夜中の思い出

 親と一緒の部屋に寝るぐらい子供の頃、深夜2時ごろまで寝つけない時がありました。そういう時は心細く感じながら身を起こし、暗闇のなか枕もとの絵本がならんだ本棚や大きな貝殻っぽい置き物や人形にじっと目を凝らしていました。この家でいま起きているのは自分だけだと思うと、とてもつまらないようなさびしいような感じがしたものです。ただの生理的現象だとは思うのですが横向きの母の寝顔を眺めていると閉じた目尻に涙が滲んで頬に少し流れていることがあり、そういう時はなんだかどぎまぎしながらも目を逸らすことなく眠気が来るまで見ていました。
 ある夜、親はまだ居間の方で起きていて自分だけ寝室にいることがありました。うまく寝つけなくて布団に入ったまま目だけあたりを見回していたのですが、なんの脈絡もなく壁から白くて細長いキノコ状のものがいっぱい生えている様子を脳裡に思い描きました。その時の心理状態は今でもうまく表現できないけど、「これからもこういう眠れない夜がたくさんあって壁からキノコが生える想像とかいちいちしなきゃいけないのか」と思うとすごくウンザリし今すぐ泣かなきゃいけないような気持ちになったのでワッと泣きたて、それを聞きつけて添い寝しにきた母親を見て安心したのでじきに寝入ってしまったと思います。それで、中年になった今もぐっすり眠り込む家族と犬をよそになかなか寝つけない夜を過ごしています。

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