見出し画像

神戸経営編入受験生へ マーケティングまとめ

はじめに

今回から経営学の分野の1つマーケティング論について細かくやっていきます。

マーケティング論という科目単体が課されるのは神戸大学の経営学部です。他にも、経営学を課す大学を受験される方が対象になるかなと思います。

そういえば、神戸大学の経営学部は来年から2科目選択になりますね。
個人的にこれまでの過去問内容から考えると、「経済学」+「マーケティング」の組み合わせがおすすめです。
経済学は用語問題がネックですが、それ以外は比較的標準問題がそろっているため対策にかかる負担はそこまで重くないでしょう。
マーケティング論は範囲が狭いため、勉強時間や量が少なくて済みます。

経営学と会計学は範囲が分かりにくいので、個人的にはそこまでおすすめできません。ただし、現在商学部や経営学部に通っていて会計が得意だ!といった場合は選択するのもありだと思います。

最初にマーケティング論の勉強法についてご紹介します。そして、細かい内容や講義編についてはおいおいやっていきましょう。

(1)マーケティングの勉強法
 マーケティング論で出題される問題のパターンはそこまで多くないです。
①用語の定義・意味を答えさせる問題
②事例を合わせて説明させる問題
③ある戦略のメリットとデメリットを答えさせる問題

というわけで、マーケティングの勉強はこの3つの問題形式に対応できるように進んでいきます。
①まずは用語の定義をしっかりと覚える
→ 用語の定義は知っているか知らないかなのでここは頑張って覚えてしまいましょう。
②事例を確認する。
→ 経営学にも言えますが、実際に使ってみてどうだったかが非常に重要になってきます。
なので、事例を押さえておきましょう。といっても、そこまで多くやる必要はありません。
1つの用語に対して2つの事例を覚えておけばまず大丈夫です。
③メリットとデメリット
 これも地道に暗記していただくしかないです。

マーケティングはそこまで範囲が広くないため、なるべく効率的に終わらせてTOEICの点数を上げたいところです。

たぶん完成形は用語集になりそうなのですが、とりあえずマーケティング原案で書き上げてしまったのでこちらはこちらで公開しようと思います。

マーケティングの勉強に役立てたら幸いです。

最後になりましたが、マーケティング論受験者の健闘を祈ります。

マーケティング誕生!
 マーケティングは19世紀末から20世紀初頭のアメリカで生まれたと言われています。
当時フォードの自動車生産などに代表される大量生産技術がアメリカのあらゆる産業で導入されていました。大量生産・大量消費だったわけです。しかし、多くの人がよりその財を購入していってしまうと需要がだんだん落ちてきました。
大量に作って、大量に売れ残ってしまいましたでは、企業としては問題です。
そこで、じゃあ販売について効率的に、効果的にやっていく方法を考えよう!となりました。
これがマーケティングの誕生の説の1つです。

ちなみに、当時はとにかく大量に作って、安くすれば売れるだろう、安いからみんな買いたくなるだろうというものでした。こうしたマーケティングは高圧的マーケティングと呼ばれています。マクロ経済学でいうセイの法則ですね。

ところが1929年に世界恐慌という超不景気が発生しました。
恐慌が起こると、みんなが貧しくなるためモノを買わなくなります。
つまり、「作ったら売れる」という時代が終わったわけです。
ここでコペルニクス的転換と呼ばれる大規模なマーケティングの転換が発生しました。

(2)コペルニクス的転換とは?
 これまでは需要が大きかったため、ある程度安いものだったら売れました。
ですが、恐慌になってみんながモノを買わなくなってしまいました。
こういう状況で売れるののは、安いってのもありますが、もっと突っ込むと買ってくれるお客さんが一番良いと思うもの、少し難しい言い方をすると顧客の需要に沿ったものがウケます。

そして、こうしたお客様が一番欲しいものを必死に考えて届けるようにしよう!っていう
「顧客志向のマーケティング」が主流になってきました。

この「顧客志向のマーケティング」は現在まで続いています。
これからやっていくマーケティングの講義は、この「顧客志向のマーケティング」を中心にやっていきます。

このような流れを経て、現在のマーケティングは生まれました。


マーケティング・マネジメント
今回はマーケティング・マネジメントについてやっていきましょう。

(1)マーケティングの定義
まずは、マーケティングの定義からです。
色々な定義がありますが。まとめると効率的に売れる仕組みを作るということになります。

この「仕組み」を作るために、これまで数多くの企業が様々な挑戦をしてきました。そして、それらの研究結果をまとめたのが、これから学んでいく「マーケティング論」になります。

さて、最初にやるのは「マーケティング・ミックス」です。
 マーケティング・ミックスとは、マーケティングに用いられる一連の手法および活動のことをいいます。そして、マーケティングを構成する要素は色々ありますが、通常4つのカテゴリーに分類されます。
それは「Product:製品」「Place:流通」「Price:価格」「Promotion:プロモーション」の4つです。頭文字をとってマーケティングの4Pとか単に4Pと呼ばれます。
重要用語ですので、必ず覚えてください。

それでは1つ1つ見ていきましょう。
 1、Product 製品
製品そのものです。形があるものを製品といい、形がないものをサービスといいます。サービスの例としてはホテルやマッサージがあります。
とにかく商品が良くなければ、そもそも誰も買いたいとは思わないですよね?ちなみに、製品の価値は機能や品質だけでなく、デザインやパッケージ、サイズなども関係してきます。
機能や品質については説明の必要がないでしょう。デザインは例えば左利き用のはさみや包丁などが例です。パッケージはちょっと難しいですね。
例えば豆腐パックが例として挙げられます。昔は豆腐は豆腐屋さんにボールを持っていてそのボールに入れてもらうという形で販売していました。でも今だとこのような形では売れないでしょう。豆腐パックというパッケージがあるからこそ、現在豆腐は売れるのです。
またお菓子や食品では、通常サイズとは別にミニサイズも販売されています。

他にも販売単位を変更することもできます。遊園地なんかだと通常のチケットの他に年間パスポートもありますね。これは「入場料」を別の販売単位にしているよい例です。

 
 2、Price 価格
 これは納得がいくでしょう。どんなにいい商品であっても、高すぎると買えません。ちなみに、高額であったとしてもクレジットカードの分割払いを取り入れることで多少高額でも買ってもらうこともできます。

 3、Place 流通
製品が非常によく、値段も手ごろ・・だったとしても、お客さんのもとへ届かなければ意味がありません。
例えば、食品なんかは近くのスーパーを利用される方が多いと思います。
しかしもし、近くの店に自分が欲しい商品(例えばシュークリームとします)がないならとりあえずその店に置いてある他のエクレアだったりプリンで済ませてしまうのではないでしょうか。こうなると、シュークリームの売り上げは下がってしまいます。そのために流通は非常に重要となってきます。
企業はアフターケアや料金等を考え、慎重に流通業者を選びます。
料金が高いとお客さんに提供する価格がどうしても割高になってしまいます。
アフターケアは例えば運んでいる最中に壊れた場合の対処法です。割引してくれる業者としない業者だと前者の方が選ばれそうというのはそこまで難しくない話だと思います。

 4、Promotion プロモーション
これは、製品・サービスの情報の伝達だと思ってください。
 流通とも少し重なるのですが、お客さんに製品を買ってもらうためにはその商品の存在と良さを分かってもらう必要があります。さらに、もし間違った使い方が広がるとその製品の評価が下がってしまいます。
そのために、企業はいろいろな手段を使って商品を伝えていきます。例えば、CMや実演販売などが挙げられます。また、広告の媒体も重要です。テレビ、新聞、SNSなど様々なものがあり、どれを選ぶかによって効果は変わってきます。
例えば、おもちゃの広告を子供が読まないであろう新聞などに載せてもあまり効果はないでしょう。それよりはアニメや子供番組のCMなどで流した方が効果的でしょう。


 企業はできるだけ収益をあげるため、安定してよい製品を届けるため マーケティング・ミックスにおいてどの戦略をとるかを常に追及しています。
もちろん、どの戦略が最適かに答えはありませんし、時代とともに答えは変わってくるでしょう。とはいえ、それだと何もできないのでどの戦略をとるべきかを判断する材料の1つとして「SWOT分析」があります。

SWOTとは
 SがStrength 強み
 WがWeakness 弱み
 OがOpportunity 機会
 TがThreats 脅威 
を表します。この4つの頭文字をとってSWOTと呼ばれています。
この4つを書かせる問題もたまに出るのとSWOT分析について説明する場合それぞれ何の頭文字かを答えたほうがよいと思います。なので、しっかりと覚えましょう。
意味はそのままです。わかりにくいのは機会でしょうか。これは環境の変化、他社・業界の動きなどになります。海外進出すれば、それだけ市場が広がりますし、代替する産業が出てくれば厳しくなることが考えられます。

わかりやすいように、ゲーム会社最大手の任天堂を例にSWPT分析を行ってきます。
強みとしては、国内No.1のゲームメーカーや知名度、キャラクター
弱みとしては、顧客層の偏り
機会としては、巣ごもり需要、海外市場
脅威としては、スマホゲームやSNS(ゲーム以外の娯楽)
といったことが挙げられます。

マーケティングで、非常に重要な考えですので、宿題として何かお好きな企業を1つ選びS・W・O・Tをそれぞれ考えてみてください。
どこの企業にも絶対にあります。ちなみにBtoC企業の方が調べやすいと思います。
(この章のまとめ)
マーケティングの4P→ Product,Price,Place,Promotionのこと
SWOT分析→ S(強み)、W(弱み)、O(機会)、T(脅威)の4つのこと。企業が事業や環境を把握する上で有効なフレームワークの1つとなっている。
価値形成

今回のテーマは「製品・サービスとは何か?」です。
これはいろいろな答えがありますが、顧客が抱えている問題を解決する「便益の束」と言えないでしょうか?(神戸経営で以前出題例あり)

例えば、みなさんジュースを買いますよね?なぜ買うのかというと「のどの渇きを癒す」「休憩のため」「おいしいから」など様々な理由があると思います。

まず、「のどの渇きをいやす」というには顧客の「のどの渇き」という問題の解決になります。
次に、「おいしいから」や「休憩のため」は少し難しい言い方ですが、便益となります。
製品・サービスには便益が複数あるのもあるため、「便益の束」という言えます。

加えて、もう一つの理由として、製品・サービスには製品・サービスそのものがもたらす以外の要素もあるからです。例えばパッケージ、備え付けサービス等です。
シャンプーが買えるのはボトルがあるからです。また、ボトルは、シャワーを浴びていて目が開けられないときにもわかるようにサイドにポッチがついています。もしよかったら、家のシャンプーやリンスを見てみてください。
また、エアコンは備え付けてもらわないと自分で工事をする羽目になりますが、それはめちゃくちゃ大変です。そのため備え付けサービスも重要になってきます。
製品・サービスを提供するときこうした付加的な要素を考えることも重要になってきます。
ちなみに、構成要素をセットにして販売することをバンドリング、別々に販売することをアン・バンドリングといいます。
「バンドリング」と「アン・バンドリング」を同時に提供している例としては宅配ピザがあります。ピザは宅配もできますが、店舗から直接買ってくることもできますからね。

