たまに思い出す星新一

星新一の作品を日常のふとした瞬間思い出すことが多い。さっき風呂に入りながら思い出したのはこんな話だ。世間のあらゆる人を題材とした歯に衣着せぬ毒舌トークで売れっ子になった芸能人がいたのだが、落ち目になった時期を境にあらゆる人からつらく当たられ始める。なにしろ顔が売れているので、「こいつ前にテレビでタクシー運転手をバカにしてたな。腹いせに乱暴な遠回り運転をした挙句運賃を多めにとってやる」「あなた昔ラジオショーで我々弁護士を舌先三寸とこきおろしましたよね。まともに弁護してくれる同業者はいないと思うよ」という感じで色んな人からそっぽをむかれてしまう。そっぽを向かれるどころか、トラック運転手に轢かれそうになったり暴行被害を受けたのに警察でまともに相手にされなかったりと命の危険を感じる場面も増えてきた(過去にあらゆる職業の人を面白おかしくこきおろしているので、あらゆる人から敵視されだれも味方になってくれないのだ)。もう整形手術で顔を変え偽名を使って別人として生きるしかないと思いつめてクリニックの門を叩くも、もちろん整形医たちも過去にこき下ろされたことを恨んでいて「どうせ私たちは人の顔を無駄にこね回して金をもらってる身分のものなんで」と取り合ってくれない。最後に必死に食い下がられ仕方なくという感じで手術を引き受けた整形医は「ちょっと自信がないんで、どんな顔になっても文句は言わないでくださいよ」と不安になるようなことを言う。麻酔で薄れゆく意識のなかで、変な顔にされるんだろうな、あるいは執刀に失敗したふりをして殺されるのかもしれない、みんなに敵視されている俺だからもみ消されるだろう。死んだらどうなるのだろう。三途の川の番人をおちょくったこともある、神様や天国や地獄の閻魔さま、ぜんぶこき下ろした覚えがある。天国どころか地獄にも行けないのではないか…と思いながら意識が暗転するところでこの話は終わる。

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