何も気づいていなかった

 二年ものあいだ普段使いしてきた焼き物の皿がテーブルに置くとガタつくことに最近気が付いた。食事に支障をきたすほどではないものの、少しうっとうしい。底の高台(こうだい)が滑らかではないのだろう。っていうか、茶碗とかの底についているあの小さな台の正式名称を知らなくてたった今ネットで調べた。ふつうに食事に使って洗って棚にしまうことの繰り返しで高台の底面が削れていびつになるとも思えないので、恐らく最初からガタついていたのに日頃うっかり暮らしているから今まで気づかなかったのだと思われる。そんなことあるか?いかにもお洒落で小癪な雰囲気のセレクト雑貨ショップで手仕事の温かみがありますでしょう、3800円ね。という具合にわざわざありがたそうに職人の住所氏名技法を表記のうえ陳列されていた皿だ。ふだん安い給料でホームセンターの数百円の食器を買って暮らしているのだから、3800円もする皿なんてそこそこ気負って買ったはずだ。普通なら買ってきたその日にテーブルに置いてみた時点でアラちょっとガタつくのねと気づかないか?そもそもこの皿を作製した者はこんなガタつく皿を売るなんて職人としての誇りがないのか。

 と、今まで皿のガタつきに気づかなかった己の鈍感さがくやしくて皿を作った職人に今さら脳内で当たり散らしたところ、藍色の作務衣を着込み変なターバンを巻いた想像上の職人は「ま。そこは機械にはない手作りの味ということでご理解いただいて」と不遜な笑みを残し、ぼんっ、と煙を発散しながら消失した。

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