さて、そんな製品・サービスですが、実は細かく分類できます。
まずは「製品」と「サービス」という分け方です。形があり、購入後にその機能を使えるものが製品で、ホテルやタクシーなど形がなく、すぐにしか利用できないものがあります。
こちらは「サービス」です。

 製品はさらに分類ができます。
まずは、冷蔵庫や家などのように何年にもわたって使用できるものです。こちらは「耐久財」と呼ばれています。また、食品やシャンプーなどのように1回から何十回の使用でなくなってしまうものもあります。こちらは「非耐久財」と呼ばれてます。
耐久財は長く使うために信用やアフターケアが重要になってきます。一方の非耐久財は様々な場所で手軽に買えることが重要です。

 次に「消費財」と「産業財」という分け方です。
製品やサービスには、おもちゃや食品などのように消費者を主なお客さんとしているものと、医療器具や黒板など病院や学校など組織体を主にお客さんとしているものがあります。
前者の消費者がお客さんの製品を「消費財」、後者の組織がお客さんの製品を「産業財」と言ったりします。
ちなみに就職のときには、消費財を提供する会社をBtoC、産業財を提供する会社をBtoBと言ったりします。

(2)価格設定
次に価格についてやっていきます。企業が新しい製品・サービスを出すとき、どんなにその製品・サービスがよかったとしても、高すぎると売れ行きは悪くなります。

皆さんの中には価格を安くすれば、買ってもらえるのでは?と考える人もいるかもしれないですが、そう単純な話ではありません。
以上のことを踏まえて、企業が価格をどのように設定するのか詳しく見ていきましょう。

 (ⅰ)安さ
まずは「安さ」です。これはわかりやすいですね
例えば、マクドナルドは1990年代後半に、ハンバーガーの平日半額セールを実施し、見事販売数量を激増させることに成功しました。

一方で、安くしたのに売れなかったという例も多々存在します。例えばスクールや情報商材なんかはあまりに安すぎると品質が心配されるのか、申し込みや購入量が減ることがあります。ちなみに、ミクロ経済学では値段を安くしたら、需要が減る財をギッフェン財といって、アイルランドのジャガイモがよく例として挙げられます。

また「安い」と利益が十分にとれないことも問題となってきます。
このように製品・サービスを安くするだけでは解決しない問題があることおよび安くするにも限界があるということが分かっていただけたでしょうか。

このため、マーケティング担当者は「需要の価格弾力性」「価格に依拠した価値の推定」「マーケティング・ミックスとの連動」「小売りマージンとのインセンティブ」といったことを考える必要があります。

今挙げた用語がよくわからないという方もいると思いますので補足して説明します。
①需要の価格弾力性
 経済学を学ばれている方は馴染みのある用語だと思います。最初に教科書的な定義を言うと「価格が1%変化したとき、需要量が何%変化するか」です。
まず、食品とダイヤモンドについて考えます。
人間は食べなくては生きていくことが出来ません。例えば収穫量が激減したとして、食品の値段がものすごく上昇したとします。
それでも、私たちは生きていくために食品を買わないという選択肢をとることは出来ません。食品は価格が多少増加しても需要量が大きく変動することはありません。(A5ランクの高級肉やお刺身なんかは大きく変動すると思いますが)。このように、食品などの必需品は価格が変化しても需要量の変化が小さい、すなわち価格弾力性が小さいと言うことができます。
次に、ダイヤモンドについて考えます。
ダイヤモンドは別に無くても生きていくことが出来ます。そのため、価格が高いときに無理して買う必要はありません。ダイヤモンドのような高級品を経済学では奢侈品と言います。
そして、奢侈品は価格が上がると一気に需要量が減少します。つまり、価格弾力性が大きい財と言えます。
 さて、マーケティングの話に戻ります。需要の価格弾力性が大きいとマーケティング担当者は原価が上がったとしても価格を引き上げることが出来ません。
そのため、価格を下げるといった戦略を避けるようになります。一方で需要の価格弾力性が小さい製品については値段を引き上げる戦略も可能です。
実際に食品なんかは一昔前と比べて内容量が少なくなったりしていますよね・・・。

②価格に依拠した価値の推定
 皆さんはブランド物や情報商材を買った経験はあるでしょうか?
買ったことがないという方も購入する場面を考えてください。
まず、目の前に見た目は全く同じバッグですが、それぞれ値段が1300円と20000円というように価格が異なっています。
この時、皆さんは20000円のバッグの方が品質がいいんだろうと考えますよね?
このように、人は無意識のうちに価格をもとにしてその製品の価値を推定します。
そして、価格設定の難しいところはここです。一度安売りしたらたしかに多少なりとも販売量は増えることになります。ですが、再度価格を上げることはなかなかできません。
世の中にはたいてい代わりとなる製品・サービスがありますし、値上げになかなか世の中は厳しいですからね。一度この値段とイメージがついてしまうとそれを払拭することは困難を極めます。
実際の例としてマクドナルドがあります。マクドナルドは割と以前から低価格戦略を行っていました。しかし、どうしても利益が取れないわけです。(マクドナルドは全国に店舗を持っていますし、従業員の数も多いですからかかってくる費用も多いんでしょうね。)
そこである時値上げに踏み切ったところ、業績がガクンと下がってしまいました。
当時SNSとかで騒がれていた声の中には「その値段ならモスバーガーへ行く」や「マックにそこまでの金額は払えない」といった声でした。
長いこと低価格にしていたために、マクドナルドに対して払う価格はこのくらいが妥当であると思われてしまったんでしょうね。
このように低価格戦略は短期的には良い影響をもたらしますが、長期的には悪影響をもたらしてしまうこともあるよというケースでした。

③マーケティング・ミックスとの連動
 まずはマーケティング・ミックスを思い出しましょう。
実はプロモーションや製品、流通を工夫することによって、収益性を高めている製品は数多くあります。
例えば、昔からテレビ番組で人気のジャンルに「潰れそうなのに潰れない店」があります。
私自身こういった本を書いているぐらいですからよくそうした番組を視聴するのですがこういった店の多くはマーケティング・ミックスとの連動を上手く利用していることが多いです。
面白い例はたくさんあるのですが、布団屋を今回はご紹介します。
皆さんは布団を人生で何度買い替えたことがあるでしょうか?おそらくこの本の読者は20歳前後の方が多いと思いますがせいぜい1,2回だと思います。
つまり、布団というのはそこまで売れる製品ではないわけです(全国の布団屋さん、失礼!
でも、町の布団屋でやっていけているところ意外と多いですよね?これはなぜかというと多くの場合は「貸し布団」をやっているからだそうです。
例えば部活の合宿やお泊り会などでたくさんの人が学校なんかに泊まるときに学校には布団なんてありませんからそういった団体やイベントに対して貸し出すわけです。
そのレンタル料でやっていけている布団屋は結構多いとのこと。
加えて現在はインターネットによる販売をしている店舗も多いそうです。インターネットはそれこそ全国から注文が入りますからね。こういった工夫を凝らすことで、町の布団屋さんはやっていけているそうです。
さて、それではこれをマーケティングの視点で分析してみましょう。
まず、流通について。インターネット販売をすることによって、それまでは近所の人しか利用できなかったのが、全国の人が利用出来るようになったわけです。つまり、地理的な制約がなくなったわけです。加えてインターネットに載せておけば全国の人の目に留まるわけですからプロモーションとしての意味もあるわけです。
最後にProductについてです。布団屋さんは「布団」という製品だけではなく、布団の打ち直しやレンタルなどのサービスも提供しています。つまり、製品の幅を広げることで利益を得ることができています。
さて、とは言っても競争は存在します。同じレンタルにしてもどうせなら価格が安いもしくはお得に思わせるポイントがないと他店に顧客をとられることとなります。
このため価格をつけるにおいて、マーケティング・ミックスとの連動が重要になってくるわけです。価格を高くつけても利益を出すにはどうすればよいか?やプロモーションを盛り上げるためにはどういった価格戦略がよいのか?などを考えなくてはいけません。

④小売マージンとインセンティブ
 小売店には多くの製品が並んでいます。それらの製品は小売店ではなく、別のメーカーが生産したものです。(一部製造から販売まで全部やってしまう企業もありますが)
さて、実は同じ小売価格でも小売店の取り分は製品によって異なります。小売店だって儲けを出したいわけですから、当然自分の取り分が多いメーカーを優遇します。
すると各メーカーはこぞって取り分が多くなるに調整します。この点も価格設定に深く関係してきます。

以上のように価格設定がそう簡単に出来ないということがわかっていただけたでしょうか?


価値実現

それでは次に「流通」についてやっていきます。

(1)流通チャネル
企業は製品・サービスを作っただけではダメです。きちんと顧客の手元に渡るまでの流通経路を作る必要があります。こうした企業が産出した製品・サービスが、顧客の手元にわたるまでの流通経路のことを流通チャネルといいます。
この流通チャネルの構築はマーケティングにおいてものすごく重要です。

流通チャネルには物流、情報流、商流の3つの流れがあります。

 ①物流
これは普段のニュースなんかでも耳にすると思います。工場などで生産された製品が、倉庫や店舗を経由して最終的な顧客の元へ届けられることです。役割として、作り手と買い手の間の空間的、時間的なギャップを埋めます。基本的な手段として「保管」と「輸送」があります。
 
 ②情報流
さて、この物流をスムーズに行うためには、情報の伝達も必要となってきます。例としては、どれくらいの個数を発注するのかやいつまでに店舗に届けるのかです。
例えば食品。あまりに個数が多すぎると売れ残ります。トイレットペーパーなどの消耗品かつ腐らない商品ならある程度長く置いておくということも可能ですが、食品は腐りますから出来ません。売れ残りは損となりますし、廃棄するにも費用がかかります。
そのために、情報の伝達は重要になってきます。また、新しい家電製品を出した場合、使用方法などの情報を伝えていくことも重要です。

 ③商流(取引流通)
取引の流れ、つまり流通業者間の売買で商品の所有権が移動していく流れです。例えば、メーカーが卸売業者に製品を売ったら、その製品は卸売業者のものに、小売店に売ったら、その小売店のものになります。このように、その商品の持ち主が移動していくことが商流です。
物流と似ていますが、物流はただ単に製品が運ばれていくことで、所有権とは無関係です。
一方、商流は所有権の移動を意味します。
ちなみに、製品が動くけど、所有権が動かない例として書店の本が挙げられます。
本が書店で売れ残ると出版社に返品されます(一部の文庫本は違いますが)。本は所有権が小売店に移らず、出版社のままになっています。

また、流通チャネルには3つのタイプがあります。
1つ目は生産者から消費者にダイレクトで届けるパターン
2つ目は生産者から小売業者へ行き、消費者へ行くパターン
3つ目は生産者から卸売業者、小売、消費者と行くパターンです。

それぞれ実際の例を出すと
1つ目は屋台や伝統工芸を売っている店などが例です。
2つ目は田舎によくあったりするのですが、農産物直売所が例です。こういった店はその直売所の近くに住んでいる農家の方がその店まで野菜を運んでその直売所の人が売るという形式をとっています。
3つ目は一般的ですね。コンビニ、スーパー、ドラッグストアなど多くの例があります。

