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チェスプロブレム解答入門(3) 解の書き方・その他補足事項

はじめに

第1回 図面の読み方
第2回 設定
第3回 解の書き方・その他補足事項

第1回、第2回の連載で、図面の意味および設定の意味を紹介しました。それらがわかれば、原理的には問題を見て「どのような課題を解かないといけないか」を理解することができます。第3回は、課題を解いた結果を解答用紙に書く際の書き方について主に記載します。また、これまでの連載で書き洩らした内容についても補足します。

解の書き方

プロブレムの解答競技では、問題を解いた結果を解答用紙に書くことになります。(中学/高校以降の数学の問題の解答用紙をイメージしていただければ最も近いと思います)
各設定ごとに、解の書き方を紹介します。なお、各解答には部分点がつくこともあります。

1. Endgame

エンドゲームでは、理論的に勝ち/引き分けになるまでの手順を記載します。もっとも重要な変化(メインラインといいます)と分岐を記載しますが、黒の手により分岐する複数変化のうちどれがメインラインかわからない場合はすべて書いておいてよいということになっています。
どこまで書くかというのは常に非常に難しい問題ですが、GM John Nunnによれば「書きすぎる方が書かなすぎるよりも良い」ということなので、長めに書くのが解答競技においては実践的であるようです。

2. Directmate, Selfmate

まず初手(Key moveといいます)を書きます。そして、初手に対して黒がパスしたときに設定の手数でメイトする手順(Threatといいます)があればそれを書きます。
そして、黒の手でThreatを防ぐような手があれば、その手に対して設定の手数でメイトする手順(Variationといいます)を書きます。
なお、ダイレクトメイトでは白の最終手およびその直前の黒の手は書かなくてもよく、セルフメイトでは黒の最終手は書かなくてもよいということになっています。これにより、#2は初手だけ書けばOKになっています。
また、設定の手数未満でメイトする手順は書かなくてもよいことになっています。
なお、「書かなくてもよい」というのは「書いてもよい」ということなので、すべて書いても減点対象にはなりません。

3. Helpmate

指定された解の個数だけ解を書きます。最終手まですべて書きます。

それでは、実際に出題された問題とその解答を見ながら確かめていきましょう。

実例

出典はすべてhttps://www.wfcc.ch/wp-content/uploads/ISC-2017-category-1-problems.pdfからの引用です。解答はhttps://www.wfcc.ch/wp-content/uploads/ISC-2017-category-1-solutions.pdfにあります。

Endgame(+) David Gurgenidze & Martin Minski, original for Magyar Sakkvilag, 2017

メインラインは1.Bf5+ Kd6+ 2. Kg6 d1=Q 3. Rd8 Rd7 4. Rxd7+ Ke5 5. Se1で、ここまで書けば満点です。
細かいサイドラインとして例えば1…Ke7 2. Bc2 Rd7 3. Se3のようなラインや、2…Rb2のようなラインもありますが、それは書かなくても問題ありません。ただし、どれがメインラインかわからない場合はすべて書くのが安全といえます。
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Directmate(#2) Roland Löwe, Freie Presse, 1986

ダイレクトメイトの2手の問題です。
解は1. Qd2!です。これは、黒が何もしなければ2. Qf4#のThreatがあります。
これに対して黒のディフェンスとして考えるのは、2. Qf4がメイトにならないような手です。1…Kd6/e3, 1…Se2/b3/b5/f3, 1…Se6とありますが、それぞれ2. Qxd4#, 2.Rxe7#, 2.Sf7#でメイトになります。
解としては、1. Qd2だけ書けば満点です。
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Directmate(#3) Allard Eerkes & Megchiel Schrader, 4th HM l'Echiquier belge/het Belgisch Schaakbord, 1984-1985

次にダイレクトメイトの3手の問題です。少し複雑になります。
初手は1. Qb1!です。これは、黒が何もしないと2. Sa6+ Rxa6 3. Qb4#というメイトがあります(これがThreatです)。
このメイトを受ける黒の手は6つありますが、それぞれが別のメイトを発生させます。
1…Rxb4 2. Qxb4#
1…Sxb1 2.Rd5#
1…Bb2 2. Rc4+ Bxc4 3. d4#
1…Rb2 2. Rd5+ Sxd5 3. d4#
1…Bxb5 2. Sd3+ Bxd3 3. Qb6#
1…Sc7 2. Qd3 (Threat: Rc4#) 2…Bxd3 3. Sxd3#

