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このキャラデザがすごい! 2021上半期

2021年上半期に注目されたキャラクターのデザインを筆者の独断で紹介します。流行作品の背景にも触れているので、2021年上半期のおさらいとして読んで頂けると嬉しいです。前回記事はこちら

※イラストはTwitter、データはpixivから引用してます(7月頭の数値)。
※当記事に作品本編のネタバレは含みません。

ゴールドシップ

初出:2021年2月24日 ※iOS版アプリ
タイトル:ウマ娘 プリティーダービー(ゲーム)
デザイン: Cygames
pixiv投稿数:7,715件…「ゴールドシップ」
キャラクター解説

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2021年上半期で特に人気だった作品はなんといっても『ウマ娘 プリティーダービー』でしょう。ジャンル全体でpixiv投稿数は7万件を超えてます。ウマ娘はキャラクターモチーフが実際の競走馬ということもあり、史実に基づいて性格、設定やデザインが作られています。特にその中でもゴールドシップの人気は顕著で、Twitterでも多くの二次創作が溢れています。ウマ娘のプロジェクトはスタートこそ2016年ですが、紆余曲折を経て2021年にゲームがリリースされました。

ゴールドシップ(略称:ゴルシ)はスタイルが良く、やや垂れ目気味、性格はかなりカオスという面白に振り切ったキャラクターデザインは「可愛い」を一つ飛び越えたヒットの仕方になりました。ウマ娘というIPがエロ系の二次創作を禁じています。そんな全年齢向けイラストしかないという背景も、ギャグとシナジーの高いキャラクターを人気にする要因になりました。また、高身長の女性は近年人気が高まりつつあるジャンルで、そういった側面からもトレンドになっているといえるかもしれません。

オルチーナ・ドミトレスク

初出:2021年5月8日
タイトル:バイオハザード ヴィレッジ(ゲーム)
デザイン: カプコン
pixiv投稿数:1,478件…「ドミトレスク」
キャラクター解説

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高身長の女性といえば『バイオハザード ヴィレッジ(バイオ8)』からオルチーナ・ドミトレスク(ドミトレスク夫人)も大きなブームをみせました。ヒールを含め290cmほどある設定なので、高身長というよりも巨人の領域ともいえます。これも比較的最近出てきた言葉として「巨女(きょじょ)」というジャンルもあります。白い服で高身長、帽子の女性といえば八尺様という妖怪(?)も存在しますがこのあたりもオマージュしているかと考えられます。

ホラーゲームで女性モチーフの敵キャラは珍しくはないのですが、多くは貞子タイプか、グロテスクなモンスターといった様相で、このように人間の姿を留めたデザインはとても新しいです。役どころとしてもプロモーションや体験版などで多く露出しており、バイオ8の顔ともいえるキャラクターでしょう。これまで日本のゲーム業界は美少女キャラが中心で、次点は少年、その次が中年男性という傾向があり、中年女性キャラをここまでプッシュすること自体が画期的だといえます。前作が好評だったということもあり、近年のバイオシリーズはとてもチャレンジングなことをしていますね。

チャレンジングと評価できる一方で理にかなったデザインととらえることもできます。ドミトレスクは身体のラインや胸の谷間が露出されているーーーつまり、とても性的な魅力を強調したデザインです。それはかつて美少女キャラが担っていたポジションともいえます。かつてのバイオシリーズでは、ジルやクレアなど若い女性が担当していました。なぜ今回であえて「おばさん」をセクシャルなキャラクターとして出したかというと、ゲームユーザーの高齢化が進み、熟年の女性を性的に魅力的を感じる対象として受け入れる準備ができたからだと考えてます。また、海外では日本ほど少女のキャラクターを性的対象として消費されないという違いもあり、そういった背景も含めて非常に考えられているし、しっかりと説得力をもって描ききったなと感心します。

