【ショートショート】雪見だいふくと女の子が2人

少女ーー麗奈はその丸くて白い物を訝しんだ瞳で小さな二股のプラスチックフォークでツンツンと突く。

「まだ食べてないの?」

私は雪見だいふくを毒が盛られてるんじゃないかと怪しむように、その可愛い雪見だいふくを眉間にシワを寄せ、雪見だいふくを突いては腕を引っ込める。

「貴女はもう食べたの?もっと心配した方が良いんじゃないの?榊からの差し入れよ?」

「そりゃ榊君からの差し入れだけど。あの榊君からの差し入れだけど。これはただの市販品の雪見だいふくだよ?」

榊君。
私たち立憲大惑星研究サークルの問題児にして
、危険人物であり、関わりを持ってしまうと災厄を招く最悪最低のゴミカスクソやろう。
あいつを早くこの世から潰さねばならない、それが太陽系第三惑星地球に生きる私たちの使命であり大願であり悲願だ。

ただし、雪見だいふくには一切罪はないし、あの柔らかい皮に優しいミルク味のアイスは至高の逸品だからもらってすぐ食べた。そしてゴミは返して追い返した。

麗奈は疑り深いので榊君を追い返した後に、封を切るまでに1時間、封を切って器に写して爆発しないかを確認するまでに1時間。そして今こうして雪見だいふくをツンツンして本当に爆発しないかを30分かけて確認している。

麗奈の行動は確かにやり過ぎかも知れないけど、榊君からの差し入れなんだからむしろ安易に食べた私の方が不用意だ。なんか少し不安になってきた。気のせいか脈が速い気がする。
もしかすると血が緑になってるかもしれない。

「そうね。いくら榊からの差し入れとはいっても市販のアイスだものね。」

ようやく麗奈は警戒するのをやめて、体中から力を抜いた。実は早く食べたかったのよと眉間に溜めてた力を緩めるように微笑んだ。
そして遂に雪見だいふくを突き刺す。
既に彼女の雪見だいふくは30分の突き刺し検証によって蜂の巣を模した穴あき雪見だいふくとなり中身のアイスが一部溶け出ていた。

そして雪見だいふくを麗奈は口へ運んだ。

「やっぱり雪見だいふくは美味しいわね」

そう麗奈が2時間半の警戒から緩め雪見だいふくに舌鼓を打った瞬間だった。

バンッ!!と私の体全体から急に破裂音が鳴り響き、どんどんどんと体が大きくなっていった。
一回り二回りと元のサイズよりも大きくなっていき気付けば縦は天井に頭がぶつかり、横幅はまるでお相撲さんのようになっていた。

「榊を殺す」

私は叫び声を上げるでもなく自分のこの醜い姿に打ちひしがれるでも、そもそもこの物理学を超越した事象へ驚愕するでもなく、ただ自分の決意を口にする。

麗奈は後悔の渦に飲み込まれていた。
あと少し、本当にあと少し警戒を続けていれば麗奈は私のように巨大化する運命とならずに済んだからだ。

だがどれほど後悔しようとも麗奈もあと数時間で私のように巨大化するのだ。

服をあらかじめ伸縮性のある大きいサイズのものに着替えるか、脱ぐかしとかなければ体に食い込んでなかなか痛いことになる。
私は青ざめた麗奈を見ながらそんなことを思ったが、口にはしなかった。

さて、私はいつ元に戻るのだろうか。
私の全リソースがそれに支配されることになったからだ。

榊という男に警戒心を解いてはいけない。

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