読書日記_6『カラマーゾフの兄弟』

カラマーゾフ・ファミリー(と言っても、主にいがみ合っているのは父フョードルと長男ドミートリイですが)の骨肉の争いに深く関わる二人の女性が表舞台に出てきました。カテリーナとグルーシェニカです。私のぱっと見の印象ですが、

カテリーナはとにかく誇り高く潔癖。お金に困窮した彼女の父を助けるために金策に奔走しあやうい交渉をしたかと思えば、今度は放埒でお金遣いが乱脈なうえグルーシェニカに惚れて自分との婚約をご破算にしようとしているドミートリイのとんでもない行動を全て許そうとしているようです。彼女の気質そのものが寛大で優しいというより、「そうありたい、立派な自分を演出したい、そして周りもそんな立派な自分の味方になってくれて万事都合よく行くはずだ」という気持ちが強い人なのかなと思いました。破滅型で気性の荒い、それでいて自分のダメさを自覚しているドミートリイは、何となくそこに反発しているようです。アリョーシャ(カラマーゾフ兄弟の末っ子で本作の主人公です。他のキャラクターがみんな濃すぎてまだ若干影が薄い)も、もしドミートリイとカテリーナが結婚してもいずれ破綻しそうな気がするとコメントしています。

グルーシェニカはコケティッシュかつしたたかで、状況にあわせて人間関係の立ち回りや言動がクルクル変化するので掴みどころがないイメージです。自分に熱をあげているフョードルとドミートリイに対する本当の感情や、どちらかと一緒になる意思があるのか無いのかもはっきりしません。

カテリーナとグルーシェニカはカテリーナの家で最初はなごやかに話をしますが、カテリーナがまぁいわば自分に都合よく作りあげた筋書き(グルーシェニカが自分に対して極めて友好的で、カラマーゾフの男たちからは手を引き別の男と結婚する)をグルーシェニカが嘲笑い、カテリーナは憤怒のあまりぶっ倒れそうになります。このところで少しピンとこない点があって、カテリーナは挨拶でグルーシェニカの手を取ってキスをしたのにグルーシェニカの方はカテリーナの手は取ったもののキスをしなくて「あなたは私の手にキスしましたけど私はしませんでした。この意味わかります?」って煽ったのを聞いたカテリーナが決定的にブチ切れたんですけど、私はキスによる挨拶が普通に行われる文化圏に育っていないのでそれがどのぐらい無礼なことなのかというのがボンヤリとしか感じとれませんでした。まぁ、話を読み進めるうえではたいして重要なポイントじゃなさそうなのでいいですが、外国の話を読むとこういう細かい所作のニュアンスをとりこぼしていることが多いんだろうなと思って少し残念な気持ちになります。

ていうか最初カテリーナがグルーシェニカをべた褒めして「本当に美しくて性格の良いお嬢さんなのよぉ〜」とか言ってベタベタしててその場にいたアリョーシャが若干ひくぐらいだったのに、どうやらグルーシェニカが自分の描いたシナリオ通り穏便にことを済ませる意思がないばかりか自分をバカにしているのだと悟った瞬間に「この淫売!」と怒鳴って掴みかかろうとする豹変ぶりがなんか面白かったです。この怒りの瞬発力、「あのとき笑って受け流さずにちゃんと怒ればよかった」と後悔しがちな我々も見習ったほうがいいのでは?

続く…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?