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年越しそば
大晦日の夜、二階の戸締りを厳重に行う。雨戸を閉め切り、いったん階下に戻る。
しばらくして再び二階に上ってみると、しっかり閉めたはずの雨戸が開けられて戸袋に収められている。
窓を開けると隣家の屋根が眼下に見える。長い棟の家で、その棟が蛇行している。
誰かが私のいない間に雨戸を開けたに違いない。普通ではないことが起こっているのであり、私は階下に駆け下りる。
階下には父と母がいて、台所にいる母に状況を伝えるが、高齢の母は二階に上ると足がふらついてちゃんと立っていることができなくなると言って、二階に行くことを嫌がる。
茶の間にいる父のところに行くと、父は膳の前に座って携帯電話で誰かと大きな声で話している。田舎の親類からの電話らしい。
膳の上には年越しそばの丼が二人分並べられ、湯気を立てている。父の分と母の分であり、私の分はない。
二階の洋服箪笥に吊ってある私の背広は水を通したように縮んで皺くちゃになっている。
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