作品部門

モルカー

初出:2021年1月5日
タイトル:PUI PUI モルカー(TVアニメ)
デザイン:見里朝希
pixiv投稿数:3,477件…「モルカー」
キャラクター解説

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2021年1月から圧倒的なブームを見せたのが「モルカー」でした。子供向けのテレビアニメとして放映され、人形を使ったストップモーションでここまで人気を博した企画はかなり珍しいのではないでしょうか。『けものフレンズ』など、動物モチーフの作品は定期的にヒットしますが、美少女要素が全く無い作品でも二次創作層に大きく影響を与えたのはとても画期的です。

ヒットの大きな要因としては、アニメーションのレベルの高さでしょう。爆風の表現や撮影技術、パロディなど、玄人好みのアプローチが多くありました。また、これまでもハムスターやネズミといった齧歯類での人気キャラはいましたが、モルモットには意外にもスポットが当たっていませんでした。実物を見るとわかりますが、プイプイ鳴いたり、表情が豊かだったり、動物園では人気イベントがあったりと、なかなかに芸達者です。作者もモルモットをペットとして飼っていたこともあり、そういった生き物のディティールがとても上手くデザインに落とし込めていました。

ブルーアーカイブ

初出:2021年2月5日
タイトル:ブルーアーカイブ(ゲーム)
デザイン:Yostar&NATGAMES
pixiv投稿数:11,564件…「ブルーアーカイブ」
作品解説

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中国産ゲームのヒット作といえばブルアカことブルーアーカイブです。メーカーがYostarということもあり、巨大資本をバックにSNSやCMなど派手な広告を展開しています。PRクリエイティブもよく出来ており、昨今の美少女作画では中国が大きくリードしているなと感じざるを得ない完成度です。最先端の美少女イラストを研究するなら間違いなくブルアカでしょう。作画として尖ったこともやってますが、基本の技術を疎かにしておらず、堅調に完成度が高いです。

イラストレーターの技術力が高いこともそうですが、メカ+美少女の文脈に「顔芸」の要素が追加され、ここまで表情を崩しても商業シーンに乗せてしまうパワフルさに驚嘆します。キャラクターではカリンが人気ですが、個人的にはツルギの崩し方は単なるインパクト一本釣りではなく、その後のPRでわかりやすい美少女キャラとして訴求するあざとさも含めてすごい。この手の顔芸やキレキャラはこれまでも日本のアニメシーンでも見られたかと思うのですが、そこを全面に押し出す発想はなかったと思うんですよね。この辺のクソ度胸とそれを実行するクオリティを備えているYostarほんとすごい。

シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇

初出:2021年3月10日
タイトル:シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇(映画)
デザイン:カラー
pixiv投稿数:1,848件…「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」
作品解説

2021年はエヴァが終結した年として歴史の上で語られ続けるでしょう。シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇(以下、シン)はSNSでも多くの話題をさらい、「エヴァのネタバレを見ない」という事自体がTwitterトレンドになるなど、これまでにない現象を生み出しました。作品自体も興行収入100億円を突破する大ヒットとなり、エンターテインメントの商業作品としても有終の美を飾ったといえます。

シンは見た目の造形そのものというよりも、キャラクターの内面を描いた作品で、これまでのエヴァシリーズでスポットが当たっていなかった人物が人気になりました。あまりネタバレには触れられませんが、エヴァシリーズ特有の(?)メタ的な視点で観客とコミュニケーションをしているといえるかもしれません。アスカや綾波は見た目で楽しめる仕組みも用意されてましたね。

ちなみに筆者は人物よりもメカのデザインに注目しており、ほんっとうによく出来ていると感じました。これはQからそうなのですが、とにかくメカが最高にエグい。単なる格好いいとかじゃなくて、発想のおかしさや変態性というか、このデザインを(絶対に売れなければいけない)メジャーシーンで採用する庵野監督ほんとうに格好いいです。

