程を用いると強烈に唸ってしまうのである.まるで狼の鳴き声のように聞こえることからウルフ5度と呼ばれている.逆に,それ以外の音程はよく調和する.[wikiから引用]
ルネサンス期までは対位法(旋律をどう重ねると美しい音楽になるか,という理論)を用い,また転調などを行わない単純な構造の曲が多かったため,ウルフ5度の問題が表面化することなく,作曲者が避ければ良いというものだった.このため,ピタゴラス音律は長い間使われたのである.

バロック, ロマン時代: 扱いにくい純正律と妥協された音律たち

この時代になるとオルガンといった離散音程楽器が普及した.またポリフォニーは複雑化し,和声法の時代になりつつあった.
そんな中で生まれたのが5-limit純正律である.これは全ての元に対して全ての音程が素因数3, 5を用いて純正,要するに適正な音を選択すれば完全に協和する音程・和声を取ることができる,という理想的音律である.もちろんウルフの5度は存在しない.
しかし純正律にはとても大きな問題がある.離散音程楽器で用いる際には基準音が1つという制約がついてしまうため,転調したり,少し生成元の音から離れると非常に唸りが多くなってしまう.またこの制約を取っ払っても今度は無限に音高が存在することになり,とにかく扱いが難しい.
ここで数々の"妥協"された音律が考え出された.中全音律やヴェルクマイスター第一などはその例である.
こうすることによって,純正な響きをできるだけ保ちながら転調などが可能な音律がいくつも作られた(いわゆるウェル・テンぺラメント).

この頃の音律には不明なことも多いが,多様な音律が存在したため,演奏の一環として音律の選択も行っていた可能性があると推測されている[複合純正音律ピアノのすすめ 高橋彰彦 ].



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