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名作を訪ねる(2)

第2回はヘルプメイトです。ヘルプメイトは白黒が協力して指定手順で黒Kをメイトにする手順を探すものです。

第2回

ヘルプメイトの過去の名作を紹介するにあたり、一つの困難があります。それは、「良い」ヘルプメイトの形式の判断基準が時代により移り変わってきたということです。

Chris Featherによれば、ヘルプメイトは19世紀に考え出された形式であるとされています。最初期のヘルプメイトは、黒Kをメイトにする手順が一通りしかないものでした。
これはダイレクトメイトなどを考えれば容易に理解しえます。つまり、複数解を持つものはすべて余詰(cook)だ、とする考え方です。

しかし、このような方向性は早々に行き詰ります。そこで考え出されたものが、Set playの利用でした。
Set playを利用したヘルプメイトは、
・指定手順(例えば、黒→白→黒→白)で黒Kをメイトにする。
・指定手順より0.5手少ない手順(上記の例でいえば、白→黒→白)で黒Kをメイトにする。
の2解を探すものとなります。そして、その2解が異なっていると面白い、と考えられるようになったのです。

Set playの利用も豊饒な可能性を持つものではありませんでした。Chris Featherは著書の中で、Set Playを利用したヘルプメイトの新作で面白いものは今後出にくいだろう、という趣旨のことを言っています。(個人の意見としてはまだSet play利用には可能性があると思いますが)

そのあとに登場したのがTwinの利用でした。これは盤面図を一部変えることで異なった手順を現出させる手法で、これによりヘルプメイトは様々な可能性を得ることになります。
さらに、複数解の作品が余詰とみなされないようになりました。複数解の作品においては、解同士の関連性が極めて重視されます。つまり、ある解と他の解の手の意味が全て対応しているときに、そのヘルプメイトは「良い」ヘルプメイトであるとみなされます。
現代はさらにそれを推し進めたHelpmate of the Future (HOTF)と呼ばれる作品群が最先端であるとされています。
現代においては、この解の関連性(Analogy)と全体的な調和(Harmony)がヘルプメイトの美の根幹をなすとみなされています。

本連載ではなるべく現代の目線で見ても面白い過去のヘルプメイトを紹介します。

Zoltan Zilahi, 1st Prize, Problem, 1956

H#2 (Set play)

これはH#2のSet Play利用なので、
・指定手順(例えば、黒→白→黒→白)で黒Kをメイトにする。
・指定手順より0.5手少ない手順(白→黒→白)で黒Kをメイトにする。
の2解を探すものです。解を見つけるのはそれほど難しくなく、テーマも明快です。


Set 1…h6 2.exf6 Sxf6#
1.Rxh7 fxe7 2.Kh8 exf8=Q#

ここで注意したいのがメイトする駒と白の取られている駒の関係です。
Setでは白のPf6が取られ、ナイトでメイト。
一方で本手順では白のSh7が取られ、ポーン(プロモーションしてクイーンですが)でメイトになっています。
このような関係をZilahiと呼び、ヘルプメイトでは極めて一般的な形式です。

ただし現代的な目線では、駒取りの「意味」もそろっていることが好ましいとされます。
本作ではSetでの黒の駒取りは白のメイトする駒をその位置に運べるようにマス目を開けることが目的になっている一方、本手順の黒の駒取りは黒Kがh8に動けるようにRをh8から動かしながら、h7のマスに黒Kが動けないようにブロックすることが目的になっています。この意味付けの違いは現代的に見るとflawとみなされるのですが、本作を責めるよりもむしろこの作品から70年近くを経た現代におけるヘルプメイトの発展(その背景にはコンピュータの発展もあります)を称賛するべきでしょう。

次回予定

次回はセルフメイトの予定です。Fata Morganaを紹介します。


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