これを解に書くと以下になります。
1. Qb1 (2. Sa6+)
1…Bb2 2. Rc4+
1…Rb2 2. Rd5+
1…Bxb5 2. Sd3+
1…Sc7 2. Qd3

1…Rxb4と1…Sxb1の変化は2手でメイトになるので、書く必要はありません。
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Selfmate(S#3) Peter Sickinger, 1st HM Solidarity, 1986-1989

初手は1. Bxb7で、Threatは2. Qe8 Re1 3. Qe3+ Sxe3#です。
これを受ける手として1…Re1, 1…f6, 1…f5, 1…Bh7があります。同様に解を書くと以下のようになります。
1. Bxb7 (2. Qe8 Re1 3. Qe3+)
1…Re1 2. Sc6+ Ke4 3. Sxf2+
1…f6 2. Sb3+ Bxb3 3. Bc3+
1…f5 2. Sb3+ Bxb3 3. Bc3+
1…Bh7 2. Qd3+ Bxb3 3. e3+

黒の最終手は省略しています。
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Helpmate(H#3, 2 sol.) Fadil Abdurahmanovic & bernd ellinghoven, original 2017

H#3 2sol.なので、2つの解が存在します。以下のように書きます。
1. Rbb8 Rh7 2.Kb6 Bg7 3. Ka7 Bxd4#
1. Bb8 a4 2. Sc7 Kxh2 3. Sd5+ Rc7#
黒番の手から書き始めることにご注意ください。

補足

以上で、ほとんどの出題されたプロブレムは解くことができるはずですが、いくつか補足をします。

ヘルプメイトのTwinについて

ヘルプメイトの問題設定として、Twinと呼ばれるものが付いていることがあります。図面に、b) Kd6->Kc5 のように書かれているものです。

Christopher Jones, Original for ISC, 2017

これは、
・上記の局面図をH#6.5 1solの問題として解きなさい
・上記の局面図から、黒キングをd6からc5に移した局面についても、H#6.5 1solの問題として解きなさい
という意味を示します。
解答は以下のように書きます。
a) 1…Bxg4 2.d1=B Be6 3. Bg4 Bg8 4.Bf5 exf5 5. Bc6 f6 6. Bd7 f7 7. Ke6 f8=Q#
b) 1…Bxh1 Kd4 Kg2 3. Kxe4 Kg3+ 4. Ke3 Kxg4 5. Kf2 Be4 6. Kg1 Kf3 7. Kh1 Kf2#
何も変えない図面をa)として書き、Twinで指定された図面をb)として書きます。

Twin設定には他に、「駒を足す(Add wBc4や+wBc4とあったら、「白ビショップをc4に足せ」の意味です)」、「駒を減らす(Remove Bc4や-wBc4とあったら、「白ビショップをc4から除け」の意味です)」、「駒の位置を交換する(Exchange c4 d4や、c4<-->d4などと書かれます)」などがあります。

Threatがないダイレクトメイトについて

Threatがないダイレクトメイトが存在します。白の初手の後の局面がツークツワンクになるものです。
その場合の解の書き方としては、Threatは書かず、代わりに黒の可能なすべての手に対する変化を書くことになります。

Philip Leonard Rothenberg, American Chess Bulletin, 1942

#3 (14+9)

3手メイトですが、初手の1. Bg7にはスレットがありません。
よって、そのあとの局面で黒の可能なすべての手である、1…f6と1…f5について変化を書くことになります。
解を書くとしたら以下のようになります。
1. Bg7
1…f6 2. Bh8
1…f5 2. Be5
前者は2…f5 3.Qg7#、後者は2…dxe5 3. Qxe5#でメイトになります。

過去問など

https://www.wfcc.ch/competitions/solving/isc/で見ることができます。

以上で連載を終わります。追記・補足があれば随時行います。不明瞭な点・誤りの指摘を歓迎します。


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