手癖が悪い人

 手癖が悪い、つまり盗癖がある人というのが世間には存在するので気をつけたい。財布とかワイヤレスイヤホンとか明らかに金目のものを盗む人がいるというのは、まあ勿論倫理上いけないことではあるけれどもみんな理解していると思うのだが手癖が悪い人はそんなもんわざわざ盗むか?というありふれた安物でも息をするようにごく自然に盗んでいく。思うにその品物が高価な物か100均でも買えるような安物であるかどうかに関係なく、自分が手の届くところに「持ち主が近くにいないなあ。これ、持っていこうと思ったら持っていけちゃうな」という物を発見すると盗らずにはいられないのだ。
 私が初めてそういうタイプの人に遭遇したのは小学生の時で、授業中うっかり床に落とした鉛筆が転がっていった先に着席していた児童がきわめてさりげなくそれを拾い上げ、なんと我が物顔で使いだしたのだ。彼が落とし主を探すそぶりを全く挟まず「俺のですけど何か?」という態度を即座にとりだしたことに意表を突かれ、そして当時の私が他人に話しかけられないほど内気な性格だったことも相俟ってその時は所有権を主張することもできず泣き寝入りしたのだ。驚くことにこの男以外にもクラスメイトの文房具類をくすねては「は?私のだけど!」と開き直る輩は複数いて、特に気が弱かった私は小学校卒業までに何度か被害に遭ったものだ。田舎の生活水準が似通った小学生が持っている文房具なんてどれも大差ない鉛筆とか消しゴムとか、たかが知れた安物なのにもかかわらず盗む者と盗まれる者が存在したのだ。中高時代に校内で財布や高価なバスケットシューズの盗難が問題になった時はこれほど驚きはしなかった。
 なんでこんな思い出話をしたかというと、友人が「自転車のカゴにエコバッグを置いて駐輪してたらなくなった!こんなもの盗む人なんている?柄とか使い勝手とか個人的に気に入ってはいたけど、そのへんの人から見たらなんの変哲もない雑貨なのに」と嘆いていたからだ。

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