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アンティークの蘊蓄 ーパール篇-


こんばんは。
もし、日本のどこかの街角でレポーターが
「国民的宝石と言えば?」と聞けば、
きっと「パール」と大多数の方が答えるでしょう。
『パール』とネットで検索すれば、情報量は宝石の中でトップかもしれません。
そのくらい身近なパール。
今やいろんな『パール』がありますが、
本来は
『宝石のパールは養殖で作られるもの』では無かったのです。

少なくとも
1924年に決着したパリ真珠裁判で
『養殖真珠も天然物と変わらない』というお墨付きの判決を得て、
養殖真珠の存在を後押しされる以前は。

今回もアンティーク、そしてちょっとイギリスの内容に絞り込んで
お話します。


パールはダイヤモンドより希少で価値が高かった


パールは世界最古の宝石と言われています。
御木本幸吉氏が養殖真珠の発明に成功する以前は、貝を1000個開けて探して、一粒の小さいパールを見つけられるか否か。

ところで皆さんは
『天然真珠(ナチュラルパール)』と
『養殖真珠(カルチャードパール)』の違いをご存じですか?


天然真珠(ナチュラルパール)の希少性

忘れられない写真の記憶


随分前に目にした、セピア色の写真。
10才くらいのの少年が、両手で水をすくう様なポーズで何かを大事そうに持ってカメラに向けて手の中を見せていました。
彼の後ろには、平屋の屋根くらいの高さの大きな砂山みたいな物体が。
まるでそこはセメント工場であるかの様でした。

解説によると、彼が手にしているのは、やっとこさ探し当てたパール。
彼の手元を見ると、白い小さな粒が少し。
その後ろの砂山のような物体はパールを探した貝殻の残骸。

こんなに沢山の貝殻の中から、たったこれっぽちしかパールは取れない…
ナチュラルパールの希少性を伝えるには、私にとって充分な資料でした。

カルティエのNY支店の土地 = 天然パールの二連ネックレス!?

いきなり引用で失礼します。

ニューヨークにロヴェンスキーという名前の大富豪の夫人がいた。彼女は真珠の愛好家であったが、カルティエのニューヨーク支店のショウ・ウインドウに展示されていた見事な天然真珠55個と73個からなる二連の首飾りに魅せられてしまい、1916年、とうとう自分が五番街に所有していたビルの一つとその首飾りを交換してしまった。ところがその数年後に出現した養殖真珠のおかげで、首飾りの価値は大きく低下してしまい、一方ビルの方は現在カルティエのニューヨーク支店となっている。

『ジュエリーの世界史』山口 遼薯  新潮文庫 より抜粋


 

当時の天然パールと現在のパールの価値の違いを語るのに、
これほどわかりやすい例はないと思います。驚愕です。
この山口 遼先生の著書 
初版2016年と比較的最近の本です。お勧めです♡

エリザベス1世の肖像画も証明

エリザベス1世(1533~1603)
『イギリスは女王の時代に栄える』根拠の女王のおひとり。
袖にもパールが縫い付けてあります。
まさに富と権力の象徴
余談ですが、犬用の『エリザベスカラー』は彼女の首周りのレースが由来。

ご覧ください。このパール尽くしのお姿を。
もちろんこの時代には、養殖真珠はおろか、ガラスパールなどの模造品もありません。
それよりこの肖像画を見ると、ダイヤモンドとルビーらしきものが、探せば見つかる程度で他すべてパール。

エリザベス1世は、即位後29才の時に天然痘に罹患し、顔はもちろん全身に、瘢痕(膿疱の跡)が残ったのでそれを隠すために、常に白塗りメイクだったそうです。

私の主観ですが、彼女はパールを権力の象徴としてだけではなく、顔の近くにもってくることで、お肌をキレイにみせるために纏っていたのではないでしょうか。
というのは、歴代の女王や妃の肖像画を見る比べると、エリザベス1世の時代の前は色石と金細工の組み合わせ、後は大粒のパールのチョーカーが主ですが、エリザベス1世の多くの肖像画は、パールの使い方が特徴的だと思いました。

私は派手さはないけれど内側からボヮッと滲み出る天然真珠の美しさには、養殖真珠はかなわないと思っています。
何が言いたいのかというと、もし
この肖像画のパールすべてが養殖真珠だったら、たとえどんなに最高級の養殖真珠であっても、華やか過ぎて食傷気味になってしまうと思うのです。

タイムトリップして、この天然真珠尽くしのお姿一目見てみたいです❤

女王の様に遠くから見られる人は、ダイヤモンドよりもパールの方が輪郭がはっきり出て、良いと思っています。
特に写真を撮られる時はパールが一番!レフ版効果ですね。

エリザベス2世とダイアナ元妃

そういえば一昨年崩御されたエリザベス2世、そしてダイアナ元妃も真珠をこよなく愛していらっしゃいましたね。

エリザベス2世
(1926~2022)
崩御の約半年前の
プラチナジュビリーの時のお写真。
とても96才のお姿に見えません。
父王ジョージ6世、祖父王ジョージ5世から誕生日など折に触れて、
パールを2粒ずつプレゼントをされていたそうです。
それがこのネックレスになったのでしょうか。
よくお召しになっていらっしゃいました。
今はキャサリン妃の元へ。
お守りください。

