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腱鞘炎(入院以前のこと 1)

 右肩が痛み始めたのはいつのことだったか思い出せない。
 1980年代はパソコンのマニュアルを書く仕事をしていて、ほとんど1日中パソコンに向かっていた。仕事でも趣味でもキーボードから離れられない生活をしており、そのせいで腱鞘炎になったのだろうと思っていた。

 そのうちにだんだん痛みがひどくなり、90年代の中頃には右の肩甲骨から肩にかけて虫歯のようにしくしく痛み、時折ずきんと鋭い痛みが走るようになった。夏でも冷房のきいたところに入ると腕全体が痛くなり、肘の辺りは特に痛むので、常にスカーフを携帯して巻くようにした。

 近所の整形外科専門のクリニックに行ったら首と背中のレントゲンを撮られ、さしておかしいところは見当たらないが、強いて言えば何番目かの首の骨が少し出ていると診断された。痛み止めを処方され、首の牽引に通うように指示されて1カ月ばかり通った。初めは痛み止めの効果かどうか痛みが軽くなったものの、牽引すると前より痛くなるような気がして通うのをやめた。

 96年から97年にかけての1年間ほどは、接骨院での低周波治療やら整体やらマッサージやら、いいと言われるものは片っ端から試した。が、どれもたいして効果が得られずやめてしまった。

 血行を良くすると聞いてショウガエキスを飲み始めたら、1カ月ほどして痛みが軽くなった。ちょうどその頃、神戸の友人が首を温めるといいと教えてくれた。ホットカイロをスカーフにくるんで首に巻いてみたら具合がよく、完全に痛みが消えたわけではないものの、キーボードを打つのをやめない限り痛みとは縁が切れないものと思って、この2つでしのいでいた。

 そうこうするうちに、右手の指がしびれるようになった。雑巾を絞るとビリビリ電流が走るようないやな感じがした。右手でマウスを使うと5分もしないうちに手首が痛くなるので、マウスは左手で使うようにした。

 2003年秋、右の肩甲骨から肩、腕にかけての痛みがぶり返した。
 年が明けてから痛みはさらにひどくなり、春先には夜中に痛くて目がさめることもあった。いったん痛みで目が覚めると、ふとんに寝ていられなくなり、痛みがおさまるまで起きて立っていなくてはならなかった。体ごと腕をぶらぶら揺すったり、部屋の中をうろうろ歩き回ったりして痛みが軽くなるのを待つ。それからまた眠る。毎晩ではないが、たびたびこういうことが起きるようになった。
 それでも病院へ行かなかったのは、1度整形外科にかかって何の効果も得られなかったので諦めていたからだ。

 だが、6月に入ると我慢も限界になり、もう1度病院へ行くことにした。今度は前とは別の、自転車で5分ほどのところにあるF病院の整形外科へ行った。
 首のレントゲン6枚、腰のレントゲン2枚。所見は骨に異常なし。
 老齢の先生によると、姿勢が悪いのと運動不足のせいで筋肉が堅くなり、間を通っている神経が圧迫されて痛むとのこと。首を曲げる体操と脚を後ろに反らす体操を5回ずつ、日に3回やるように言われ、痛み止めの内服薬を処方された。

 最初は痛み止めが効いて少し楽になったが、その後ほとんど症状が改善しないのを訴えても、この先生は「運動不足」を繰り返すばかり。疑わしそうな目を私に向けて、「ちゃんと体操していないでしょ」と言う。
 日に3回は難しいが朝晩2回やっている。第一、寝しなに軽い体操とストレッチの習慣だってもう10年以上続けている。それなのに……。

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