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アッズーリ、そしてジジ、今まで本当にありがとう

イタリア代表が負けた。

アッズーリがこのタイミングで敗退することを全く想定していなかったわけではなかった。プレーオフ行きが決まったときから、ワールドカップに行くことなく敗退するのではないかという気持ちはどこかにあった。そしてもしそうなったら、ヴェントゥーラ監督やFIGCに対して、とてつもない怒りと憎しみを抱くのではないかと思っていた。しかし、実際に敗退が決まったとき、そういった感情は全く湧かなかった。むしろ、自分が抱いたのは虚無感だった。

アッズーリに心を奪われた日のことを今でもよく覚えている。1998年ワールドカップのイタリア対フランスの試合だ。結局この試合はPK戦の末フランスが勝利するのだが、延長戦を含めた120分間に渡りゴールを無失点に抑えたアッズーリのカテナッチオは、当時まだ小学校に上がったばかりの私にとって、難しいことは何もわからなくても衝撃的で、ただただ魅了された。

2001年に日本代表がイタリア相手に引き分けた試合の次の日、「イタリアは手を抜いてたんだ」と主張したことで、友達と殴り合いの大喧嘩をしていたことがあった。その頃には立派なアッズーリファンになっていたのか。2002年のワールドカップでももちろんアッズーリを応援した。韓国戦での敗退で、世の中には理不尽なことで溢れているんだ、ということを生まれて初めて経験した。なお、その4年後にはユヴェントスでさらなる理不尽を経験することになる。理不尽なんかではないという意見が特にミラノ方面からあるかもしれないが、それはさておき。

2002年のワールドカップ以降は、試合スケジュールをキチンとチェックし、ワールドカップ、EURO、それぞれの予選、親善試合、ほぼ欠かさずアッズーリの試合を見て、応援した。ワールドカップを優勝したときは本当に嬉しかった。2006年頃まで、ただただアッズーリというチームが大好きだった。その頃はユヴェントスについても、アッズーリの選手がたくさん所属しているチームだから好き、といったほうが正しかったと思う。

2006年にトッティとカンナヴァーロが、2010年はデルピエロやインザーギが選考外となり、大会後にはガットゥーゾが去り、2014年のワールドカップでピルロも代表を引退した。僕が心を奪われた2000年代前半のアッズーリの選手たちが、ワールドカップごとに少しずついなくなっていった。彼らの代わりに新しい魅力的な選手が次々とチームに加わった。ユーヴェでもおなじみのBBCトリオやマルキージオなどもいて、デ・ロッシも残っていて、カンドレーヴァやフロレンツィも好きな選手だし、自分のアッズーリに対する気持ちはこれからもずっと続いていくと思ってた。

しかし、プレーオフでスウェーデンに敗れ、ブッフォン、そしてデ・ロッシ、バルツァーリが引退を表明した瞬間、私の中で何かが消えてしまった。評論家気質の強い自分からアッズーリはこう変わらないといけない、FIGCはこの人を監督に連れてきたほうが良い、育成システムを見直さないと・・・といった思いや意見が何も出てこない。長年チームを支えてきたブッフォンやデ・ロッシ、バルツァーリ、そしておそらくキエッリーニ、もしかするとマルキージオまでもがいなくなり、EUROすらも勝てない本格的な暗黒時代に突入するかもしれないアッズーリだが、なんとかして復活してほしいという感情が1ミリも湧かない。そうか、フランス代表やアルゼンチン代表の動向が全然気にならないのと同じように、「イタリア代表」も完全に他人になってしまったのか。もう自分の愛していたアッズーリはいないんだ。「アッズーリ」はもう思い出の中にしか存在せず、「イタリア代表」がこの先続いていくだけなんだ。

思えば、2000年頃まではまだ10歳とかだったので、パリュウカやトルドのアッズーリをあまり見た記憶がない。私の大好きだったアッズーリには、必ずブッフォンがいた。ブッフォンこそがアッズーリそのものだった。そんなブッフォンが、アッズーリを去った瞬間、私にとってアッズーリがイタリア代表になってしまったのだろう。

憎しみや怒り、後悔は全くない。今、心の中にあるのは20年という長い時間に渡って素晴らしいサッカーを見せてくれたアッズーリへの感謝、もう自分が愛していたアッズーリがいなくなったことへの虚無感、そして愛していたものが思い出の存在となってしまったことへの悲しさだけが残っている。

アッズーリ、今まで本当にありがとう。ワールドカップの優勝はもちろんだけど、2012年にドイツに勝った試合、2016年にスペインに勝った試合、そういう一つ一つの試合の勝利も、ワールドカップの優勝と同じくらい嬉しかった。

ブッフォン、今まで本当にありがとう。僕の愛していたアッズーリの守護神はずっとあなたでした。ありがとう。

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