millennium parade "lost and found"のポップソングとしての可能性
2020年4月22日にmillennium paradeの新作"Fly with me"が世に出る。2019年はKing Gnuの頭脳として目覚ましい活躍を見せた常田大希が、今年はミレパに力を注いでいくのは間違いないだろう。"Fly with me"は攻殻機動隊の主題歌にもなっている。多くの海外ファンを持つ攻殻機動隊とタッグを組むことは、ミレパにとって千載一遇の好機である。彼らが世界を魅了しうるかは、今年の活躍にかかっているといっても過言ではない。
攻殻機動隊の主題歌をmillennium paradeが担当することに冷ややかな反応を示す攻殻ファンもいる。それもそうだ、今までの攻殻機動隊の音楽は菅野よう子氏がずっと担っていた。彼女の音楽が攻殻を彩り、世界観を支えたことは言うまでもない。宮崎駿の作品に久石譲が欠かせないように、菅野よう子の音楽も攻殻に欠けてはならないのだ。それ故に millennium paradeの音楽が攻殻ファンに受け入れられるハードルは非常に高い。
一方で millennium paradeはその高いハードルを易々と飛び越えるのではないかとも思っている。なぜなら前作"lost and found"があまりにも良かったからである。
この作品では静と動、死と生が色濃く描かれている。作品の序盤で流れるピアノとストリングスは穏やかで心地よく、まるで夕暮れの湖畔で微睡んでいるかのようだ。ところが複雑で力強いベースが穏やかな曲調を一変させてしまう。不規則に波打つ、心臓の鼓動のようなビート。これは何を意味するのか。
"Imagine the beat of your own heart
So you'll feel me one more time"
あぁ、やはりあのビートは「鼓動」だったのだ。穏やかな安らぎから抜け出し、必死に生きようともがいている。生と死の狭間で苦しみながらもう一度生きようと動く身体、その動きをビートとダンスで表現している。"lost and found"はある種の極限状態で生まれてくる感情を克明に描き出している。
そう思うと、これまでのmillennium paradeの作品でも共通して「極限状態で生まれる感情」が描かれている。"Veil"にしろ"Plankton"にしろ"Stay!!!"にしろ、MVの登場人物や動物たちはどこか浮世離れで追い詰められている。その中で生まれてくる切実な感情を millennium paradeは音楽と映像で表現したいのではないだろうか。
「 millennium paradeは極限状態での感情を音楽と映像で表現するアーティスト集団である」と解釈して"lost and found"を聴き直してみると、この曲はミレパ史上でもその感情を最も分かりやすく、かつ最も力強く表している作品だと思う。 おそらくだがmillennium paradeの活動を今まで知らなかった人や、先鋭的な音楽に聞き馴染みがない人でもこの音楽は刺さるし、心に残り続ける。その意味では、 millennium paradeの音楽は多くの人に支持されるポップソングにもなりうると感じた。
ここまで書いて、私は millennium paradeの音楽が多くの人に広まり、日本の真ん中で鳴り響いている未来を想像してしまった。日本の音楽シーンの現状からするとまだまだ難しいかもしれない。しかし、もし日本の真ん中で millennium paradeの音楽と映像が流れるようになれば、間違いなくそれは日本の音楽シーンの転換点になるだろう。
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