ハリルホジッチを電撃解任した日本サッカー協会は別に腐ってないと思う

4月9日、ワールドカップ本番まであと2ヶ月を切ろうとしているタイミングで、ハリルホジッチが解任された。後任には、ガンバ大阪などでかつて指揮をとり、現在は日本代表の技術委員長を務めてきた西野朗が選ばれた。

夕方には日本サッカー協会 田嶋会長の会見が行われ、今回の経緯について決裁をとった当人の口から説明がされた。要点は、多少会見とは違う文言はあるが下記の通り。

ハリルボジッチと選手の信頼関係が薄れていたことが今回の解任の理由である。先日のウクライナ戦、マリ戦を経て、この関係性はもはや取り返しのつかないものになってしまった。

後任に西野朗を選んだのは、今までサッカー協会のメンバーとしてやってきていて、ハリルホジッチの作ってきた日本代表のサッカーに理解があるから。


これに対してネットで色んな意見を見てると下記のようなものがある。

①ハリルボジッチは本番型の監督である。オーストラリア戦などの「本番」では結果を残してきた。練習試合の結果をキッカケとして解任は理解できない。

②ここまでハリルボジッチと一緒にやってきたんだから、最後までやるべき。ワールドカップをハリルホジッチと戦い、失敗をしたらその失敗体験を振り返り、次に繋げないといけなかった。ここで解任したら何も残らないし、何も得られない。

③日本サッカー協会の腐敗が見て取れる。電通を忖度して、言うことを聞ける人を監督にしたのであろう。ワールドカップで惨敗したら「準備期間が足らなかった」、成功したら英断となる。日本サッカー協会は責任を取らない。


僕は、今回これらの反論には全く同意できない。当然、③の反論のように、サッカーとは関係ない商業的な理由で今回の決断がされたのなら問題だとは思うが、それはさすがに推測の域を出ない。あくまでも今回は、選手との信頼関係を失い、練習試合とは言え結果を残せなかった彼を、直前ではあるが見切りをつけた上での協会の決断である。

選手との信頼関係がない監督というのが、代表チーム、クラブチームに限らず様々なところで出てくるが、この状態に陥ったチームは本当に酷いものである。そして、これには運が大きく関わる。監督の力量以上に、運がものをいうかもしれない。最近の例で言えば、現セビージャ監督のモンテッラ。彼は今シーズンの前半はACミランを指揮していたが、結果を全く残せず、キャプテンのボヌッチを始め選手からの信頼を失い、最後は解任された。そして解任後に抜擢されたセビージャで、マンチェスターユナイテッドを撃破した。今月に入ってからもバルセロナとバイエルンを相手に善戦をしている。彼は決してダメな監督ではない。キチンとした戦術眼も持っていて、選手のモチベーションコントロールもできる。新生ACミランの門出として、十分に相応しい人であった。しかし彼は不運にもそのときの環境に合わず、結果を残せず、選手の信頼を失い、解任されたのである。
話は少し逸れたが、選手からの信頼を失った監督では、成功は難しい。そして「本番型」の監督であるハリルホジッチが、本番前に信頼を回復する機会はもう残されていなかった。そんな彼に、大会が始まる前に見切りをつけ、解任を決めたのは英断と言えるのではないだろうか。


そして後任について。
田嶋会長は西野朗を後任に選んだ理由を「1%でもワールドカップに勝つ可能性を上げるため」と会見で述べた。ハリルボジッチが3年間でやってきたことを、技術委員長として見てきた西野朗なら上手く生かすことができ、加えてハリルホジッチにはなかった選手との信頼も手に入れられるだろうという判断だ。

