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名作を訪ねる(5)

第5回

第5回はフェアリー入門です。「フェアリー」が意味するところは幅広いので、まずはこの記事では「通常の(現代ではFIDEのLaws of Chessで規定される)チェスのルールに変更を加えたもの」あるいは「通常のチェスの目的に変更を加えたもの」をフェアリー要素と考えます。
このようなフェアリー要素が加わったチェスプロブレムをフェアリープロブレム(略してフェアリーとも)と呼びます。

そうなると、第2回・第3回で紹介したようなヘルプメイト・セルフメイトもフェアリーに含まれるのではないかという考え方もできます。事実、ヘルプメイトやセルフメイトはかつてフェアリーに含まれていました(現在でも、フェアリープロブレム専門誌のfeenschach(ドイツ)はヘルプメイト・セルフメイトも扱っています)。しかし、今日ではヘルプメイト・セルフメイトは広く人口に膾炙したため、フェアリーとして扱われないのが一般的です。

さて、フェアリー要素にはどのようなものがあるでしょうか。たとえば、

  • フェアリー駒。今回紹介するNightriderや、Grasshopper(駒を飛び越える)、Neutral pieceなど。

  • フェアリー盤。サイズが異なる盤や、シリンダー盤、トーラス盤など。

  • フェアリー条件。「取られた駒が初期位置に再生する」(Circe)など。

などがあります。さらに新しいフェアリー要素を作ることもできるので(世界大会の創作競技会のシリーズであるJapanese Sake Tourneyでは例年新しいフェアリー要素が導入されています)、実質的には想像力が尽きない限りどのようなフェアリー要素でも使うことができます。

Thomas R. Dawson, Die Schwalbe 1925

#3
c2,e2,h2 Nightrider

白先3手メイト。
今日紹介する駒はNightriderです。Nightriderは、ナイトの動きを拡張した駒であり、厳密には以下のように動きます。(誤りがあればご指摘ください)
現在位置を左下を$${0,0}$$とし、1マスを単位ベクトルとする座標系として$${(a,b)}$$とするとき、ある0以外の整数を$${k}$$として$${(a+k,b+2k)}$$、$${(a+k,b-2k)}$$、$${(a+2k, b+k)}$$、$${(a+2k, b-k)}$$で示されるマスのいずれかを移動候補とする。移動候補に対して、その移動に使う式を$${F(a,b,k)}$$とおく。$${k}$$が正のとき$${ 0 < m < k }$$、kが負のとき$${k < m < 0}$$を満たすようなすべての$${m}$$に対して、$${F(a,b,m)}$$に駒が存在しないとき、$${F(a,b,k)}$$に移動できる。

厳密に書こうとするとややこしくなりますので、上記の図で例を説明します。c2にいるNightriderが移動できるのはa1,a3,e1,e3,g4(駒取り),d4です。ここでポイントになるのは、b4,e6に行けないのはもちろん、a6,f8にも行けないということです(経路上の着地地点に駒がある場合はその先に行けない)。

このような駒を使って何ができるかを作品から見ていきましょう。ちなみに、ナイトライダーは符号でNと表します。一方でナイトはSと表すのでご注意ください。(チェスプロブレムにおける慣習です)

現状、1.Rxe6、1.Sb5、1.Rc6はすべて防がれてしまうことに注意してください。それぞれ、1…Nc2xe6、1…Nh2xb5、1…Ne2xc6で防げます。
初手は3つのNightriderの効きの交点に捨てる1.d4!です。2.dxc5、2.Rxe6、2.Sb5、2.Rc6のスレットがついています。
これを防ぐためには、黒は3つあるNightriderの一つでd4のポーンを取らないといけません。
1…Nexd4であれば、2.Rxe6+とします。これを黒は先ほどのように2…Nc2xe6と取れないことにご注意ください。黒は2…Nd4xe6と取らざるを得ず、これで3.Rc6#でメイトになります。このように、同種の駒の効きが重なることで黒は不本意な駒取りを強いられるわけですが、このような動きを主眼とするテーマをPlachuttaと呼びます。

解は以下にまとめますが、すべてPlachuttaになっていることを確認ください。
1.d4!
1…Nexd4 2.Rxe6+ Nxe6 3.Rc6#
1…Ncxd4 2.Sb5+ Nxb5 3.Rxe6#
1…Nhxd4 2.Rc6+ Nxc6 3.Sb5#

注目したいのは白の2-3手目です。Rxe6, Rc6, Sb5がサイクルのように登場しているのがわかるでしょうか。このような手順を作るために、NightriderのPlachuttaを利用しています。

次回予定

次回はエンドゲームスタディを予定しています。

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