『ドストエフスキー 写真と記録』読書メモ

ドストエフスキーの伝記・資料集で、かなり力(りき)の入ったハードカバーの本だ。サイズを計測したところ縦21センチ・横26センチ・厚み2.8センチぐらいだった。内容は生い立ち、創作の背景、作品に対する同世代の人たちの反応、家族など周りの人たちから見た人物像、書簡、講演の内容と多岐にわたる。写真などの資料も豊富に掲載されており、手書きの草稿や手紙に始まり借金返済のやり繰りのメモなども載っていて興味深かった。私のようなドストエフスキーファンにはたまらない本だった。今回は借りて済ませたが買おうかどうか迷っている。内容は気に入ったのだが、自宅本棚のスペース不足が深刻になっていてこれほど大きな本は持て余しそうだからだ。

特に印象的な項目を3つ書いておく。
私が一番好きな『死の家の記録』はドストエフスキーが思想犯として投獄され刑期をつとめあげた経験をもとに書かれている。投獄中は当然執筆活動など出来ないわけだが、人間観察のチャンス!肉体労働と規則正しい生活で体を鍛えて健康になるチャンス!と前向きに生活していたらしい。人間観察というと今では軽薄な趣味として嘲笑されることもあるが、さまざまな人間が入り乱れる危険な監獄にあって人間観察は生死に関わることだったという。また、創作意欲を燃やし続けるドストエフスキーはここで人間への洞察を深めて将来の創作に役立てようという明確な意志を持っていたらしい。同じような経緯で投獄された同志がどんどん気力を萎えさせてしまったのとは対照的だ。他のエピソードも見るに、ドストエフスキーは逆境で燃えるタイプだったらしい。

アンナ(2番目の妻だったかな?)との結婚の経緯も面白かった。アンナは速記学校の優秀な生徒で、先生からドストエフスキーが作品の口述筆記をしてくれる人を探してるからやらないか?と持ちかけられたので引き受けたらしい。ドストエフスキーは借金まみれでとにかく金を稼がなければならずいろんな原稿の締め切りに追われまくっていて、自分で全てを文字におこす余裕がなかったらしい。素人考えだと自分で書くより口述筆記のほうがよほど難しそうだと思ってしまうが…。アンナにしてみれば過去に作品を読んで感銘を受けている小説家の口述筆記を引き受けるなんて、相当ワクワクしたんじゃないかと思う。アンナの回想録によると、日々「今日はこれだけ進んだね、締め切りに間に合うかな?」という話をしてアンナが「絶対間に合いますよ」と請け合い、言った通りに仕事を間に合わせるとドストエフスキーはすごく喜んだし自分も嬉しかったとある。その時期のドストエフスキーの回想録だか誰かへの手紙だかに「アンナが自分のことを好きになってることが分かったし結婚を申し込んだ」と端的に書いていて、基本他人の恋愛とか結婚の経緯に全く興味がない私もウフフ…と思った。

ドストエフスキーは感情豊かで人をひきこむところもあったようだ。プーシキンに関する記念講演で情熱的なトークをぶちかまし群衆は熱狂し大絶賛したが、日が経つにつれて「待てよ、あの講演言うほど良かったか?」と我にかえり批判的なことを言い出す者が続出したというエピソードが面白かった。内容としては(あくまでも私の理解によると)ロシア的人民愛最高!人民みな兄弟精神でやっていこう!プーシキンはロシア的人民愛の体現者だ!みたいな感じだったっぽい。私はロシア語は話せないがどんな話しぶりだったのか気になる。本書の編集者は「問題は講演したドストエフスキーではなく聴衆サイドにある」と述べていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?