SSSS.DYNAZENON

初出:2021年4月2日
タイトル:SSSS.DYNAZENON(TVアニメ)
デザイン:坂本勝
pixiv投稿数:2,831件…「SSSS.DYNAZENON」
作品解説

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前作『SSSS.GRIDMAN』のヒットを受けてトリガーから新作です。円谷プロ原作で日本アニメーター見本市からここまで企画が成長したのがすごい。監督の雨宮哲氏はもちろん、強いクリエイターに囲まれた作品は絵のパワーが凄まじいですね。前作も「今怪獣アニメ?しかもグリッドマン??」という声があったかと思いますが、見事な完成度を見せつけてくれました。

HADES

初出:2018年12月6日 ※早期アクセス版
タイトル:Hades(ゲーム)
デザイン:Jen Zee
pixiv投稿数:1,295件…「hades」
作品解説

海外ゲームで非常に評価が高まっているのがHadesです。特に今年はNintendo Switchに移植され、日本での知名度も拡大してます。筆者もプレイ済みですが、アクションゲームとして洗練されており、中毒性がやばい。なによりもイラストとデザインを手がけるJen Zee氏のクリエイティブが魅力的です。元々厚塗り表現が主体だったクリエイターでしたが、Hadesではアニメ塗りになっており、シルエットも過去作と比較してもとても洗練されてます。Jen Zee氏は8年前のインタビューでリスペクトする作家として、日本のゲームクリエイターである野村哲也氏や吉田明彦氏などを挙げてます。

ミライトワ&ソメイティ

初出:2018年7月22日
タイトル:ミライトワ&ソメイティ(東京2020マスコット)
デザイン:谷口 亮
pixiv投稿数:528件…「ソメイティorミライトワ」
解説

コロナや関係者の不祥事やスキャンダルなどもあって現在は殺伐としているオリンピックですが、マスコットは可愛いです。これに関しては最終選考に残った3案どれも甲乙つけがたい。小学生の投票で決まったとのことですが、ミライトワ&ソメイティが展開させやすそうなデザインではありますね。題材に対してストレートなアプローチですがロゴをあしらったデザインのミライトワと、日本を代表する植物である桜を踏襲したソメイティです。サブカル的なアニメライクな要素を取り入れている点もわかりやすいですね。ちなみにミライトワもソメイティも共に性別は設定されておりません。2019年に公開されたヒョーゴノスケ氏タッチのアニメは今見ても非常に出来が良いですね。

まとめ&総評

粒ぞろいだった前回に比べるとモルカーとウマ娘が二次創作界隈で大きな存在感を放っていた半年でした。特にモルカーはコアオタク層から手芸、子育てなどの趣味領域にまで広がったのは非常に大きい。モルカーはアニメが終わりましたが、グッズやアミューズメントでも展開が進み、巨大な市場を形成しています。ウマ娘も「エロNG」というこれまで強力だった市場を封印された状態でブームが起きており、非常に示唆に富んだ半年だったかと思います。コロナでコミケがなくなり、エロ系のニーズがこれまでと変化しているともいえます。

今回のキャラクターの中から個人的にMVPを出すならドミトレスク夫人でしょうか。セクシーな中年女性をメジャーシーンに持ってきた功績は大きい。新しいコンテキストは毎年沢山リリースされ、キャラクターデザインはともするとテンプレ、マンネリ化していきます。それでも振り返ってみると新しいデザインは生み出され、ヒットしており、枯渇する兆しがない。時代が進み、環境も変わったことでこれまでに存在していたような要素でもスポットライトが当たり、ブームが生み出せるのでしょう。特に近年は市場を分析して意図的にヒットキャラを作るという意識がどんどん強くなってきているように思います。ネットミームもなりふり構わず取り入れ、それでもプロとしての味付けは手を抜かないようなそんなアプローチです。ドミトレスク夫人がまさにそれで、八尺様と巨女ブームをとりいれた戦略的なデザインだと私はみています。

2021年下半期、どんなキャラクターが登場するのか今から楽しみです。

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