ホラーではないけど怖い小説

 ホラーというジャンルに区分されているわけではないけど妙に怖い小説というものがあり、そういった作品について書きたくなったので書く。以下に挙げる話はどれも極めて短いし青空文庫で無料で読めるので、興味があれば読んでみてほしい。


 まず有名なのは夏目漱石の『夢十夜』だろう。こんな夢を見た、という書き出しの掌編が十夜ぶん集まって成立している作品だが、その中でも赤ん坊を背負って夜道を歩いている男の話が特に怖い。

 二つ目、芥川龍之介『奇怪な再会』。満州の妓館(遊女屋)にいたところを牧野という日本人に身請けされ東京で寂しく暮らすお蓮という女性が主人公なのだが、お蓮の憂鬱でうつろな心情の表現もさることながら、何気なくみてもらった占い師が発した「東京が森になるほどの天変地異が生じれば、その生き別れになったとかいう昔の恋人と再会することも叶いましょう」という言葉に取りつかれるようにお蓮がじわじわと狂っていく凄惨さともの悲しさに圧倒される。精神に変調をきたしつつある女性視点からの風景と、他の人間から見た風景の対比が鮮やかに描き分けられていて不気味だけどおもしろいのでぜひ読んでいただきたい。

 三つ目、太宰治『陰火』。いくつかの掌編より構成される作品群だが、一番最後の尼という題名の文が仄暗く不気味で味わい深い。夜寝ていてふと襖を開けたら小柄な尼が立っていて、語り手はああ妹だなと思って招じ入れるのだが枕元に正座した尼の顔を眺めているうちに「妹と全然顔違うやん。ていうか、ぼくそもそも妹いないわ」と気づくくだりがもろホラーである。太宰治といえば『玩具』という短編も底知れぬ不気味さが漂っているのでおすすめである。

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