(2)流通業者はなぜ存在するのか?
多くのメーカーは流通業者を利用しています。もし、流通業者を間に入れなければ流通業者に払うマージンが無くなるため利益がより増えることになります。加えて製品の入れ替えなどもよりスムーズにできます。にも関わらず多くのメーカーが流通業者を入れるのは入れることによるメリットがあるからです。

今回は流通業者を入れるメリットを見ていきましょう。
①消費者の小規模分散性への対応
 生産拠点はそこまで多くなく、たいていのメーカーは数か所の工場で製品を製造しています。
しかし、その製品の消費は全国津々浦々ありとあらゆる場所で行われます。また、1人1人の購入金額はそこまで大きいものではありません。
そうなると生産者がいちいちそれぞれの消費者のもとまで運んでいては時間と費用を大幅にロスすることになります。それにそんなことをしていたら赤字になったり、運営が回らなくなるのは目に見えています。そこで、すでに全国に拠点を持っている小売業者のネットワークを頼るわけです。彼ら小売業者に製品を渡せば、全国の消費者に販売してくれますからメーカーにとってみれば非常に便利なわけです。

②資金調達とリスクの負担の軽減
 より多くの人に買ってもらうためには、より多くの販売拠点を確保する必要があります。
メーカーが全国に店舗を設立しようと思うと、費用や時間がものすごくかかることになります。これだけの資金を調達できるでしょうか。
それだけではありえません。支店がうまくいく保障なんてどこにもありません。だから、店舗を出したけど大赤字となってしまうことも十分にありえます。
日本経済新聞による2020年度の全国飲食業調査によると、2020年の1年間で5000店以上が閉店したとのことです。この中には誰もが知っている有名外食チェーン店も含まれています。有名チェーン店はブランド力やコストを抑える工夫を徹底してやっていますがそれでも潰れてしまう店は出てきてしまいます。
それほど店舗を維持し続けるというのは難しいわけです。
ですが、すでに全国に拠点を持っている小売業に依頼すれば、資金調達やリスクの負担の軽減につながります。そのため、多くのメーカーが小売店に販売を依頼しているわけです。

③スピーディーな展開
 流通チャネルを自社で用意しようとすると、スピーディーに対応することができません。
例えば、店舗を作ろうにも、条件のよい場所はすでにとられてしまっています。加えて、消費者に直接販売しようとしたとき、消費者1人1人が買うのはわずかな量です。生産した分が全部売り切れるまでにはかなりの時間がかかります。
こうすると、製品の開発にかかった費用の回収に時間がかかることになります。費用がかかると投資ができなくなるため、結果として事業拡大のスピードが遅くなります。

④社会的な品揃えの実現
 みなさんがドラッグストアやコンビニに行くと店内にはたくさんの商品であふれていると思います。たくさんの商品があるからこそ、みなさんはそれぞれの商品を比較・検討して購入することができます。特定の会社の商品しか売っていない店だと、比較もできないですし、何より1つの会社が提供できる商品の種類数はそこまで大きくありません。
みなさんはこうした店は行きたくないですよね。そこで小売店は多くの人に来てもらうため、多数の企業の製品・サービスを幅広く取りそろえることが重要です。ちなみに、このことを「社会的品揃え」といいます。
社会的品揃えが実現していると消費者はまたその店へ行こうとします。そうなれば、より多くの人にその製品・サービスを見てもらうことになり企業の利益の向上につながります。

⑤取引数節約のため
 皆さんが小説、数学の参考書、英語の参考書の3冊を買いたいと思っていたとします。その時はたぶん本屋へ行くか、ネット書店で検索すると思います。しかし、もし、こうした小売店がなかったらどうでしょうか。皆さんはいちいち小説の出版社、英語に強い出版社、数学に強い出版社を回らなくてはいけません。
そんなのは面倒ですから、多くの人は3つとも購入することを諦めるでしょう。こうなると企業の売り上げは落ちることになります。
また、売る側にとっても欲しい人全員にいちいち売っていくのは大変です。しかし、流通業者が間に挟むことで取引数がぐっと節約されるのでこの問題は解決します。

(3)流通業者の選択 小売業態+店舗密度

①小売業態の選択
 小売業は、ネットショップ、百貨店、コンビニ、専門店など様々です。
企業はこの中から、ターゲットやマーケティング・ミックスを考慮し、どこで販売するかを決めます。どこで売るかで売り上げは変わってきます。
例えば、スナック菓子は百貨店に売るよりはコンビニに売った方がいいでしょう。スナック菓子を買うために百貨店に訪れる人はまずいないからです。他にもホームセンターはシャンプーなどの日用品も販売しているのですが、多くの人はシャンプーを買うときはホームセンターよりもドラッグストアなどへ行くので安くしてもあまり売れないそうです。
せどりをやっている方はこれを利用して利ザヤを得ているそうですが。

②店舗密度の選択
 最寄り品と買回り品という用語をまず覚えてください。最寄り品は、購入頻度が高く、習慣的に購入される製品・サービスです。卵とか歯磨き粉、トイレットペーパーなどが例としてあげられます。こうした商品はなるべく住宅地の近くに高い密度で確保することが重要です。
 次に買回り品とは、家電のように、比較的高価で購入頻度が低い製品・サービスです。
例としては布団や車、家電などです。
こうした商品は1回買うとなかなか購入しないために、消費者は何件もはしごすることが多いです。多少遠くてもかまわないという消費者も少なくないです。そのため、商圏は広くなります。また、ラインナップを充実させるために、比較的広い郊外の店舗が必要となってきます。

 店舗密度が高ければ高いほど良いと考える方もいるでしょうが、それは違います。どんなに小さい店でも土地代とか電気代など維持費は結構かかってくるからです。
つまり、ポンポンと気軽に店舗を出すことは出来ません。なので、店舗密度をどれくらいにするかを考えることは非常に重要となるわけです。

(4)企業による情報伝達
・プロモーションとメディア
製品・サービスを買ってもらうためには、その製品・サービスの情報が十分にいきわたっている必要があります。消費者がその製品・サービスを知らないなら買うことはありませんからね。そのためにプロモーションが重要となってきます。
※プロモーションってなんだっけ?という方はマーケティングの4Pを見直してください。

今回はプロモーションを掘り下げていきます。プロモーションで重要なのは、
 ①「何を伝えるか」の選択
 ②「どのように伝えるか」の選択
の2つです。

(5)製品・サービスを語る
 みなさんがコーラやチョコレートを売るとしたら消費者に対するメッセージとして何を伝えるでしょうか。
「おいしい」とか「甘い」だけだと、インパクトがなくていまいち印象に残りません。そこで、マーケターたちは色々な切り口からキャッチコピーを考えています。

キャッチコピーをいくつか紹介します。
「そうだ、京都へいこう」→ JRのキャッチコピーです。ポスターに書かれていることも多かったのですがポスターに載っている写真と見事にマッチしたキャッチコピーでした。
「ピッカピカの一年生」→ 小学館のキャッチコピーです。CMでもこのフレーズが使われており多くの人に印象付けられたと考えられます。

(4)メッセージの戦略的な選択
 みなさんも、覚えやすかったり、印象に残っているメッセージがあると思います。
企業はメッセージを真剣に考えます。それでは、戦略的に優れたメッセージとは何でしょうか。ポイントは以下の3つです。
 ①買いたくなること
 ②競争相手が模倣しにくく、優位性があるもの
 ③マーケティング・ミックスの他の要素との整合が取れていること。

優れたメッセージとして個人的にすごいと思ったのは、iPodの「1000曲を持ち歩ける!」です。これはアップルの創業者 スティーブ・ジョブズによるものでした。もし、ここでGBなどの説明をしていたら、たぶん顧客には何も響かなかったでしょう。
容量が大きければなんとなく凄そうというのは伝わりますが、それ以上の感想をもたれるのは難しいでしょう。
また、「1000曲を持ち歩ける」ということで、従来の音楽プレーヤーとも差別化することに成功しました。
このように、優れたメッセージがあることで、同じ商品でも売れ行きや印象が変わるということがわかっていただけましたでしょうか。

 メディアの選択
製品・サービスの情報を伝えていく手段として、「広告活動」「PR活動」「人的販売」「セールス・プロモーション」という4つがあります。これら4つはまとめて「プロモーション・ミックス」と呼ばれています。
もうわかると思いますが、企業は4つをどう組み合わせていくかを考えることが重要です。
メディアを選択する際、3つの条件を考える必要があります。
 1、より多くの人に確実に伝わること
 2、ターゲットに効率的に伝わること
 3、映像、音声、製品情報の詳細な提示
です。まあ、ここまでマーケティングの講義を受けてきたみなさんだったらだいたいわかると思います。要はお客さんにしっかり伝わることが大事です。

それでは、話を戻して「プロモーション・ミックス」の4つについてみていきましょう。
こちらは以前神戸大の経営の編入試験で出題されたことがあります。

1、広告活動 
 多くの人に見てもらえるメディアや場所に、自社の製品・サービスの情報を表示する活動です。テレビとか雑誌を用いたマスメディアが有名ですね。あとはネット広告でしょうか。

2、PR活動
 広告と違い、間接的なメディア利用です。様々なメディアで取り上げられることを狙った情報提供活動になります。例としては、展覧会や展示会などが典型的な例としてあげられます。これ以外にも、社会貢献や情報公開を通じて、企業や製品のイメージを向上させることもPR活動の一環といえます。近年ではSNSの運営などもPRとして強い影響力を持つようになってきました。
有名なのは日清食品のカップヌードルです。ここ数年でフォロワーが急増し、結果としてカップヌードルの売り上げは発売から50年経つにも関わらず毎年過去最高を記録しているそうです。

3、人的販売
 営業マンや販売員など人を用いて、顧客との直接的な会話を通じて製品・サービスの情報を提供していく活動のことです。人が頑張って販売することなんだなと思っていただければ大丈夫です。

4、セールス・プロモーション
 製品・サービスにかかわる情報を伝えるための活動で、これまでに紹介した広告活動、PR活動、人的販売に属さない活動のことを指します。例としては、スーパーなどでよく見かける試食ですとか、おもちゃ屋などで実際に一部のおもちゃが遊べるといったように実際に直接使用できる経験を与える活動が含まれます。

さて、これまでプロモーション・ミックスを見てきましたが、製品・サービスに関わる情報を伝達するための手段はプロモーション・ミックス以外にもあります。
例えばデザインや素材、価格帯といった要素でも製品・サービスのあり方は異なります。

こうしたプロモーション・ミックス以上のマーケティング・ミックスも関係してくるコミュニケーションのことをIMCと呼びます。
例えばドン・キホーテにみなさんは行ったことがあるでしょうか。レイアウトや価格帯を通じて、顧客にインパクトを与えており、「ドン・キホーテ」ブランドの確立および差別化に成功しています。IMCによって、ブランドの特異性をプロモーション・ミックス以上に強く印象づけています。これは他のブランドでも多かれ少なかれやっています。
みなさんももし買い物に行かれる場合には、その会社がどうやってIMCを展開しているか考えてみてください。

マーケティング資源の配分

今回から資源の配分についてやっていきます。
早速ですがみなさんは、投資の世界の「一つのかごに卵を盛るな」という格言を知っているでしょうか?

