ミュージカル「SIX」の「Haus of Holbein」を訳してみた(試訳:ご意見ご感想叱咤お待ちしています)

お次は四番目のお妃にして唯一のドイツ人女性、アンナ・オブ・クレーブスのパートです。チューダー朝のお化粧はしたくないものです。

[ANNA OF CLEVES]
Welcome to the house

[アンナ・オブ・クレーブス]
ようこそ「ハウス」へ

[ALL]
To the Haus of Holbein
Ja, ooh ja, das ist gut
Ooh ja, ja
The Haus of Holbein

[コーラス]
「ホルバインハウス」※1へようこそ
ええ、そりゃいいものよ
ええ、ええ、
ホルバインハウスは

※1 ハンス・ホルバイン(1497/98~1543)
神聖ローマ帝国(現ドイツ)・アウグスブルグ出身の画家。
ヘンリー8世の宮廷画家として数多くの肖像画を残した。
その仕事の一環として、外国の妃候補者の肖像画、つまり「見合い写真」のような絵も手掛けていた。
彼が描いたアンナ・オブ・クレーブスの肖像画が気に入ったヘンリーは彼女を4番目のお妃として迎えるが、残念ながら実物は絵ほど美しくなかったので(ヘンリー個人の意見です)僅か6か月で彼女と離縁。
ホルバインも不興を買い、宮廷画家の身分を剥奪された。

ここでいう「ホルバインハウス」は架空の存在。
解説サイトによると、プラダやバーバリー、ヴェルサーチなどの「fashion house」(ブティック、グランメゾン)を想定している、という。
具体的には、ヘンリー8世のお妃候補たる綺麗な女性にさらに磨きをかけ撮影する(絵を描く)、つまりモデルクラブのような場なのではないか、とある。
(だとすると前段のファッションハウス説とは矛盾するような気もするのだが…)

もうひとつ、これはドラァグ・クイーンの「ハウス」、つまり彼女たちのコミュニティを示唆するのではないかという説も目にしたが、ここらへんは本当にわからないのでご存じの方教えてください。

あと、これは私の想像だけど、彼の名「ハンス」と「ハウス」もかけてるのでしょうねきっと。

[CATHERINE OF ARAGON]
Hans Holbein goes around the world

[キャサリン・オブ・アラゴン]
ハンス・ホルバインは世界中を巡って

[CATHERINE PARR]
Painting all of the beautiful girls

[キャサリン・パー]
ありとあらゆる綺麗な女の子を描いてる

[ANNE BOLEYN]
From Spain

[アン・ブーリン]
スペインから

[JANE SEYMOUR]
To France

[ジェーン・シーモア]
フランスまで

[ANNA OF CLEVES]
And Germany

[アンナ・オブ・クレーブス]
そして、ドイツも

[KATHERINE HOWARD]
The king chooses one

[キャサリン・ハワード]
王はその中から1枚を選ぶ

[ALL]
But which one will it be?

[コーラス]
でもどの子の絵がその「1枚」になるのかしら?※2

※2 余談だが、ヘンリーがアンナの他に「選んで」いたお妃候補のうち有名なのはクリスティーヌ・ド・ダヌマルクである。
彼女はデンマーク王家の出身で、ミラノ公と結婚するも2年で死別する。
その後ブリュッセルの宮廷でホルバインと出会い、彼は彼女の喪服姿の肖像画を描いた。
(この肖像画は現在ロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されている)
肖像画がお気に召したヘンリー8世はクリスティーヌに求婚するも、彼女は彼の「元」お妃に対する仕打ちをよく知っていたので「そうね、私に頭が二つあったら結婚してもいいわ」と断ったそうな。

[CATHERINE OF ARAGON & ANNE BOLEYN]
You bring the corsets

コルセットを持ってこなきゃ

[JANE SEYMOUR & ANNA OF CLEVES]
We'll bring the cinches

鞍帯持ってこなきゃ

[CATHERINE PARR]
No one wants a waist over nine inches

9インチ※3以上あるウエストなんて誰も望まないわ

※3 9インチ=約23センチ。
余りに非現実的な数値だが、これはnineをドイツ語のneinとかけている言葉遊び。
その真意は細すぎるウエストなんてない、ということらしい…が?(いまいち納得していない)

[ALL EXCEPT KATHERINE HOWARD]
So what, the makeup contains lead poison?

