読書記録『極夜行』角幡唯介

一年前に図書館で借りて読んだ本なのだが、思い出したので記録しておく。ノンフィクションで、著者が「極夜という真の暗闇をこの目で見てみたい」という目的でソリ引きの犬1匹と極寒の地を冒険した話だ。
これを読もうと思ったきっかけは、ある人の「ユーモラスでなんとなく町田康の語り口っぽいのを感じる」「連れの犬に自分の野糞を食われまいと攻防を繰り広げる場面がおもしろい」という感想を見かけて気になったからだ。全体的にきれいごと抜きの赤裸々な実感が述べられており、こういう出来事があったらこう反応するはず、この感情はこういうものであるはずという予定調和を崩すところが新鮮で良かった。むきだし、という言葉が思い浮かんだ。特に印象に残っているのは、食糧が尽き中継地点がクマに荒らされていて備蓄食も手に入れ損ね、著者も犬も飢えきった時の絶望感だ。ジャコウ牛などの獲物を求めて猟を試みるのだが、ひそかに「きょう何も獲物がとれず、別の中継地点も見つけられなかったらこの犬を殺して食う」と決意をかためるのだ。この犬が旅のパートナーで大事な存在であるにも関わらず、いざという場合はやはり殺して食い、自分が生きのびるしかないとぐるぐる考えをめぐらす様を息がつまる思いで読んだ。ジャコウ牛の死骸を見かけて犬ががっつき、普段は従順で絶対そんなことしないのに死骸を調べようとした著者に牙をむいて唸った時の戦慄とかも覚えている。これは、私が犬と暮らしているからというのもあるだろう。

全体的な感想として、情けなくて赤裸々な箇所のユーモラスさと緊迫感あふれる場面の緩急が魅力的で集中力が途切れることなく読み通した。あと、太陽が出ない日を何日も過ごしていると憂鬱になって柄にもなく涙ぐんでしまうという体験談を見て、やっぱり日光って情緒を左右するのか〜と感心した。

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