これは軍資金を卵に、投資先をかごにたとえ、1つの株式に全財産を投入してしまうと、その株式がダメになった場合かなりのダメージを受けるから、なるべく分散して投資した方がいいよ というアドバイスです。

さて、もし皆さんが資金を十分に保有しており、すべての株式に十分に資産を分配できるのならそれが理想ですが、そこまで余裕がある人ばかりではないです。そこで、限られた資産をどの株式に、どれくらいの配分で分散して投資をするとなるべくリスクを背負わずによりよい収益を得られるかが考えられてきました。
このようにリスクと収益性のバランスを考えた投資の組み合わせを「ポートフォリオ」といいます。ファイナンスを学ぶとよく目にする用語です。

 そして、企業の方も同様にして自社の事業や製品にどれだけの資金および人を分配していくかを考えていきます。これはポートフォリオの考え方に似ていますので製品ポートフォリオと呼ばれています。

さて、前置きが長くなりましたが、今回からはこの「製品ポートフォリオ」について深く見ていきたいと思います。

(1)PIMSプロジェクト
アメリカでは1960年代後半に成熟経済への移行が始まりました。これまでは割と何を作ってもそれなりに売れる時代でしたが、だんだんと製品が売れなくなってきたわけです。
そこで、経営資源をより効率的に活用する経営手法の開発が求められるようになりました。
これがPIMSプロジェクトの始まりでした。彼らは事業ごとに事業収益率やキャッシュフローが変化する影響や理由を模索していきました。

(2)市場シェアをとることの優位性
その後PIMSプロジェクトでは何千というデータを用いて、戦略と利益率の関係についての研究を進めていきました。
そして、「どこの産業や市場でも、市場シェアと利益率に正の相関関係がある。」ということを明らかにしました。つまり、シェアが高いほど利益率が上がるということです。ここから、先はなぜトップシェアだと利益率がよいのかについて見ていきます。
ちなみに、神戸大で出題例があります。
 
(3)なぜ、市場シェアが大きくなると収益性が高まるのか?
これは主に2つの理由があります。それは、「規模の経済性」と「経験効果」の2つです。

 ①規模の経済性
まずは、規模の経済性です。これは、事業規模が拡大するにつれて、製品・サービスの単位あたり生産コストが減少していくことです。
規模の経済性が起きる理由は生産量が増加するにつれて、製品1単位あたりの固定費用が減少していくからです。
分かりやすいようにおにぎりを製造している工場Aを想定します。
工場Aではおにぎりを握る機械を導入するのに50万円かかったとします。これは生産量がいくつであったとしても変わらないので固定費ですね。
そして、おにぎり1個生産するためにはご飯や海苔、具が必要となります。
この材料費についてはおにぎりの生産量と比例しますから、変動費ですね。
ここでは、おにぎり1個当たりの変動費が50円だとします。
さて、工場Aがおにぎりを1個生産したとします。
すると、このおにぎり1個生産するのにかかった費用は50万50円です。
超高級おにぎりですね(笑)。
次に1000個作ったときを想定します。1個あたりかかる費用は550円となります。先ほどよりずいぶん安くなりましたね。とはいえ、利益を考えると600円ぐらいになりそうです。600円のおにぎりはなかなか売れないでしょう。
それでは10万個生産したらどうなるでしょうか?1個当たりの費用は60円。かなり安くなりましたね。100円で売っても十分利益が出ます。
このように、製品1単位あたりの費用が生産量を増やすほどに安くなるということが理解していただけたでしょうか?
これが「規模の経済」が発生するメカニズムです。
さてここで、重要なのは大量に作っても売れなくては意味がありません。シェアが大きい方がたくさん売れるので、企業はシェアを拡大させたいと考えるわけです。

また、この規模の経済性が発生する要因はいくつかあります。代表的なものとして、3つ紹介します。テストでも重要なので覚えておきましょう。
 ①設備の大規模化(青)
 大規模な設備の方が、小規模な設備よりも生産効率が良いということです。
例えば、マヨネーズで有名なキユーピーでは、1分間でマヨネーズの原料である卵を600コ割ることができます。昔は人力で小規模にやっていたわけですが、1分間で600個割ろうと思うとかなりの人が必要になり、かつそれだけ人件費がかかります。
 このように、設備が大規模化すると製品1単位の費用が下がることが分かったと思います。

 ②間接費負担の軽減
 先ほどは設備を見ましたが、大規模な設備を必要としない広告や研究開発などの活動でも規模の経済性は見られます。
洗剤の広告を例に見てみましょう。
例えばトップ企業が50%、2位の企業が25%のシェアを占めていたとします。この時、2位の企業がシェアがトップ企業の半分だから広告費も半分だとどうなるでしょうか。
なかなか厳しい戦いになりますよね?ただでさえ、シェアで負けているのに広告でも差をつけられたら認知度にはより差がついてしまうことになり、販売量もどんどんと差をつけられてしまうでしょう。
かといって、トップ企業と同等もしくはそれ以上の広告費を導入しようとすると販売量が少ないため負担はかなり大きくなります。
このように、トップ企業は製品1単位あたりの広告費の負担が、2位以下の企業よりも少なくて済みます。また、研究開発費や設備投資に回せる余裕も大きいです。
 こうした、広告、研究開発などをまとめて間接経費といいます。そして、シェアが低い企業ほど製品・サービスの単位あたりのコスト負担が高くなります。

 ③調達コストの低下
 企業は外部から原材料を調達します。生産・販売の規模が大きい企業は、調達するときに、大量購入・輸送による割引を活用できます。
そのため、1単位当たりの費用が減り、結果として利益の向上につながるわけです。

(4)経験効果
経験を積んだ集団の方が、経験を積んでいない集団よりも業務を効率的にできるという効果です。まあ言ってしまえば当たり前ですよね。何度もやっていれば人間慣れますからね。
市場シェアが高い企業ほど、より多くの製品・サービスを生産・販売することになります。そのため、より多くの経験を得ることにつながります。
 さて、ここが重要なのですが、規模の経済性は「生産量」が関係してきますが、経験効果は「累積生産量」が関係してくる点です。
例えば、コーラ業界を考えましょう。新たにコーラ業界に参入した企業がペプシコーラやコカ・コーラなどと同じぐらいの工場を建設して、大量に原材料を買い付けたとします。
この場合ペプシコーラとコカ・コーラは規模の経済性を失います。しかし、2社は新たに参入した企業よりも経験があるため経験効果で上回ります。結果的に新たに参入した企業よりも低いコストで生産できます。

 それでは最後に経験効果を生み出す4つの要因を見ていきましょう。
 ①習熟を通じた能率の向上
 そのままですね。従業員がどう動けばいいかがわかるようになるので能率が上がります。

 ②生産工程や生産設備の改善
 経験が多くなるにつれ、欠点が明らかになってきます。そのため、生産工程の見直しが行われ、結果として改善につながります。

 ③投入要素の変更
 先ほどの改善にもつながるのですが、生産工程や設備が改善されると職人ではなくより賃金の安いアルバイトやパートさんでも生産ができるようになります。人件費が下がります。また、より安い生産要素への転換も行われます。

 ④製品の設計変更
 原材料があまりかからない設計変更や、より効率的に生産できるような設計変更が行われます。
先ほどは「なぜ市場シェアが大きくなると収益性が高まるのか」という問いに対する答えとして規模の経済性と経験効果という供給面を紹介しました。
しかし、それだけではありません。市場面での効果もあります。

 ①市場独占の効果
 市場シェアが大きくなると、企業は価格をある程度コントロールすることができます。
理由としては大きく2つあります。
 1つ目の理由は、独占企業が分かりやすいです。企業のシェアが高いと、お客さんはそこの企業の商品が欲しい場合、多少製品の価格高かったとしてもその企業から買うしかありません。
高くても売れるので、企業は少々高めに値段を設定するわけです。価格が高くなれば、当然収益性も上がることになります。

 ②マーケティング効果
 市場シェアが大きくなると、「企業としての存在感」が大きくなります。このことで、3つのマーケティング効果が期待できます。
 1、認知効果
自動車がよい例です。シェアが高い車ほど道路を走ります。そうすれば、それだけ多くの人の目に入ります。企業側が特にお金をかけることなく、宣伝になるんですね。

 2 、評価効果 
シェアが高い企業の製品・サービスはよく売れます。なので、店側もお客さんが取りやすい場所に広く配置します。これは、例えばトップシェアに詳しくない人でも「この会社の商品は売れているよ、みんな使っているよ」と伝えることになるのです。
他にもインターネットで買い物をする際よく売れている商品の方が検索に引っかかりやすく、またアフィリエイトサイトで宣伝してもらいやすくなります。

 3信用効果
トップシェアということで、顧客から高い信用を得ることができます。
信用を得られると、他社から乗り移ってくれるお客さんも期待できます。
例えばマクドナルドは世界中に店舗を持っています。海外旅行に行った人が現地で何を食べていいかよくわからなかったからつい知っているマクドナルドへ行ってしまったという経験を持つ人は少なくありません。また、信用が高い企業は市場から情報を集めやすくなります。

それでは、市場シェアの話はここで終わりにして、次に製品ポートフォリオについて話していきます。

(5)製品ポートフォリオ
 企業は様々な製品・サービスを製造し、いろいろな事業を持っています。そこで、経営者はヒト・モノ・金・情報といった経営資源をどの事業にどれだけ配分すればよいかを考える必要が出てきます。
 どう配分するかを検討する材料や手段はいくつかありますが、最も有名なのが「製品ポートフォリオ管理」、通称PPMです。

PPMの図は超重要なので覚えてください。

画像1

さて、こちらの図では縦軸が市場の成長率、横軸が市場シェアとなっています。
なぜこの2つなのでしょうか?
市場シェアが重要だという話は前回と先ほどの説明でわかっていただけたと思います。
そしてもう一方の市場の成長率はシェアを維持する上で避けては通れない壁になるからです。例えば今市場シェアが40%を占めていたとしても、市場がどんどん成長して特に何も手を打たないままでいたらシェアはどんどんと縮小していくことになります。シェアが縮小すると企業にとっては利益が得られないために、企業が経営資源の配分を考える際に重要になるわけですね。

それでは、PPMの中身を見ていきましょう。先ほどのページに戻って見直してください。
スター、問題児、金のなる木、負け犬の4つです。

①金のなる木
 市場シェアが高く、市場の成長率が低い製品群です。利益率が高いことから、この名前が付けられました。投資をする必要がないにも関わらず、シェアが大きいため資金がためやすいです。この結果資金が不足している他の事業に余った資金を供給することがミッションとなります。

②問題児
 市場シェアが低いのに市場の成長率が高い製品群です。
ここでは、2つの選択肢があります。1つは積極的に投資をし、市場シェアを拡大させること、もう1つは撤退することです。どちらがいいかは一概には言えません。
③スター(花形)
 スターもしくは花形と呼ばれています。本によって違います。
市場の成長率も市場シェアもどちらも高い製品群です。シェアを獲得するためにも、じゃんじゃん投資をしていく戦略がよいとされています。
④負け犬
 市場シェアも市場の成長率も低い製品群です。残された道は撤退しかありません。

以上PPMを構成する「金のなる木」「問題児」「スター」「負け犬」を紹介していきました。それぞれの特徴と企業がその製品・サービスに対してやるべきことをしっかりと覚えておきましょう。

また、この製品ポートフォリオ管理により
①全社的な経営資源の配分を行う際の判断基準
②事業ごとの目標 
をそれぞれ明らかにすることが可能となります。

事業の定義

この章では「事業の定義」についてやっていきます。
その名の通り、どんな事業をやるか?なのですが、そこまで単純ではありません。
どの事業をやるかによって、マーケティング・マネジメントへの影響が変わってくるからです。

(1)マーケティング近視眼 ~ドリルを売るなら、穴を売れ~
ハーバードの教授だったレビット氏は論文の中で後に有名になったあるエピソードを紹介しました。

ある年のアメリカで、小さいドリルが大量に売れたことがありました。
その時ある人が会社の人にこう聞きました。「ドリルの購入者は、何が欲しかったのか?」
さて、みなさんだったら、この質問にどう答えますか?