[キャサリン・ハワードを除く全員]
それで、おしろいは鉛の毒を含んでいるのよね?※4

※4(解説サイトより)チューダー朝時代の化粧品には一般的に、今日では有害とみなされる成分でできていた。多くのものには鉛と水銀が含まれていた。特に、若さと気品を表すとされる青ざめた顔色を演出するため、当時の女性たちは白鉛を顔に塗りたくったものだった。

[KATHERINE HOWARD]
At least your complexion will bring all the boys in

[キャサリン・ハワード]
少なくとも、(その鉛毒を含んだおしろいを塗った)顔色は男の子たちみんなを引き付けるでしょうね※5

※5 このセリフを「妖婦」的ポジションのキャサリン・ハワードが言うのが面白い。

[ALL]
Ignore the fear and you'll be fine
We'll turn this vier into a nine
So just say 'ja' and don't say 'nein'

[コーラス]
恐れを無視しなさい、そしたら平気よ
私たちは恐れ(4)を消し去る(9にする)※6
だから、ただ「ja(はい)」と言うの、「nein(いいえ)」はなしよ

※6 英語の「恐れ(fear)」とドイツ語の「4(vier)」、そして英語の「9(nine)」とドイツ語の「ない(nein)」をかけまくっている一文。
なぜ「4」から「9」なのか?については残念ながら解説サイトにも記述はない。
ただの言葉遊びなのかもしれないけれど、一つ考えたのはアンナ・オブ・クレーブスは「4」番目のお妃にはなったものの結局すぐ離婚され、「何者でもなくなった(nein)」ということを示唆しているのかなということ。
まあ、こじつけですが。

[CATHERINE PARR]
'Cause now you're in the house

[キャサリン・パー]
なぜなら、今やあなたは「ハウス」にいるのだから

[ALL]
In the Haus of Holbein!
Ja, ooh ja, das ist gut
Ooh ja, ja
The Haus of Holbein

[コーラス]
「ホルバインハウス」の中に!
ええ、そりゃいいものよ
ええ、ええ、
ホルバインハウスは

[ANNE BOLEYN]
We must make sure the princesses look great
When their time comes for a Holbein portrait

[アン・ブーリン]
王女様たちを綺麗に仕立て上げなきゃいけない
彼女たちがホルバインの肖像画に描かれる時には

[ANNA OF CLEVES]
We know what all the best inventions are
To hold everything up

[アンナ・オブ・クレーブス]
私たちは素晴らしい発見はみんな、あらゆるものを「引っ張り上げる」ものだってことを知ってる※7

[KATHERINE HOWARD]
Ja, it's wunderbar

[キャサリン・ハワード]
ソウデスネ、ソレハスバラシイ!※7

※7 wunderbarはドイツ語で素晴らしい。
ここは人気ブラジャー「ワンダーブラ」と引っ掛けている、らしい。
ワンダーブラは「プッシュアップブラ」(日本で言う「寄せて上げる」ブラ)として有名で、まさに「あらゆるもの(余分なお肉?)を引っ張り上げる」。

[CATHERINE OF ARAGON]
For blonder hair, then you just add a magical ingredient

[キャサリン・オブ・アラゴン]
綺麗なブロンドにするためだったら、魔法の薬を足すだけでいいのよ※8 

[JANE SEYMOUR]

[ジェーン・シーモア]
From your bladder※8

あなたの膀胱からね

※8 再びチューダー朝のお化粧話。肌をより白く見せるため、あるいは髪の毛の色を明るくするために使われていた漂白剤はアンモニア、つまり尿であった。
いつの時代でもおしゃれは大変である。

[CATHERINE PARR]
Try these heels, so high it's naughty

[キャサリン・パー]
このヒール試してみてよ ちょっと高すぎて下品よね

[ALL]
But we cannot guarantee that you'll still walk at forty
Ignore the fear and you'll be fine
We'll turn this vier into a nine
So just say 'ja' and don't say 'nein

[コーラス]
でも、あなたが40歳になってもまだ歩けるなんて保証はできないわ※9
恐れを無視しなさい、そしたら平気よ
私たちは恐れ(4)を消し去る(9にする)
だから、ただ「ja(はい)」と言うの、「nein(いいえ)」はなしよ

※9 ごめんなさい分かりません。一般的な若い子賛歌、おばちゃんdisの類か?
前の「高すぎる」ヒールの話を受けて「おばちゃんになったらこんなヒールも履けないのよ(だから下品とか言ってないで今のうちに履いておきなさい)」という解釈が妥当なところか。
解説サイトには「40前後で亡くなった人妻はその原因を姦淫のせいだとされた(ほんまかいな)そのことを「歩けない」と表現している」とあったが、うーん…それは…どうかな…

[CATHERINE PARR]
'Cause now you're in the house

[キャサリン・パー]
なぜなら、あなたは今や「ハウス」の中にいるんだから

[ALL]
In the Haus of Holbein!
Ooh ja, das ist gut
Ooh ja, ja
The Haus of Holbein

[コーラス]
「ホルバインハウス」の中に!
ええ、そりゃいいものよ
ええ、ええ、
ホルバインハウスは


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