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“女子アナ“が提言する 女子とピンクからの卒業  ~アナウンサー志望者に知ってほしい テレビとジェンダー~

今年の3月末まで9年間、名古屋のテレビ局でアナウンサーをしていました。
そのうち6年は朝の番組担当で、平日は毎朝2時半起き、夜は8時就寝という生活でした。「飲みに行けなくてかわいそう」と言われることもありましたが、毎朝、画面を通して見ている人と「おはようございます」の挨拶ができることは、素晴らしい経験でした。朝日が昇る様子を情報カメラでリアルタイムで紹介したこともあります。

ほかにも、関ジャニ∞のリサイタルの企画で三重県のキッズダンサーと一緒に踊りました。村上信五さんに呼ばれてステージに上がったときは生放送以上の緊張感が、踊り終えて楽屋に戻ったときは子どもの頃に感じたような達成感がありました。この企画を機に当時小学生~高校生の友達ができ、今でもSNSで繋がっています。

1.これおかしくない?

一方で、アナウンサーとして過ごすなかで違和感もありました。若手時代、天気コーナーを担当していた頃、画面にわたしの脚がより映る撮り方をされていました。通常の撮り方では足首あたりが切れてしまうので、台が設置され、それに乗って天気を伝えていました。当時はどう映るかより、生放送で間違えないかで頭がいっぱいでしたが…今思えば変な話です。

社内の飲み会で会場に行くと、なぜか役員の隣に席が指定されていたこともありました。会が始まれば自分から挨拶に行くつもりだったのに、指定席のようにされると興ざめしてしまいます。「女性アナウンサーを隣に座らせておけばいいだろう」と思われていた(?)役員も気の毒です。

次第に「これおかしくない?」というセンサーが敏感に働くようになりました。
放送における表現についてです。
番組である女優さんの話題を紹介したとき、進行の人が彼女について「まだ結婚していない」と補足しました。「まだ結婚していない」だと「結婚していることが正しい」ように聞こえるのですが、いかがでしょうか。
そしてその直後、当時独身だったわたしを含めた女性アナウンサーが画面に意図的に映されました。いじりたい気持ちは分かりますが、「これは果たして面白いのか…」と感じていました。

テレビでよくある表現に感じられるかもしれませんが、その表現が適切か、そもそもその補足は必要だったのか。誰かが嫌な気持ちになる可能性がないか。より良い表現はないか吟味し、常に考え発信するのがテレビ局の責任だと思います。

2.〝女子アナ〟からの提言

わたしは昨年結婚し、東京に移り住むため大好きな会社を辞める決断をしました。担当してきた番組がこの先もずっと視聴者のみなさんから「いい番組だね」「いい会社だね」と言ってもらえることを願い、最後に番組の数人の男性スタッフに許可を得たうえでこんな提言をしました。

提言 : 情報番組に潜むピンク、女子、主婦からの卒業

<男性は青、女性はピンクからの卒業>
テロップ(字幕)が 男性は青、女性はピンク。なぜ?
番組を毎朝見ている子どもたちに、女の子=ピンク、 男の子=青を植え付けることにつながりかねないのでは?
見た目が性自認と違う方もいます。見た目から性別が分からない人は何色で表示するのでしょうか。
ジェンダーフリーの時代。青でもピンクでもない色を使うのはどうですか。

<女子[i]という言葉、女性を想定した表現>
女性が自ら使う女子という言葉は、その人たちが何歳であれ、使うのは自由だと思います。(もちろん男子も)
一方、テレビ局からあてがわれる女子という言葉は、使う側に深い意図はなくても、女の子とも女性とも違う、別のもので括られている気持ちになる人がいると感じます。
また「女性に嬉しい」「女性必見」「女性が好きなマカロン」などの表現は、ターゲットに訴えかけるためのキーワードとして使われますが、あまりに多いと気になります。
番組で紹介する内容が、女性に嬉しいのか、男性に嬉しいのか、誰にとっても嬉しいものなのか。その判断は受け取った人の手に委ねられています。
テレビが特定の性別のみを対象にすることは受け手の選択肢や可能性を狭めているように感じます。

<主婦[ii]という言葉>
結婚した女性を「主婦」という言葉でくくることに違和感を覚えます。(例えば「50人の主婦の皆さんに聞きました」など)
結婚している女性が家事を主に担っているかはそれぞれの家庭により、収入を夫に頼っているとも限りません。
結婚しただけで、女性のアイデンティティを他者(男性)との関係性で示すようになるのは時代にそぐわないのではないでしょうか。わたしと同じくらいの稼ぎの男性が結婚しても、主夫とは呼ばないですよね…?
結婚しているというだけで女性を「主婦」で括るのは、女性を家庭に縛り付けているように感じる人もいると知ってほしいです。

<ママ限定のインタビュー>
子育てに関する話題のインタビューをママに限定することは、
「その問題は女性が考えるべきこと」というメッセージとして受け取られかねないと思います。
企画の内容にもよりますが、性別を限定するのが本当に適切か、考えることが大切ではないでしょうか。

女性アナウンサーが自らこういう提言をすることに驚く人もいるかもしれません。
「アナウンサーは気に入られてナンボ、使ってもらってナンボの仕事」という意識がプロデューサーやスタッフ、アナウンサー自身も含め業界に長く染みついていることが、声を上げにくい原因の一つです。
わたしが退社した後、番組がどうなったかは分かりませんが、仲間たちはしっかりと受け止めてくれたと思っています。

3.アナウンサーを目指すあなたへ

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スポーツ実況のアナウンサーは男性。天気は女性。男女のアナウンサーがスタジオにいたら、先に喋るのは男性。女性アナウンサーは斜めから撮られる。男女で分けられる機会が多い職業です。それが全部おかしいとは言いませんが、「これでいいんだっけ?」と思う気持ちを忘れないでほしいです。
わたしたちの仕事はそのまま視聴者の皆さんの目に届きます。アナウンサーの振る舞いと言葉が、誰かをがっかりさせてしまうこともあれば、勇気づけることもできるのです。

あなたの女性性/らしさや男性性/らしさ、それ以外の性/らしさは他の誰のものでもなく、あなただけのものです。自分自身のそれを自分の判断のもとで自分のために使い、誰かの期待する姿や型にはめられる必要はありません。

あなたが言葉で表現するとき、それが本当にベストか、もっといい伝え方はないか最後の最後まで工夫してください。

そして、多様性を認めあうべきこれからの社会であなたがなりたいアナウンサーになってください。アナウンサーという職業の価値を高められるのはわたしたちです。

[i] 「Q.女子という言葉は何歳くらいまでの人をさすのか?」という質問に対し、「調査をした結果、高校生までという回答が最も多くなった」と回答。
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/term/131.html
NHK放送文化研究所HP

[ii] 「主婦」 ①一家の主人の妻。②一家をきりもりしている婦人。(広辞苑)

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