「ドリルが欲しかったに決まっている」という方、ちょっと待ってください。
ドリルを趣味で集めている人もまあいるかもしれないですが、少数派でしょう。たいていの人は「ドリルで開けられる丸い穴」を欲しがっているわけです。
つまり、彼らはドリルがかっこいい!、珍しいドリルが欲しかったとか、そういった理由でドリルを購入したのではなく、穴が欲しくて、その穴をあけるための手段としてドリルを購入するのです。
つまり、極端な話穴があけられればドリル以外の製品でもよいわけです。

こうした事業を狭く定義してしまうリスクを「マーケティング近視眼」といいます。

またレビット教授は、マーケティング近視眼の例としてアメリカの鉄道会社を挙げました。
アメリカの鉄道会社は20世紀初頭にはものすごく栄えており、鉄道会社の人々は「鉄道」が魅力的だから儲かるのだと思っていました。
しかし、その後自動車や飛行機など他の輸送手段が出始めてくると、鉄道業は衰退することとなりました。
人々にとっては、移動手段として鉄道を利用しただけであって、他の移動手段が登場し始めると鉄道である必要はなかったわけです。
もし、鉄道会社が鉄道を「輸送手段」としてとらえていたのなら、バスやレンタカーなどの事業に乗り出すなどの対策が講じられたとレビット教授は指摘しました。

ここまでの話から、事業の定義で重要なこととして2つのポイントが分かります。
1つ目が、顧客が本当に求めているものは何か です。これは先ほどの「ドリルを売るなら、穴を売れ」ということです。他にも歯ブラシは歯を清潔に保つため、時計は時間を知るためなどたくさんの例があります。
もう1つが、そもそも何をすべきなのか です。時代が進むにつれて、必要な製品・サービス。顧客の要求の変化や技術革新が起こります。
なので、企業は常に何をやっていくべきかを考えていかないとどんな企業でも生き残ることはできません。

(2)マーケティング遠視眼のワナ
さて、先ほどは視野が狭すぎて失敗した事例を見てきましたが、反対に視野が広すぎて失敗することもあります。
こちらは「マーケティング遠視眼」と呼ばれています。

例としてよく挙げられるのは、ゼネラル・エレクトリック社があります。この会社は事業機会を幅広くとらえようとしました。しかし、今度は対応しなくてはいけない事業が幅広くなりすぎて、多額の投資が必要となりました。結果として、資金面での余裕がなくなり失敗につながりました。
ちなみに、この後GEは前回紹介したPPM分析といった事業計画によって、修正しています。

(3)新事業を立ち上げる
新事業を立ち上げる時ほど、事業の定義について考えることはないでしょう。
ここからは、新事業の立ち上げを例に、事業の定義についてより詳しく見ていきます。

事業を立ち上げる際、重要な判断基準として以下があげられます。
 ①経営資源の活用と育成
どうせなら、自社の経営資源を最大限に発揮できるのが望ましいよねってことです。わざわざ不利な勝負をする理由はありませんからね。
 
 ②新しい機能
これで成功した例としては、スマートフォンが挙げられます。それまでは電話と時計、撮影ぐらいしか機能がなかったわけですが、検索や動画配信などもできるようになりました。

 ③新しい顧客
大学受験の予備校なんかが、幼児教育に参入していたりしますね。顧客を広げることで、それだけビジネスチャンスが広がることになります。
あとは海外進出もそうですね。企業の中には本国ではダメだったけれど、海外では成功した例はたくさんあります。(逆もしかり)

まとめると、①成長のカギ ②自社の資源の強み をしっかりと把握したうえで、戦っていくことが重要だといえます。
加えて、事業の定義が異なると、①顧客のタイプや量 ②競合相手 ③流通チャネルに求める条件も変わってきます。
 このように事業の定義の難しさと重要性がわかっていただけたら幸いです。

消費者行動の理解

今回から「消費者行動の理解」をやっていきたいと思います。
マーケティングにおいて、購入してくれるお客さんのことを避けては通れないよねってことです。お客さんが全く求めていない製品・サービスを供給したとしてもただ単に売れ残るだけですからね。

 マーケティング・コンセプトと販売コンセプト
消費者の購買行動に対応するとき、マーケターが使用する枠組みとして「マーケティング・コンセプト」と「販売コンセプト」という2つの代表的な思考の枠組みがあります。

 マーケティング・コンセプト
 一言で言ってしまうと、「消費者のことを理解して、消費者が喜ぶ製品・サービスを作ろう!」という考え方です。マーケティングそのものですね。
要は、お客さんが欲しくないものをいくら作っても意味がないよねってことです。

 販売コンセプト
これは企業が主体となった考え方です。「企業が作り出した製品・サービスをどうやったら消費者に売れるか」という考え方です。

ここで重要なのは、2つの考え方のどちらかに偏ることなく、柔軟に組み合わせていくことです。

 インプット-アウトプット分析とメカニズム分析
マーケターは常に「どのような消費者が、何を必要としているか」と「より多く買ってもらうためには、どうしたらよいか」ということを考えています。
そして、これらの問いに答えるためのアプローチとして、「インプット-アウトプット分析」と「メカニズム分析」があります。

 ①インプット-アウトプット分析(刺激-反応モデル)
どのように消費者を刺激(インプット)したら、どのような購買行動を引き出せるか(アウトプット)という図式で消費者の購買行動を理解するものです。

インプットの例としては広告、サービスのレベルを上げる、新しい販売チャネルの活用などが挙げられます。そして、その結果がアウトプットです。購入量が増えたのか減ったのか変わらないのかといったことを見ます。

②メカニズム分析
 メカニズム分析は先ほどのインプット-アウトプット分析の間を分析することです。
先ほどのインプットがアウトプットにどのように影響をもたらしたのかを分析していくのです。例えば、とくに何もしてないのに急に売り上げが上がるということもあります。
例えば芸能人がブログで紹介したとか何かのブームが発生したなどです。
インプットーアウトプット分析では原因が不明ですが、メカニズム分析では理由がちゃんとわかるといった例もあります。

STPマーケティング
消費者は何かを欲しいと思い、その条件を満たす中で最も良いものを購入する。といった購買行動をとります。
この消費者の行動にマーケティングを合わせたら、それだけ効率的に商品を顧客に届けられそうではないでしょうか。
こうして生まれたのが、「STPマーケティング」です。
それぞれS=Segmentation T=Targeting P=Positioning の頭文字です。
1つ1つ見ていきましょう。

(1)Segmentation(市場細分化)
 これは、市場を細かくわけることです。例えば、本を想像してみてください。子供は絵本や漫画が、受験生だと参考書や問題集、サラリーマンだとビジネス書といったように、欲しい本は消費者によってバラバラです。
消費者が欲しい製品・サービスを供給しないと売れませんから企業はそのニーズに合わせて供給します。
とはいえ、1人1人に対応していたら、とてもじゃないですが時間と手間と費用がかかって仕方ありません。
そこで、企業は顧客をいくつかのグループに分けます。例えば本だと「絵本が欲しいグループ」「参考書・問題集が欲しいグループ」「ビジネス書が欲しいグループ」といった具合です。また「参考書が欲しいグループ」も英語や数学、資格試験といったようにさらに細かく分けていきます。
このように、細かくわけることでこの後のマーケティングや出版もより楽に具体的になります。
ちなみに、このグループのことをマーケティング用語で「セグメント」といいます。セグメンテーションはここから来ています。重要なので覚えておきましょう。
 
・Segmentationのメリット
 こちらのセグメンテーションのメリットとして、マーケティングの手法や効率を高めることができます。細かく市場が分けられ、その分提供される商品の種類が増えるからですね。また、市場拡大効果も見込めます。これまで買わなかった層にアプローチをすることが可能になるからです。

(2)Targeting(ターゲティング)
 先ほどは市場を細かく分けました。次に、どこのグループを攻めるかを決定させます。
選ぶべき場所としては、自分が有利になるセグメントです。これまでやってきたPPMなどを駆使することが重要です。またニーズ、市場規模、成長性を考えることも重要です。ニーズや市場規模があまりにも小さいと収益はどうしても少なくなってしまいますからね。
 
ターゲットを決めるうえでは、3つのパターンがあります。

1、無差別型マーケティング
 その名の通り、セグメンテーションで分類した市場をあえて無視して、様々な市場に共通の商品を提供する戦略です。資金が十分にある大企業向けの戦略です。

2、差別型マーケティング
 複数の市場に対してそれぞれ異なる商品を提供する戦略です。分かりやすい例としては、カレールーがあります。甘口、中辛、辛口、激辛といったように幼児から大人までそれぞれのターゲットに合わせて提供していますね。
加えて、例えばホテルやツアー代金が平日だと安くなったりします。このように、料金タイプを変えるのも差別型マーケティングの一種といえます。

3、集中型マーケティング
 集中型マーケティングは、その名の通り狙う市場を絞り、集中的に経営資源を投下して自社の強みを最大限に生かすことです。例えばブランドやニッチ商品、アニメグッズなどが該当します。
 

(3)Positioning(ポジショニング)
 セグメント内の競合の製品・サービスを見て自社がどのような立ち位置で勝負するかを決めることです。・・といってもわかりにくいですよね。
例えば教育業界を思い出してみてください。進研ゼミ、Z会、鉄緑会、トライなどなど様々な企業がありますね。これらの会社はすべて大学受験生のための教育を事業として行っています。しかし、アプローチは異なります。
例えば進研ゼミは通信教育を、鉄緑会は東大といった最上位大学の受験生をターゲットに、トライは家庭教師といった具合です。
このように、どういった特徴を出して経営していくのかを決めることがポジショニングです。

製品・産業のライフサイクル
今回から「ライフサイクル」についてやっていきます。
製品・サービスの中には、寿命があるものがあります。マーケティング・マネジメントを展開するうえで重要となってくるのでしっかりと押さえておきましょう。

