珪藻の人

職場の人から『珪藻美術館』という本を借りた。奥修という珪藻アートで有名な人が書いた本だ。珪藻は光学顕微鏡でやっと形が見えるほどの小さな生き物だが、綺麗でバラエティに富んだ形態をしている。その採集のしかた、観察のしかた、珪藻アートの作り方などが豊富な写真とともに紹介されている。貸してくれた人に本を返しながら「いいですね。この本に書いてあること、やってみましたか?」と訊いたところ「いやいや、あんなのとても気軽に真似できるもんじゃない。顕微鏡を買うのだって大変だし、それにここ見て」と彼女が開いて示したページには

・標本をつくる部屋はホコリがほとんど舞わないキレイな部屋が望ましい
・甘いお菓子を食べると血糖値の上がり下がりが激しくなり、手が震えたりする。精密な作業である珪藻アートで手が震えるのは致命的。なので甘い物は禁物

と書いてある。
「うちは兎飼ってて毛が舞うし遊び盛りの子供もいるし、標本作る用の部屋なんてとても確保できない。それに甘いお菓子を食べられないのはキツい」と彼女は言い、それはもっともなことだった。それに彼女は普段顕微鏡用の標本を作る業務をしているので家でまでそんな細かい作業はしたくない、だから写真を見て気軽に楽しもうと思いこの本を買ったのだ、とのことだ。アート(と言って差し支えないだろう)の心得を説明する際に「手が震えないようによく眠れ。栄養バランスに気をつけろ。甘い菓子は摂るな」といった生活レベルのことからアドバイスをする人は初めて見たのでおもしろく感じた。かなりガチの人である。相当人生を謳歌しているなという感じがした。

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