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名作を訪ねる(4)

第4回

第4回はプルーフゲームを紹介します。
プルーフゲームは、レトロとよばれるジャンルの一つで、実戦の初形から始めて与えられた図に至る手順を求めるものです。

このジャンルは橋本哲さんが世界的に有名な作家で、いくつもの新しいアイディアを含む作品や、既存のアイディアを深化させた作品を発表しています。

チェスの駒の動きを知っていれば誰でも解図に挑戦できることからチェスプロブレムを始められたばかりの方にも非常になじみやすく、それでいて奥の深いジャンルです。

Dmitri Pronkin, 1 Pr Die Schwalbe 1985

PG12.5 (2 sols.)

はじめに設定の説明をします。PG12.5とは「初形から始めて12.5手でこの局面に至る手順を求めよ」という意味です。(つまり図の局面は白の13手目の後の局面です)
なお、この作品はそのような手順が2つ存在する作品です。通常のプルーフゲームは解は1つですが、この作品は少し特殊で、相互に関係がある2つの解が存在するようになっています。

さて、プルーフゲームを考える時に、闇雲に解こうとしても途中で行き詰ってしまいます。道を歩くのに地図が必要なように、プルーフゲームを解くのにも方針を考えることが必要です。
多くの場合、ポーンの形と消えている駒を考えることで方針が見えてきます。

この作品の場合を考えてみましょう。黒の消えている駒はaポーンとナイトで、白の消えている駒はbポーンです。
そして、黒のポーンがf6にありますが、これは明らかにe7から移動したポーンです。つまり、ポーンで駒取りをしていることになります。

しかし、黒は何の駒を取ったのでしょうか?白の消えている駒を取っているはずですが、取った駒はあきらかに白のbポーンそのままではありません。なぜなら白のbポーンはf6に行くまでに3回駒取りをしないといけないためで、黒の駒は2つしか消えていないためです。

行き詰ってしまったようですが、ここでチェスのルールを思い出しましょう。白のポーンは他の駒になることができるのです。
それでは白のポーンがプロモーションしてf6に行ったのでしょうか。少し手を動かしてみると、それも難しそうであることがわかります。(頑張れば論理的に不可能であることがわかるかもしれないですが省略させてください)
白のbポーンがプロモーションするとなると(取れる黒の駒が最大でも2つしかないことから)それはa,bファイルのいずれかになりますが、そこからf6に黒の手と干渉せずにうまく駒を運ぶことができなさそうです。

万策尽きたようですが、最後の手段がありました。ぜひ並べてみてください。


1.b4 Sf6 2.Bb2 Se4 3.Bf6! exf6 4.b5 Qe7 5.b6 Qa3 6.bxa7 Bc5 7.axb8=B Ra6 8.Ba7 Rd6 9.Bb6 Kd8 10.Ba5 b6 11.Bc3 Bb7 12.Bb2 Kc8 13.Bc1
1.Sc3 Sf6 2.Sd5 Se4 3.Sf6+! exf6 4.b4 Qe7 5.b5 Qa3 6.b6 Bc5 7.bxa7 b6 8.axb8=S Bb7 9.Sa6 O-O-O 10.Sb4 Rde8 11.Sd5 Re6 12.Sc3 Rd6 13.Sb1

白はピースをf6に捨てた後、ポーンがプロモーションして同じ駒になり、元の位置に戻っていきます。
このような、プロモーションとスイッチバックを組み合わせたテーマは作者名からPronkinと呼ばれています。ポーンのプロモーションのテーマはPronkinのほかにCeriani-Frolkinとよばれるもの(プロモーションした駒が取られる)もあり、組み合わせや回数に現在でも工夫が凝らされています。

黒の手順や白のナイト、ビショップのルートが見事に限定されています(特に2回目の9.Sa6は美しく、9.Sc6? O-O-O??となるため黒の手を邪魔しない位置ということでa6に決まります)

次回予定

第5回はフェアリー作品から、フェアリーチェスの父Dawsonの作品を紹介したいと思います。

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