(1)製品ライフサイクル
 皆さんはこれまでに一瞬でブームが過ぎた製品・サービス、反対に生まれるずっと前から存在するのに全く衰える気配がない製品・サービスを見てきたと思います。
これがまさに製品ライフサイクルの例です。

さて、マーケティングの製品ライフサイクルでは製品・サービスは4つの段階をたどるとします。
 ①生成期 市場に導入された新製品・サービスの需要がまだまだ小さい時期
 ②成長期 需要が急速に拡大していく時期
 ③成熟期 成長が鈍化して、需要がピークに達する時期
 ④衰退期 需要が減少する時期

こうした製品の一生を「製品ライフサイクル」と呼びます。言うまでもないことですが、それぞれの期は、産業および製品・サービスの種類によって異なります。例えば、食品は割と長いですが、ファッションやスマートフォンは比較的短期間で変わります。

~生成期から成長期へ
これまでものすごい数の製品・サービスが登場してきました。しかし、多くの商品がすべて①から④までの過程を経るとは限りません。
この中で最も重要なのは、生成期にある商品をいかに成長期にまで持っていくかです。

 産業が成長期へとたどり着くためには、2つの要件が必要となってきます。
①競争者間で共通する製品技術規格(デファクトスタンダード)を確立する。
②生活シーンに定着した、安定した需要が確保される(拡張製品)

実際に、細かく見ていきましょう。

(2)デファクトスタンダード
事実上の標準となる製品技術規格のことです。
例えば、パソコンのキーボードが例です。パソコンのキーボードはどこの会社の商品を買ったとしても必ず同じ配列になっています(Qwertyといいます)が、なぜこの配列が使われているかご存じでしょうか?
このQwerty配列はもともとタイプライターでつかわれていました。なので、実はよく使う「A」が端っこにあるといったように少し使いづらい点もあります。それでも、この配列が使われているのは、この配列にするように決めたからです。
ちなみに、Qwerty以外の配列にはDvorak配列があります。
このように、どういうルールで統一させていくかを決めることがデファクトスタンダードです。

マーケティングにおいて、デファクトスタンダードの例としてよく取り上げられるのがVTR産業です。
VTR技術は割と昔からありました。ですが、当初は学校や放送局など業務用でした。
家庭用のVTRを作ろうという動きはありましたが、各社で製品技術規格が異なっていて、別の企業同士でソフトが交換できませんでした。
しかし、その後ソニーがベータ方式を、ビクターがVHSを開発したことで、各社はこの2つの方式に合わせるように開発が進むこととなりVTRブームに火がつくことになりました。

(3)業界標準成立のメリット
それでは、業界標準が作られることによるメリットは何でしょうか?
主に5つあります。

①開発リスクの減少
 VHS方式、ベータ方式が主流になったことで、他の企業もこの方式に合わせて開発を進めていきます。このことで、VTRの構造がひっくり返って、これまでの開発が水の泡となる心配がなくなりました。なので、企業は何百億、何千億円とこれまでよりも安心して投資できるようになりました。

②多様なニーズに対応できる
 各社がそれぞれ市場開拓戦略をとっていくこととなります。VTR産業では、例えば、ビクターはビデオカメラとの組み合わせのVHSを開発し、松下電器は、広告を大量に用いることで、VTRの魅力を消費者にアピールしました。
また、シャープはフロント・ローディング機能、すなわち、機器の全面からカセットをおさめるという機能を追加し、かつ低価格な製品を開発しました。
このような競争のおかげで、製品消費者の様々なニーズに対応できるようになったのです。

③需要側のリスクの低減
 消費者はどこの商品を買っても十分に使えるようになります。また、各社が製品を次々に出してくるのでその製品がより便利なものへとなっていきます。
そうすると、今買った製品が無駄にならなくてすむので、需要側のリスクが減ることになります。

④補完産業の発展
例えば、自動車が普及するとガソリンや部品を作るメーカー、道路を作る会社も増加する自動車に対して対応せざるを得ないので、発展することになります。
VTR産業で言えば、ビデオテープやビデオカメラの開発も進みます。こうした開発が進むのは、業界標準が定まっているおかげです。もし定まっていないのであれば、どうやって補完製品を作っていくべきか目標が定まりませんからね。

⑤需要側と供給側で好循環が生まれる
 ①と③であったように需要側と供給側のリスクが下がるので、お客さんが買う→ 供給される製品が増える→ 消費者の満足度が増えるといった好循環が発生します。
加えて、いったん循環が起きれば新しく業界標準が生まれる可能性が低くなります。
 
(4)システム製品
業界標準の成立によって特に大きい効果を生むのが、「システム製品」です。
システム製品とは、他社が供給するソフト、機器とセットで使う製品のことです。
例えば、CDプレーヤーやコンピューターなどがあります。もしディスクやソフトが会社によって違えば使えないことが増え、とても面倒ですよね。
そこで、業界標準が成立することが望ましくなります。

(5)ネットワークの経済性
ネットワークの経済性とは、ユーザーが増えるほどにその製品の利便性が増すことです。
例えばSNSが該当します。相手がもしLINE持っていなかったとしたら、通話ができませんし、Twitterも日本で2~30人ぐらいしかやっている人がいなかったらあまり楽しくないでしょう。
 ネットワークの経済性には業界標準の確立が大きく関わってきます。例えばスマートフォンが各社によってバラバラで、この会社だとLINEが利用できない、Twitterが利用できない・・とかですとユーザーはなかなか増えません。
 しかし、どの端末でも使えるよ となるとユーザーが増えやすくなります。このように、業界標準の確立とネットワークの経済性に強いつながりがあります。

次に生成期から成長期に到達するまでのもう1つの要件 拡張製品についてやっていきます。

これまで業界標準が成立させることが大事だという話をしてきました。しかし、業界標準が成立すれば成長期へ移行するかというと必ずしもそうではありません。
なぜかといえば、生成期と成長期ではお客さんのタイプや購入までのプロセスが異なるからです。

そのことについて見ていきましょう。
お客さんは5つのグループに分けられます。それぞれ「イノベーター」「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」「ラガード」に分けられます。

 ①イノベーター
新商品・サービスを最も早い段階で受け入れる層。イノベーターの多くは、ある問題を解決するために自らで探索し、評価し、採用してくる人々です。問題を解決するために時間や労力を惜しまない人の割合が高いです。市場全体の2.5%を占めるとされています。

 ②アーリーアダプター(オピニオンリーダー)
流行に敏感で、比較的早い時期に新製品・サービスを採用する層。消費者に大きい影響を与えます。市場全体の13.5%を占めます。

 ③アーリーマジョリティ(ブリッジピープル)
アーリーアダプターよりも新製品・サービスに対しては慎重ですが、関心が高い層。
取り入れた製品・サービスを市場に浸透させる役割を担います。全体の34%を占める。

 ④レイトマジョリティ(フォロワーズ)
新製品・サービスにはあまり飛びつかず、大多数が使っている様子を見てから使い始める層です。
こちらも全体の34%を占めます。

 ⑤ラガード
もっとも保守的な層です。全体の16%を占めます。新しいものに対して関心がない、もしくは新しいものを受け入れない人々です。

さて、それぞれタイプがあるわけですが、タイプが違うのでマーケティングの方法も変わってきます。

(6)イノベーターに対するマーケティング
まずは、イノベーターに対するマーケティングです。企業は彼らに対して。幅広い疑問・要求にこたえる必要があります。そのため、販売するときにはその新製品・サービスについて特徴、使い方を熟知している販売員を配置し、人的販売を行うのが効果的だと考えられています。
ちなみに、イノベーターたちは熱心さや専門的知識を持つ人が多いです。なので、顧客との接点を密接にするため直営のサービス・ショップを開くやコミュニティを形成することが重要です。

(7)アーリーアダプターに対するマーケティング
イノベーターはどうしても少数派です。市場を成長させるためには顧客をどんどんと広げていく必要があります。その最初の対象者がアーリーアダプターです。
アーリーアダプターはイノベーターよりも専門的な知識および熱意が弱いです。そのため、使い勝手の良さが求められます。
こうした使い勝手の良さという、製品・サービスの基本的な性能とは別に拡張的な機能を備えた製品・サービスのことを「拡張製品」といいます。

(8)産業の成長期
 取引構造が安定化する。
例えばメルカリでの購入を例に挙げてみます。メルカリを使ったことがない人もいるかもしれないので、メルカリで購入する場合について簡単に説明します。
 ①欲しい商品を探す
 ②値段交渉する
 ③購入して、発送を待つ
 ④受け取って評価する

こういった流れです。メルカリユーザーからすれば当たり前かもしれませんが、実はすごいことです。例えば、みなさんが欲しい商品が10個ぐらいあったとしてどの商品もなかったり、あったとしてもものすごく高かったらおそらく買いたいとは思わないでしょう。
ここで、ユーザーがある程度増えれば、商品があふれて、価格もある程度下がってきます。
そうなってくると、メルカリでの購入が安定し、便利だと思うユーザーもどんどん増え、社会に定着していきます。少し難しく言うと、取引構造が安定ということになります。

(9)成長期のマーケティング
 成長期では、プル戦略が重要です。プル戦略とは、メーカーが広告などで消費者に直接働きかけて買ってもらう戦略です。

さらに、成長期の特徴として
 ①価格の重要性が増加
 ②流通チャネルが拡大
 ③マス広告の採用
 ④製品の差別化が重要に
の4つがあげられます。
この中だと①と②が分かりにくいですね。 価格の重要性についてですが、生産量が増大すると規模の経済性と経験効果でコストが下がることを思い出してください。そうすると価格を引き下げてもある程度利益が見込めますよね?また、消費者も相場が分かってきます。そのため、ここで価格設定によればより儲かることもありえますし、他社に流れることもあります。そのため、価格設定が重要になってくるのです。

次に流通チャネルです。売れるようになるので、取引を行う業者の範囲が拡大するという意味です。それまでは専門店のようなところだけだったのが、一気に全国の小売店で売られるようになるんですね。そのため、ビジネスチャンスが広がります。

なので、成長期の特徴として流通チャネルの拡大があげられます。

産業の成熟期と衰退期
産業は成長期から成熟期へと移っていきます。成熟期に入るとどのような変化が起こるか見ていきましょう。

まずは、特徴です。
①競争者が少数に
 成長期の激しい競争で多くの企業が消えることになります。なので、成熟期に残っている企業は比較的大きい少数の企業のみになります。

②新規投資・R&D費用が控えめになる
 成長率が鈍くなってきます。なので、新しく投資をしていく意味が薄れていきます。
ちなみにR&DとはResearch and Developmentの略で研究・開発のことです。新しく研究してイノベーションを!といった意味もなくなってきます。

(1)成熟期のマーケティング戦略
①市場細分化を再度行う 
 成熟期でもまだまだ収益が見込めるセグメントは存在します。そこを重点的にやっていくわけですね。

②競争地位別のマーケティング
 成熟期に入ると売り上げを大きく伸ばすのは難しくなります。その中で稼いでいくためには、SWOT分析です。自社あるいは競争相手の強み、弱みに合わせて戦略を立てていくことが重要です。各社が異なる戦略を取り始めてくることも重要です。

