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止まりだしたら走らない を読みました

読みました。

オムニバス形式で、電車を主軸としたお話です。それぞれの一話一話が短く、まさに一駅につきワンエピソードという感じでした。(私は部屋で一気読みしましたが)恐山さん本人が“Kindle版が安いよ”と宣伝されていたので購入。宣伝がかわいかったので購買意欲がさらに掻き立てられました。『自意識過剰』いいね。

登場人物がたくさん出てきます。年齢、職業も決まっていて情景が想像しやすい。特に私が気に入っている人物は 隅田伸二 という男。作中の人たち、みんな実際に居そうだけどなんか更にリアリティある。いいです。あと名前に四角形がたくさんあってかわいい。恐山さんのペンネームも四角形がたくさんあってかわいいです。この男は本編の二つのお話に出てきます。でも全員が全員作中で複数回登場するわけじゃないです。だから二度目に彼を見かけたときは嬉しかった。一度目は彼の主観でお話が進んでいくんですけど二度目の登場では別視点となり、彼は背景として馴染んでいます。そこがいい。そこがこの本の好きなところ。主観と客観が明確に分かれているので、読み進めるうちにその人物像がいろんな角度から出来上がります。最終章のテーマの伏線ともとれるかも。

さっき全員が複数回登場するわけじゃないって言ったけど、それらは全く脈略がないわけじゃなくてちゃんと繋がっている。例えば、飛び降り自殺とガイジンさん。この二つのエピソード、登場人物は別だけど 電車に対する信頼 というキーワードがエピソードのつなぎ目となっています。隅田伸二も内一つに出てくる。ストーリー自体は別物だけど完全に独立はしてない。水をたっぷり染み込ませた水彩絵具を垂らしたときの滲みがたくさん繋がったような、そんな感じです。

実はこの話、オムニバスだと言ったけれど長編もあります。長編だけどオムニバス形式。Kindle版はそのエピソードだけカラーだった。電子書籍限定なのかな。日常的に何気なく考えていることが活字として印刷されている様を読むのが楽しい。あーそうそう、こんな感じ。意識しないと自分の中に長く留まらない感情を捕まえてくれている。ありがたい。長編は、ずっと目的がわからないままストーリーが進んでいくんですけれど最終章で全部分かる。すごくすてきでした。視点が切り替わるタイミングもなるほどね、だからか、となる。

知らなかった恐山さんの一面を覗けました。表紙のイラスト、今のマスクの柄なの、こういうのとてもうれしいです。作品本編はほんとに1人で書いたのか?多重人格の持ち主では…という具合にいろんな生き方が集約されてる。ラジオじゃヨーグルトの上澄みだとか言ってたじゃんか……さらなる深みにハマった気がする。彼の魅力、底知れず。最高。大人の立場に切り替わった出来事(ほぼ無理強いだけど)を常に噛み締めながら生きるデマカセ大学院生も、タバコだけは無意識に今も続けるフリーターもみんな優勝です。

いつか紙媒体でも読みたい、挿絵がたくさんあるみたいだし。絵も文体にあっていてとても素敵です。これ都民だったらもっと楽しめるんだろな…本書と対応させながら移動したいです。

もし、機会があれば。

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