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リアルミート&グリート/泡沫の夢編

 スズメの囀りと共に朗らかな朝日がカーテンの隙間からベッドを横切り、床に突っ伏すように寝ていた『味噌山コージィ(通称:コウジ)』の目元まで到達した。
 リアルミート&グリートの朝だ。

「あっ いっけねぇ!遅刻しちまぁ!」

 時刻は9時半を回ったところ。会場の頭狂(とうきょう)ダイナマイトまで自宅から電車を乗り継ぎ1時間半ほどかかる。コウジは1部から参加するため、少なくとも11時半には会場入りする手筈だった。そのためには10時の電車に乗り込んでおく必要がある。

 コウジは自分が全裸であることに気付き、慌ててバトルジャケットを羽織り、スピードアップズボンを履いた。ただし、パンツは履かない。人の夢と書いて(パンツを)儚いと書くからだ。

「おい、なんで起こしてくれないんだよロシナンテ」

 コウジは着替えを済ませながら部屋の隅の檻に目を向け、言った。そこには堂本剛(エンドリケリーエンドリケリーの変身前)主演ドラマ『ロシナンテの災難』から引き抜いてきたロシナンテ(犬の着ぐるみを着た細川俊之)がいるはずだから。

「ロシナンテ……?」

 しかし返事は返ってこなかった。そう、ロシナンテは先月保健所に引き取られていったのだ。

「そうか、ロシナンテはもう……」

 項垂れながら少しだけ寂しそうに笑うコウジの背中を、机の上のリック・ドムが無機質なモノアイで見つめていた。グポーンと、そういった気がした。

 コウジが慌てて階段を降りる音に、台所でアパ社長のカレーを作っていたトリプルマザー(実の母、渋谷の母、ウルトラの母の称号を同時に獲得した選手にのみ与えられる特別な称号)が驚いて顔を上げた。

「ちょっとサンジ!朝ご飯は?」

「勘弁!今日はリアルミーグリなんだ!」

TMは両手のベンズ・ナイフをまな板の上に置いて「もう」とため息をついた。「あの子のああいう所は第3宇宙時代から変わらないわねぇ」

 そんなTMの声が聞こえたのか聞こえていないのか、勢いそのままにクンジは玄関を飛び出した。この世界に扉なんていらない、踏み出す一歩があればそれでいい。

 玄関先に違法設置してあるカタパルトに収納されたバイク型移動砲台『間に合わないんジャー号』に飛び乗り、思いっきりアクセルを踏み込む。

「いっけぇ!俺のわがままフェニックス!」

 エンジンに火がつくと同時に、間に合わないんジャー号の車体の実に6割を占めるミニコンポから、あのミュージックが流れてくる。

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ルージュの伝言/松任谷由実



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