宝物だよ〜

 偶然いいYouTubeチャンネルを見つけた。60代の男性が自然散策の様子をデジカメで撮って、日記がわりに淡々と投稿しているという内容だ。派手な演出や喋りは無く、「イチョウが色づいてきました」「今映った鳥はたぶん◯◯かなと思いました」などとたまに簡素な字幕が入る。チャンネル登録数は50名程度で、各動画の再生数は数十回〜百回程度。静かに愛されている感じがする。視聴者を意識し過ぎず好きなことを淡々と流すチャンネルに出会えると、動画の向こう側に血の通った人がいるんだなと思えて嬉しい。
 ダグラス・アダムズの『銀河ヒッチハイク・ガイド』を読んでいる。ドタバタコメディの要素を含んだSF小説だと思う。銀河系交通協会?的な宇宙組織が「宇宙高速道路を建設したいんだけど地球が邪魔だから立ち退いてもらうね〜」と宣言し、ある日突然地球はそこに住む全生物もろとも爆破・消滅させられてしまう。例外として主人公の地球人男性だけは助かり、なんだかよくわからないまま宇宙人の友人とヒッチハイクで宇宙を旅するハメになる。私が読んでるのはまだ序盤なので、主人公は地球消滅を受けいれきれていない。もう親とも友達とも会えないのだと改めて思うことで実感を得ようとするが、ボーッとしてうまくいかない。ふと、昨日酒場の行列かなにかでたまたま前後に並んだ赤の他人のおっさんの様子を思い出し、「もうあの人も死んでしまっていて今後会うことは絶対ないんだ」と思った途端急に悲しさがこみあげて胸が震えるという描写がとてもよかった。人生の宝物っていうのは、奥ゆかしいYouTubeチャンネルを見つけてなんかいいな〜と思いつつ敢えて喧伝などはせずそっとしておくことだったり、街でたまたますれ違った知らないおっさんの様子を思い出すことだったりするのかもしれない。宝物だよ〜〜

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