夜顔
去年、斜向かいのお宅で、玄関の前に植木鉢を並べて朝顔を育てていた。
毎年朝顔のタネをまこうと思うのに、この辺の花屋では朝顔のタネを売っていない。
家の前を通りかかってご主人に会ったとき、どこでタネを買うのか聞いてみた。
「うちは採ったタネをまくけど、ホームセンターで売ってるよ」
という返事だった。
ホームセンターまで以前は自転車で行ったが、この頃は自転車であまり遠くに行きたくない。
足が不安定でヨタヨタして危ないから、近所のスーパーへ行くときや、かかりつけの内科に行くときぐらいにしている。
タネができたら採っていっていいと言われたので、タネができてからひとつもらってきた。
1つのさやの中に黒いタネが4粒入っていた。
なくさないように、ポチ袋のような小さい袋に入れてデスクの引き出しにしまった。
5月になって、花粉シーズンが終わったから遅まきながらタネをまこうと、デスクの引き出しを開けてみたが、どこにしまったのか見つからなかった。
仕方ない。今年の秋にまたタネをもらおう。
斜向かいの家の前を通りかかったとき、奥さんが玄関の外にいたので、タネのことを頼んでおこうと思ったら、
「余ったタネもまいたから、主人が好きなのを持って行っていいって言ってたわよ」
と言う。
玄関の前の大きな鉢2つに朝顔が何本も植えてあって、もうだいぶ伸びてツルが支柱に絡みついているものもあった。
「あら、わざわざうちの分もまいてくれたの?」
「どれでも好きなのを持って行ってって」
「良かった。去年もらっておいたタネをどこにしまったんだか、見つからないの。後でもらいに来るわ」
午後、シャベルと小さいポリ袋を持って朝顔の苗をもらいに行った。
ちょうどご主人が家の外に出ていて、
「どれがいい? こっちはうちので、そっちの鉢のはどれでもいいよ」
と、2つ並んだ鉢の、玄関から遠い方の鉢を指差した。
「朝顔はこれ。こっちは夕顔」
よく見ると、葉がハート型のがあって、それは夕顔なのだそうだ。
「どれでもいいけど、ツルがまだ伸びていないのがいい」
そう言って、ご主人に苗を掘ってもらった。
朝顔2本と夕顔を1本もらってきた。
ここに越してきてから、ホームセンターで草花の苗をいろいろ買ってきて育てていたが、ベランダが南向きで、夏は暑過ぎるので全滅してしまった。
乾燥に強いローズマリーだけ残っている。
斜向かいのお宅からいただいた朝顔と夕顔も、日差しが強すぎて葉が日焼けして痛々しい。
鉢に日が当たってしおれそうになっていたので、毎朝日が出る前に3つの鉢それぞれに段ボール箱を被せて、直射日光が当たらないようにしているが、それでも日中は葉がくたっとしてしまう。
日がかげってから段ボールを外して水をやる。根が煮えてしまうので、朝は水をやらない。
斜向かいの家では去年は暑すぎたせいか夏には花が咲かず、10月になってから咲いていた。
うちの朝顔も夏には咲かないかもしれない。
斜向かいの家のハート型の葉の方は、美しい透き通るような薄紫の、朝顔に似た小ぶりの花がたくさん咲き始めた。
夕顔なのに朝咲いている。
ご主人が、
「夕顔はカンピョウなんだって。知ってた?」
と言うのでネットで調べてみたら、カンピョウになる夕顔の花は、朝顔とは違って花びらが5弁だった。
花びらの縁が細かいギザギザになっているし、葉も縁にギザギザの切れ込みがある。
滑らかなハート型の葉の方は夜顔らしいが、朝に咲くものだろうか?
うちの夜顔にも花の蕾がいくつもつくようになったが、だんだん大きくなって、ひとつは蕾の長さが7〜8センチもあった。
白い大きな花が咲きそうに見えたので、夜になって咲くのを待っていたが、咲かずに朝になったら蕾のまましおれていた。
ベランダに出て近くに行ってよく見たら、もうひとつ、蕾のまましおれたのがあった。
蕾はまだたくさんついているが、果たして咲くのかどうか。
そう思っていたら、日が落ちてから咲いた。
これが夜顔か。
白い大きな花で、斜向かいのお宅の小さい薄紫の夜顔とは違う。
写真を撮ったので、斜向かいのご主人にも見せてあげよう。
写真を撮るときはわからなかったが、夜顔は甘い香りを放ちながら開くそうだ。
私が見たときは開いた後だったから、香りは飛んでしまっていたのかもしれない。
まだ小さい蕾がたくさんついているので、今度はよく見張っていて確かめてみなくては。
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