③メーカーから流通へ
 成熟期には、消費者に近い小売業が強くなります。結局彼らに販売してもらわない限り売上は上がりません。さて、その小売業ですが彼らもただ黙って売っているわけではありません。この時期に彼らはプライベート・ブランドの開発を行います。
有名なのはセブン&アイ・ホールディングスの「セブンプレミアム」やイオングループの「トップバリュ」ですね。
このころになると、メーカー間で差がなくなってくるので、小売業者の発言力が強くなりこうしたプライベート・ブランドなどの取り組みが可能になるのですね。
 
(2)衰退期のマーケティング
多くの産業には寿命があり、衰退期を迎えます。リサイクルショップやオートバイはすでに衰退期に入った産業だといわれています。こうした事業は撤退や縮小という道を迫られます。
しかし、こうした産業でも復活することは不可能ではありません。
方法としては
①顧客を変える
 よくあるのは海外に持っていくことです。例えば蚊帳は、今の日本ではあまり使われていませんが、東南アジアやアフリカなどではマラリアなどの感染症予防として普及しつつあります。他にもお菓子だとビターチョコを用いた大人シリーズなどが発売されています。
他にも五右衛門風呂は現在出荷台数が伸びているそうです。これは外国人観光客が日本らしい1人用の風呂に入りたいという需要のためだそうです。

②機能を変える
 製品によっては異なる機能を持ち合わせている場合があります。そうした場合メインで売る機能を変更して新しいマーケティングを生み出すこともできます。
有名な例としては持ち運びできる洗濯板です。洗濯板は洗濯機の登場で完全になくなりました。しかし、旅行先などで靴下だけ洗いたい、ネクタイだけ洗いたいという需要がありました。そのため、待ち運べるサイズの洗濯板を売り出したところ大ヒット商品となりました。
これは洗濯板の洗濯板1枚だけで洗濯ができるという機能を生かした商品です。

③技術を変える
 それまでの技術を完全に入れ替えてしまうことですね。例としては、時計産業があります。20世紀半ばの時計産業は機械式時計を職人が作るということで、時計産業はすっかり成熟化していました。しかし、クオーツ式が登場し、これまでの機械式時計は衰退することになりました。
このとき、セイコーやシチズンなど日本のメーカーはいち早くクオーツ式へと移行し、成長の機会をつかむこととなりました。このように、そっくりそのまま新技術に変えてしまうこともマーケティングの方法の1つです。

チャネル資産のマネジメント

今回から流通について細かくやっていきます。

(1)流通チャネルの重要性
 流通チャネルとは、生産された製品が消費者にまで渡る経路をどう確保するかということです。流通に近いと思ってもらえれば大丈夫です。

 流通チャネルを駆使して大成功した例として、コカ・コーラがあります。コカ・コーラという商品自体は発売当初から全く変わっていません。調味料などシンプルな食品は家電や自動車などと違い、新しい価値を付加することが難しいです。そのため、流通チャネルを考えることが重要になってきます。

最初、コカ・コーラは炭酸水売り場で売られていました。お祭りの屋台のようなものを想像してください。
その後、ボトル詰めが採用され、全国のスーパー、コンビニなど全国の小売店で販売されるようになりました。加えて自販機ができ、コカ・コーラは「いつでもどこでも手に入る」を実現させたのでした。

(2)消費者に自社の製品を買ってもらうためには
 コカ・コーラはアメリカの企業として、日本市場でかなりの成功を収めたといえます。
アメリカで成功していても日本ではいまいちという企業は結構あります。有名なのは、サブウェイ、Facebookですね。
 成功した企業としなかった企業を比べると、消費者との間に安定かつ良好な関係を築けたか否かでした。
アメリカで成功した戦略が日本でも通じるかというと、そうでもないということですね。

例えば、コカ・コーラ社を例に挙げると日本では「アクエリアス」「綾鷹」の売り上げの割合が高くなっています。加えて、自販機にしてもアメリカは種類数が少ないのに対し、日本では多種多様な飲み物が売られています。
 この細かい違いにひたすら対応してきた結果、コカ・コーラ社は日本での地位を築くことに成功しました。


(3)流通システムをとことん利用する
製品は、メーカーから卸売業者へと渡り、小売業に行き、そこで消費者が購入するという流れでメーカーから消費者へと渡っていきます。
以前やったことを思い出していただきたいのですが、流通業者は販売のために製品を仕入れる「再販売業者」の役割を担います。
卸売業者と小売業者の再販売取引のネットワークを「流通システム」といいます。

日本の大企業はこの流通システムをマーケティング資産として利用してきました。

(4)流通系列化
 今のパナソニックは昔松下電器産業という名前でした。その松下電器だった時に創業者の松下幸之助さんは、優秀だと感じた卸売業者、小売業者に対して「うちの専門店にならないか?」ということを呼びかけました。
他の会社の製品を仕入れられないということは、流通業者にとっては不安です。

しかし、その点は把握していた松下氏は業者に対して、その地域で独占販売ができるとしました。加えて手数料なども優遇すると説明したところ、多くの松下電器の系列店が誕生することとなりました。

 これにより、松下電器はラインナップの充実や積極的な新製品の投入、価格維持、広告の負担が課せられるようになりましたが、同時に以下のメリットを得られるようになりました。

 ①投資をせずに、販売拠点を確保する
  販売店にとって、松下電器と組む方が得だと判断すれば、販売店の方からやってきてくれます。そのため、多額の投資は不要になります。
 ②流通業者が優遇してくれる
一度系列店になってしまえば、それ以降は優先して松下電器の製品を販売していってくれます。メーカーが流通業者といちいち交渉しなくても済むようになります。
 ③流通業者とリスクを分担
系列店になると、売れ残ればメーカーに戻します。そのため、小売店が背負うリスクが減るのです。つまり、小売店にとっては魅力的なので系列店はどんどん増えていきます。

 反対に流通系列化にすることでのデメリットもあります。
 ①流通業者を完全に管理することはできない。
流通業者は立場が強いです。売りたくないと言われてしまえば、それまでです。
なので、新たな取り組みを始めようとしても拒否される可能性は十分にあります。

 ②流通業者本来の力が弱まる
流通業者は本来様々な商品を扱います。系列店システムを採用すると、特定のメーカーの製品を扱うようになり、メーカーへの依存度が増すことになります。

 ③消費者にとってはマイナスに働く可能性もある。
例えば、特定のメーカーの製品しか並んでいない小売店だと消費者にとって選択肢が狭まることになります。

 ちなみに、最近系列店システムは限界を迎えているといわれています。主な理由としては2つ。
1つ目が、消費における選択肢の増大 もう1つが、流通プロセスにおける時間の競争の増大 です。

1つ目について、インターネットの登場により、たくさんの商品の情報が出回るようになりました。そうなると、洗濯機はA社のが、掃除機だとB社のものがよいと人々は判断します。そうすると特定のメーカーしか置いてない店よりも、いろいろな会社の製品が置いてある店もしくはインターネットショップの方が魅力的に映ります。
(端っこに 消費における選択しの増大というタイトルを載せる)

2つ目について、現在技術の差が企業間でなくなってきたこと、製品の開発サイクルが短くなってきました。
つまり、製品の差別化が困難になってきているのです。
そうなってくると、インパクトを与えるために素早く広告を打っていく必要があります。
系列店で優遇しているメーカーと別のメーカーが目立つようになれば、消費者はそちらへと流れてしまいます。そうなってくると、ある特定のメーカーだけ置く系列店システムのリスクは高くなります。

次に「製版連携」についてやっていきます。

 まず、みなさんには「在庫回転率」という用語を覚えていただきたいです。
これはその名の通り、在庫が1年間でどれくらい回転したかということです。
 
 売上額を在庫額で割ることによって、求められます。
現在「モノが売れない時代」となり、「販路を押さえる」ことより「高い在庫回転率を実現する機能」が重要視されるようになりました。

特に在庫回転率が高いのは、頻繁に製品を入れ替える必要がある企業です。
例えば総菜や生鮮品を扱うスーパーや短期間で流行が変わるアパレル、パソコンや家電等技術革新が速い製品を扱う企業が例として挙げられます。

こうした企業では大量生産、大量仕入れをした場合、ただ単に在庫が膨らんで負担が増えるだけですので出来ません。そこで新たに在庫回転率を考慮した戦略が必要となったのです。

 多頻度小口のオーダー・エントリー・システム
大量の在庫を抱えたくないが、あまりに時間がかかるとそれはそれで問題です。
そこで考え出された方法が、生産から流通までのプロセスを速めることでした。
これはわかりやすく言うと注文を早くして、生産計画期間を短くしていくということです。

 カンバン方式とPOSシステム
それでは、在庫を少なくすることを目的として、効率的な経営を実現させた2つの事例を見ていきましょう。

まずは、かんばん方式についてです。トヨタ自動車が始め、わかりやすく言うと「必要なものを、必要な時に、必要な分だけ製造すれば効率良く生産できるのではないか?ということです。
最初に部品の会社をスーパーマーケット、組み立てる工場を顧客と見立てました。

工場で製造する際、「カンバン」と呼ばれる商品管理カードがあり、そこには色々な情報が書かれています。この指示通りに生産することで無駄なく生産できるというわけです。

 続いて、コンビニエンスストアです。コンビニエンスストアは店舗があまり広くないこと、扱う商品に占める食品の割合が高いことから在庫を減らすことが重要でした。
そして在庫回転率を高める上で
①POSシステムによる単品管理方式の導入
 POSシステムは、どの商品が売れたかを記録していくシステムだと思ってください。これによって、売れ行きをある程度予測することができるようになり、在庫回転率は上昇しました。

②多頻度小口の配送システム
 さて、いくら売れ行きが予想できたとしてもある程度の在庫は持っておく必要があります。在庫がなければ、販売ができませんからね。

在庫を増やしすぎず、かつ、販売機会のロスはなくしたい
このニーズを解決するために、コンビニでは少量の商品を高い頻度で店舗へ配送することが不可欠でした。
試行錯誤を重ね、現在では共通の配送センターに一度商品を集めて、そこから一括して各店舗へ配送を行う仕組みを構築しました。この仕組みを「共同配送」と言います。

 製造と販売の連携
近年メーカーや卸売業者がコンビニ、スーパーなどの大手小売企業と連携しながら流通システムを構築していこうとする動きがあります。これを「製販連携」と呼びます。

以前やった流通系列化と目的は似ていますが、2つ異なる点があります。

①マーケティング効果
 製販連携は、多頻度小口取引の促進や在庫の削減がねらいとしてあるのに対し、流通系列化は販売経路を確保して、同業他社が入ってこれないようにすることです。

②依存関係が異なる
 製販連携は、いろいろなメーカーと取引することが可能ですが、流通系列化の場合は特定のメーカーに依存することになります。また、製販連携の場合小売業が主導するケースも見られます。


ブランドのマネジメント
長らくやってきたマーケティング講座ですが、今回の章でラストです。

早速ですがみなさん「ブランド」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?
たぶんバッグや洋服、スポーツカーを想像した方が多いと思います。日常生活でもよく使う言葉ですので、馴染みやすいと思います。