女王といえば
「私は皆さんすべての前に誓います。私の生涯が長くても短くても、そのすべてをあなた方と、私たちみんなが帰属する、偉大な英帝国のために尽くします」
(1947年4月21日、21歳の誕生日に、南アフリカ・ケープタウンで行った英連邦諸国に向けたラジオ演説で)

映画やTVでこのビデオを何度観たことか。お声が脳裏に残っています。

そして、ダイアナ元妃。
もう彼女にかかっては、真珠の種類なんてどっちでもいい。

ダイアナ元妃(1961~1997))
このドッグネックレスをよく着けていました。
気品と美貌
まさに英国の薔薇


さて、
エリザベス2世、ダイアナ元妃の後は、
弊社の天然真珠を使った、ネックレスをご紹介します。

こちらは表題の写真と同じ品。
1920年頃のお品です。
まさにエドワーディアンとアールデコの境目。
境目というのは、新しいデザインを生み出そうという気概が感じられる良い作品が多いです。
この辺りの蘊蓄は、話し出すと止まらなくなるので、またの機会に(苦笑)

私の写真の腕では、このパールの美しさをお伝えできなくてすみません。
是非直接見にいらしてください。
着けるとしなやかに揺れるのです♡
一目惚れのお品物です。
上の写真の天然真珠の鑑別書とカード
お買い上げ時にお付けしています。。



ハーフパールとは

さて、ここまで天然真珠の希少性について、しつこくお話ししてきましたので、ここからは、アンティークならではのハーフパールについてです。


天然真珠のオンパレード
ハーフパール、又は一粒使ってあるものも。

天然真珠は、貝の中に異物(小さな砂や寄生虫等)が入り込んだりすると、
貝の中の外皮の一部がそれを取り囲んで、それを核として貝殻と同様の組織の真珠層が何年もかけて巻きつけて厚くなる。
言わば、ほぼ全てが真珠層です。
だからしっとり美しい。
対して
養殖真珠をつくるためには、アコヤ貝の中に核となるものを入れて、
当初は4年程海に入れて巻きを厚くして、海水から引き揚げました。
今は7か月程度ですぐ引き上げる物が多いので、巻きが薄いそうです。

ハーフパールは、高価な天然真珠だからこそ発展した工法。
核が無い(または極小さい)ので、一つのパールを二つに割って、
それぞれをジュエリーの台座にしっかり留めたのです。
よくきれいに割れたものですよね。

上の写真のパール達、みんな粒が小さいですよね。
天然の場合は、小さくても色と大きさを揃えて、丁寧に半分にカットして…
今ならそんな面倒なことをしなくても、芥子パールなんていくらでも手に入ります。
自然の産物なので、大きくなると形が歪になりやすいです。
さらに大きくなると異物感も際立って、貝が体外に排出しようとして台無しになったり。
養殖でも、大きい核を入れた成功率は低くなるから、価格も上がるのでしょう。

ハッとすること。あれこれ。


①他の宝石はカットする作業があるけれど、パールは唯一、
貝から取り出した時点から美しい。

②他の宝石は人工で作ると〖合成〗、英語では『synthetic シンセティック』と呼ばれます。
パールについては、『養殖』英語では『caltured カルチャード』いかに別格の発明だったことがわかりますね。

私は長らく接客で「養殖に『成功』」と表現していましたが、
『発明』だったと知ったのは随分経ってからです。

御木本幸吉は、あの発明王のエジソンを最も尊敬していました。彼はニューヨークにあるエジソンの自宅を訪ねた際、美しい養殖真珠をエジソンにプレゼントをし、発明した技術について説明をしました。
エジソンは
「私の研究所でできなかったことが二つある。それは、ダイヤモンドと真珠である。あなたの発明は世界の驚異です」と御木本を讃えた。
御木本は即座に「いいえ、あなたが発明界の月ならば、私は数多い星のひとつにすぎません」と答えた。

『真珠王  御木本幸吉』 三重県 より抜粋

あのエジソンと同じ時代を生きていたのですね。

ちなみに、以前ミキモトさんもアンティークを扱っていました(現在は不明)。
若かりし頃、お店で気に入ったアンティークを見たくても、店員さんに「見せてほしい」なんて、おじけづいて言い出せなかった20代の私。
初ジュエリーが御木本真珠島で買ったブローチだったからか
「ミキモトなら、きちんとした服装で行けば大丈夫かも?」
っとドキドキしながら銀座本店へ行きました。
とても丁寧なご対応で嬉しかったことを、いまでもはっきり覚えています♡ 萩原様その節はありがとうございました^^

いい接客をしていただくと、そのオーラが受け手に引き継がれるように思います。


最後はこちら
真珠の母貝をカットして、そこに天然真珠の(芥子パール)に穴をあけて
テグスや白馬のしっぽの毛で留める。
こちらはボタンだったものに、ペンダント加工をした私のお気に入り。
この工法の大作は、今やミュージアム・ピースものです。
ただし、このタイプの品は壊れたら修復が不可能なので、コレクションとされた方が良いと思います。


 

いかがでしたでしょうか?
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
皆様のジュエリー・ライフに少しでもお役に立てれば嬉しいです。


アンティークス ミキ
黒田 美紀


https://www.antiquesmiki.com

https://www.instagram.com/antiques.miki/


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