隣のY

これは元々のニックネーム
なぜこの名前を付けていたかというと
自分の小ささを忘れないように
しかし、気に掛ける方がそこに意識を集中させてしまうので
消し去ることにする。

なぜそれができるかというと、
隣のYさんは被害妄想が強い。
恐らく独身でずっときて、数十年前に一緒になった
バツイチのおばさんと過ごしているが、子供がいない。
よく、色々な人に言葉をかけるが
本当の意味での友達がいるように見えない。
会社勤めしていたころは、経理の仕事をしていたみたいで
生真面目なんだろう。
細かいところに目が行き過ぎるから、女性関係も長い事できなかった。
今のおばさんも訳ありそうだから、話したことがあまりない。
恐らく年上

このような隔たりができてしまったのは
さかのぼる事うん十年。
まだ、うちの両親が今住んでいる場所に工場を経営していたころ
隣のYさんの家はうちの裏にあり、その横にもうちは工場を私有していた
多少従業員がいて、KKK系統の仕事なため
従業員はタバコを吸えば、挨拶もそれほど丁寧とはいいがたい
神経質のYさんは常にうちに対してクレームをしてきていた。

工場の水がよる流しっぱなしだ。
タバコの吸い殻が道に捨ててある。
夜遅くまでうるさい。
従業員がAがうちの風呂場をのぞいてくる。

20年近く前から退職して、仕事をしておらず家にいるYさんは
機械の音や従業員がせわしなく動き会話する音が騒音に聞こえてたはず、
しかも社長である頑固で強面のうちの父親とは犬猿の中で、
面等向かってはうちの父親にはクレームできない。
10年前に会社を継ごうと戻ってきた自分は古い体質を変えようと
会社の改善をするべく努力をし始めていた。

その時のYさんは自分にとって幼いころに遊んでくれた近所の人ぐらいの感覚であったが、会社に入ってすぐYのクレーマーという噂を聞いていた。
水の音がするとか、シャッターが開いているとか、
最初は感謝していたが、
そのうち通りで自分を見つけるとウダウダとクレームを10分20分
言ってくるのである。
こっちは仕事で道を何度も往来しなければいけない。
そのたびに捕まっていては仕事にならない。
そのうち社員のクレームになり、
社員に確認してもそのような事はない。という

結局、自分が入って1年もたたないうちに
会社経営が悪化している状態がわかった。
改善策としては将来性が無い産業であったため、従業員と設備も老朽化
客先もどんどん地域移転
将来的に社会的要求が低い業界であることを身に染みた私は
会社を周囲環境等同意を得て、平穏に閉鎖する事にした。
半世紀にわたって運営していた会社の閉鎖は色々あって、
完全におしまいにするには1年ほどかかった。

Yさんにある日会社の閉鎖を『会社を閉鎖する方向なので、今後は今までのようなご迷惑をおかけする事は無くなります。』と
Yさんがクレームしていたようなことが本当でなかったしても、
ある意味安心してもらうためにご報告をした。
その返答を『あぁそうなんだ。色々あったけど、よく頑張ったねぇ』等の
思いやりのある言葉を期待していたら、
『そんなの関係ねぇ』と切り出し、クレームを続けるのである。
この時に驚きは後々自分の中で爆発する事となる。
会社がある以上住民の人たちには文句を言われても怒れないし
反発できない。そんな常識を持ち合わせていたのである。

会社閉鎖後、工場をつぶし、新築の二世帯住居を家族で資金を出し合って
10か月ほどかけて作ったのである。
暫くして、家の横にある地域のゴミ収集場所にリサイクル回収用のものを
早朝持っていくと、何やらYさんがゴミの整理をしているのである。
人がやらないようなことをやってくれて偉いなこの人は。
と内心思っていると、無造作にYさんが段ボールの束をうちらの敷地に立てかけたのである。
その瞬間『うちに置いてんじゃねぇよ!』と今まで使ったことない
言葉づかいで、うっかり怒鳴ってしまった。
Yさんに対する蓄積されていた怒りが瞬発力勢い余って
出てしまったのである。

しゃがみながら作業していたYジーさんは、さぞびっくりしたのだろう
拍子沈黙、、、そして『けっ敬語つかえよ』というから、
怒りがおさまらない自分は『敬語?使ってほしかったらそれなりの態度取れ!』とまた怒鳴った。

それ以来一切口をきかなくなった隣人。
こっちも場が悪いから道で会いたくもないし、
すれ違いたくもない。道で見ると嫌な気分にもなる。
で、時が経つと段々にそういう感情は薄れていく。
しかし、お互いの無視は続く。

うちの2Fのベランダは洗濯物を干すのでよく、出るのであるが
そこからYの2Fの窓は2mも離れていない。少し見下ろす感じ。
あちらが意識してか、窓を開けてはいない。
窓も曇りガラスで家の中など見えるはずもない。

昨日は天気が良かったので、布団等を干すのにベランダに出ていた。
布団等は壁にかけて干すので、その動作の時に下を当然見下ろす感じになる
その時Yさんが出てきて、いつもルーティーンをこなしている。
それは、家の前の路の下水溝にバスクリーンの入ったお風呂の水を
バケツで4-5杯流し込んでいるのである。
なぜこのような事をするのか?全く理解不能である。
自分の家の排水溝が壊れているのか?
運動のためにやっているのか?
わざわざバケツで家から外にお風呂の水を道路に出て捨てるって、
おかしいだろ。

目も合わせたくないので、見えないように下から見たときの視界に
入らないようベランダで突っ立っていた。
その自分の視線はYさんの家の2F窓に自然となってしまっていた。
別に見たくもないが前が奴の家なんだからしょうがない。
そしたら、下からの目線を感じたのだ。
下をふいに見るとYさんと目があった。
奴からは俺がYの家の中を覗き込んでいると映ったのだろうか?
そんな感じで嫌な目つきをしていた。

暫くすると、Yさんの2F窓に厚手のカーテンがかかているのが
すりガラスの向こうでも見受けられた。
俺はすりガラスを見透かす力があるとでも思っているのだろうか?
相当頭がいかれている。
これはまさに被害妄想の病気なんだと悟った。
うちの従業員に60過ぎのお婆ちゃんのヌードを見たくて
誰がお風呂場をのぞいている。と疑いをかけた事が脳裏をよぎる。

自分が日本に戻ってきて約10年、Yさんの家に親戚や友人が訪問しているのを見た事はない。別に監視しているわけではないが、ワイワイやっている様子もないし、また両親からは親戚が寄り付かない。というのは聞いていた。
なので、寂しい人生を送っているというのはなんとなくわかっていた。

町内会の催しものに自分は良く誘われてお手伝い等行くのであるが、
彼の場合は回覧板で知り、ちょいと顔を出して『コソ、コソ』と数人と
話をして帰っていく。
たまに家の中の会話が聞こえてくる。
一緒に連れ添っているバツイチのおばちゃんの事を
『何々ちゃん』とちゃん付けて呼んでいる。
あの禿Yが、可愛いというのだろうか、気持ち悪いが
まぁ好き同士で幸せなんだろう。良い事だ。

だから、そっとしておく。



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