ここで日本代表にどんな道が残されていたのかを整理したい。日本代表にはワールドカップを戦う監督について、三つの選択肢があった。

1つ目は、3年間で築き上げてきたサッカーをできるが、選手の信頼はない監督。

2つ目は、3年間で築き上げてきたサッカーの模倣ができて、選手の信頼をこれから得られると期待できる監督。

3つ目は、今までのサッカーを完全にリセットして、選手の信頼をこれから得られると期待できる監督。

この3つの選択肢の中で、日本サッカー協会は2つ目を選んだ。僕は、この決断はとても正しいものであったと思っている。まずは先に述べたように、選手との信頼関係がない監督は、どれだけ優秀であっても結果を残すことは難しい。そして、3つ目の選択肢のように、今まで築き上げてきたものを完全に捨ててしまい、たった2ヶ月しかない中でゼロから作り上げていくのも非常にリスクが高い。であるなら、今回2つ目の選択肢を選び、そしてきちんと西野朗を説得して呼び込んできた協会は、良い働きをした、というのが僕の意見である。

最後にもう一つ、言いたいことがある。それは、今まで一緒に頑張ってきたハリルホジッチと「心中」して、ちゃんと「ケジメ」を取り、失敗体験を反省をして、次に繋げて欲しい、という意見に僕は断固として反対の立場をとる。「心中」と「ケジメ」が果たして何に繋がるというのか。日本らしく、最後に「辞任」をして、後任に任せれば良いのだろうか。それを「ケジメを取る」と言えるのだろうか。そもそも今まで心中とケジメによって、次に繋がったことがあったのだろうか。そして、心中とケジメというよくわからないもののために、4年に1度しかないワールドカップを使っていいのだろうか。

選手の信頼が得られておらず、成功することが低いと見込んだ監督と、3年間一緒にやってきたという理由だけで本番を戦い、むげに失敗に行く筋合いなどない。仁義を通すという話であれば、はるばるフランスまで足を運び、直々にハリルホジッチに今回の経緯を謝罪し、解任の旨を伝えた時点で十分通せているはずだ。日本サッカー協会が担うべき責任は、ハリルホジッチと戦うことではなく、目前に迫ったワールドカップで勝利することと、将来の日本サッカーをより良いものにしていくことの二つである。であるならば、まず第一の責任を果たすためにハリルホジッチを解任し、1%でも勝つ可能性が高い西野朗を招聘したことは評価に値する。


とはいえ、僕は今回の日本サッカー協会の決断すべてに賛同しているわけではない。

最も賛同できなかったのが、西野朗がワールドカップまでの暫定政権であるということ。ほとんどすべての代表チームはワールドカップを軸に戦っている。それは日本代表も同じだろう。ワールドカップでベスト16の壁を破ることが、日本代表にとっては一つの大きな目標であるはずだ。そして、今回その目標を「計画的に」達成させる可能性は万に一つもなくなった。協会は、ハリルホジッチでハリルホジッチ流のサッカーをすることよりも、西野朗でハリルホジッチ風のサッカーをすることを選択したわけだが、それでたとえ結果を残せたとしても、これでは2002年以来の目標をついに達成できたと胸を張って言うことはできない。計画的な目標達成ではなく、偶然による目標成功だからである。であるなら、僕は今回、2022年を見据えた監督人事を期待していた。先に挙げた日本サッカー協会の2つの責任に対して、「将来の日本サッカーをより良いものにしていくこと」に重きを置いた人事である。2022年を戦う人間が無謀であろうと今回ワールドカップに挑戦し、この大会が持つ独特の空気感を肌で感じ、それを踏まえてアジアカップ、ワールドカップ予選と着実に進んでいくようなストーリーもあったのではないだろうか。その方が2018年のワールドカップをより有意義にすることもできたと思う。

しかし、それをするにはやはり、今回の解任のタイミングは遅すぎた。ワールドカップ予選で首位通過をしたという結果が、タイミングを遅くさせたのだろうか。協会がハリルホジッチを選んだことの責任を先延ばしにしてしまった部分もあったかもしれない。もう少し早く、できればJリーグがまだ開幕してない1月・2月頃に決断ができていれば、西野朗以外の選択肢もあったはずだ。


とはいえ、もうこれは決まったことである。多くのサッカーファンの批判を当然覚悟した上での日本サッカー協会の今回の英断が、良い方に転ぶことを切に願う。

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