 ブランドは資産である
「ブランド」とはなんでしょうか。マーケティング界の重鎮 フィリップ・コトラー教授は「個別の売り手または売り手集団の財・サービスを識別させ、競合する売り手の製品やサービスと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはこれらの組み合わせ」と定義しています。
ブランドが積極的に展開されるようになったのは、20世紀初頭からです。当時アメリカでは、大量生産のシステムが確立され、製品を全国に流通させる必要があったためです。
ここから、マーケティングが生まれ、その方法の1つとして「ブランド」も生まれていたのです。

当時はまだ「ブランド」が資産という認識は弱かったですが、1980年代頃から企業資産と考えられるようになり、企業の関心も高まりはじめました。
ブランドが資産という考え方がわかりやすい例として、フェラーリ社があります。
フェラーリと聞くと、皆さんは車の方を思い浮かべるかもしれません。しかし、実はフェラーリは「フェラーリ」ブランドを売ることでも収益を得ています。
例えばミニカーやTシャツ、スマホケースなどでフェラーリのマークが使われていたりします。そして、フェラーリのマークを使った製品を生産している企業とフェラーリ社はライセンス契約を結び、収益を上げています。
これはフェラーリだからということができます。私が新しく機能のよいスポーツカーを作り出したとしても、そのブランドで収益を上げるには十数年はかかるでしょう。

 ブランドの効果
ブランドの中心的な役割は、製品・サービスと顧客との関係性を強めることです。
皆さんは何かものを買うとき、知っているメーカーの方を選んだ という経験がないでしょうか?これはまさにブランドが企業にもたらす効果といえます。

ちなみに、ブランドがもたらす効果として「価格プレミアム効果」と「ロイヤルティー効果」
に大きく分けられます。

価格プレミアム効果とは、他社の同じレベルの製品・サービスより高価格で、自社の製品・サービスを販売できること
ロイヤルティー効果とは、顧客が自社の製品・サービスを販売できる効果です。
他にも、プロモーション活動が展開しやすくなったり、流通業者に対して交渉力が強まります。また社員の意欲向上などマーケティング以外の効果もあります。

 さらに、事業拡張の機会ももたらされます。「ブランド拡張」と「ライセンス供与」です。
ブランド拡張とは、新しい製品・サービスを開発・販売するときにこれまでの商品で使ってきたブランドを使うことです。
有名な例としては、任天堂のWiiとWiiUとかDSと3DS,DSiですね。

次に、ライセンス供与は著作権を持つ企業が、持っていない企業や人に対して有料で使用を認めることです。先ほどのフェラーリはライセンス供与の例になりますね。
使用者はライセンスを用いることで、売上UPが見込めるのでwin-winといえますね。

 ブランドはなぜ近年評価されるようになったのか?
主な要因を何点か挙げていきます。

①小売企業の大規模化
 イオンやウォルマートなど一部の巨大化した小売企業は、規模や顧客情報という強みがあるため、メーカーに対して強気に出られます。小売業者としては売れ行きのよい商品をできるだけ多く扱って利益を上げたいと考えます。とすると、売れそうな見込みがない、すなわちブランド力が弱いメーカーとは相手をしたくないわけです。そのため、ブランドの構築が重要となりました。

②グローバル化、デジタル化
 グローバル化、デジタル化が進んだことで、現在私たちはありとあらゆる商品を手に入れることができます。例えば、中国やフランスで売られている商品をインターネットで買うことも可能になりました。つまり、メーカー間の競争が激しくなったといえます。
こうした状況で選んでもらうとき、ブランドがあるほど選んでもらいやすくなります。

③有形資産の需要が低下
 皆さんは「土地神話」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。不動産の価格は必ず上がり続けるという意味で、バブルの頃に言われていました。この神話の例からわかるように以前は不動産や土地があれば企業は長らく安泰と考えられていました。
しかし、バブル崩壊で不動産が負債になるという事例も確認されるようになりました。
こうして有形資産と変わり、新たな資産としてブランドが注目されるようになりました。

④見えざる資産であったこと
 これがブランドが近年になってようやく注目されるようになった理由です。ブランドは、資産価値の推定が非常に難しいです。また、不動産や土地などと違い、目に見えない資産でした。このため、価値に気づくのが遅れたと考えられています。

 ブランドの良さ
前回はブランドの効果についてやりましたね。今回は良さについてです。

主に2つ、ブランドには良い点があります。
 ①目で見てわかりやすい と ②消費者の記憶に残りやすい です。
まず、①目で見てわかりやすい についてやっていきましょう。
例えば、皆さんがコーラを買うとき、コカ・コーラとペプシの隣に見慣れない企業のコーラがあったとしましょう。同じ値段で同じ量だった場合、その見慣れない企業のコーラを買うでしょうか?おそらく買わないという人の方が多いでしょう。

これはそうした方が合理的だからだと言えます。理由としてブランドには2つの機能があります。「保証機能」と「識別機能」です。

 保証機能(小さい赤字で左上)
ブランドがあることによって、ある程度の品質があることの証明になります。例えば、マクドナルドです。マクドナルドは世界中に支店があり、かつ認知度が高いブランドの1つです。海外旅行に行った人がついついマクドナルドへ寄ってしまったという話はよく耳にします。
なぜマクドナルドへ寄ったかといえば、味や値段がある程度把握できているからです。
マクドナルドへ行けば、あのポテトやハンバーガーが食べられますよ ということを保証してくれているのですね

 識別機能
夕張メロンの例を使って説明します。メロンは現在世界中で栽培されています。素人には違いがよくわかりません。しかし。ここで夕張市でとれたメロンに「夕張メロン」と名前を付けたらどうでしょうか?
「夕張メロン」は他のメロンと一味違う特別なメロンなんだ!と印象付けることができます。
この例からわかるように、ブランドは製品・サービスを識別するための目印になります。農作物や日用品は差別化が難しく、価格競争に巻き込まれやすいです。
価格競争から抜け出すためには、消費者に他の商品との違いを分かってもらう必要があります。
なので、ブランドを付けることで差別化をはかることが求められます。いくら商品が優れていたとしても、消費者に伝わらなければ意味がないですからね。

ここまで、ブランドのメリットについて見てきました。忘れてはならないのは、ブランドはあくまで消費者と企業の架け橋にすぎないということです。その製品・サービスがいまいちであるならば、当然ブランドは意味をなしません。むしろ、このブランドは悪い製品だということが伝わり、売上減少だってあり得ます。製品・サービスがすごくて、ブランドがあるとものすごい効果を発揮する、これが最も重要なポイントです。

 想起機能
ブランドには、前の2つの機能の他に「想起機能」があります。
これは、ブランドが買い手に対して、ある種の感情やイメージを抱かせる機能をいいます。
先ほどの2つの機能よりも長期的で、より高度な次元です。

 ブランド認知とブランド連想
ブランドの想起機能はプロモーション活動を支えます。
買い手は何か製品・サービスを買うとき、いちいちその製品・サービスに関する情報を集めていくわけではありません。買う製品・サービスはたくさんあるので、いちいち情報収集していたら時間がいくらあっても足りませんからね。
そこで、過去の自分の記憶をもとにして何を買うか決めるわけです。これを「ヒューリスティックス」といいます。
そのため、ブランドが「認知」「連想」されることはとても重要です。

・ブランド再認
ブランド認知には「ブランド再認」というステージがあります。例えば、お客さんが小売店で「Apple」のiPhoneを見たとき、「このAppleを知っている」と感じてもらえるかどうかが「ブランド再認」です。
再認率が高いほど、保証機能や識別機能がよく働くからです、

・ブランド再生
ブランド認知のもう1つのステージです。
ブランド再生とは、商品のカテゴリーから特定のブランドをどれだけ思い出してもらうかです。
例えば「スマートフォン」と聞いたら「Apple」を「ゲーム」と聞いたら「任天堂」を思い出すといった感じです。
当然思い出してもらう人が多いほど、順位が早いほど良いです。ちなみに、商品カテゴリーが提示されたときに真っ先に思い出すブランドを「トップ・オブ・マインド」と言います。
消費者は基本的に自分が知っているブランドを買っていくので、ブランドの「再生率」は重要です。

 ブランド連想
皆さんが店頭で「コアラのマーチ」や「どん兵衛」を見たとき、ロッテ、日清食品といった会社名、味やイメージ、値段など様々なイメージが思い浮かぶと思います。このように、ブランドを提示されたときに知識、感情、イメージが思い出されることを「ブランド連想」といいます。
「ブランド連想」を意識して名前がつけられた例として、ユーグレナがあります。
ユーグレナとは理科の時間にいたミドリムシのことなのですが、「ムシ」が入っていることで売れないと取引先に言われ、ミドリムシの学名である「ユーグレナ」に変更したそうです。
現在ユーグレナはテレビで取り上げられたり、その栄養バランスの良さから大ヒット商品となっています。

 注意点として、ブランドイメージがよいからといって、直接売上につながるというわけではありません。例えば、フェラーリにはよいイメージを持っている人は多いでしょうが、実際に購入する人はそこまでいないでしょう。非常に高価ですし、車はただの移動手段で、フェラーリじゃなくちゃいけない理由がないという人も結構いるからです。ブランドはあくまで販売の支援にとどまっているのですね。

 ブランド連想のメリット
前回はブランド連想についてやってきました。今回は、ブランド連想が企業へもたらすメリットについてやっていきます。
メリットとして、「情報処理負荷の削減」「自己表現の媒体化」「有用性の構成」が挙げられます。

それでは見ていきましょう。

 情報処理負荷の削減
ブランドがあることにより、消費者は製品・サービスの選択が楽になります。
例えば、AppleのiPhoneを買う場合、いちいち細かくiPhoneについてひとつひとつ細かく確認する人は少ないと思います。
それは、iPhoneが「AppleというGAFAの1つが作り出した製品で、かつ、これまでの製品も評判がよかった」というのが消費者にあるからです。
なので、iPhoneはどこかよくわからないメーカーの製品よりも売れ行きがよくなります。

 自己表現の媒体化
ランボルギーニ、グッチ・・・ これらの製品を見て、「お金持ち」というイメージがわいた人は少なくないでしょう。
消費者の一部は、彼ら自身の自己表現のために、ある特定のブランドのものを購入しようとします。
私の経験で言えば「みんなと同じような生き方をしたくない!」という人がトヨタ車を避けていたりしました。
このように、ブランド連想が確立すると、自己表現といった目的でその製品・サービスを購入する人も出てきます。

 有用性の向上
ブランド連想により、有用性が高まります。
信じられないことかもしれないですが、ブランドによって感じ方が異なることがあるのです。
実際にブランド名を隠してビールを試飲したときは違いが分からなかったにも関わらず、ブランドを表示したらすぐに識別できるようになったというアリソンとウルの研究結果もあります。
こうしたことが起こるのはブランドが、人々の認識のプロセスに働きかけるからだといわれています。
つまり、ブランドは消費者も知らず知らずのうちに評価を上げる効果を持ち合わせているのですね。

 ブランドの活用と育成
これまでやってきたように、ブランドは様々な効果を生み出します。これに気付くことが、ブランドマネジメントのスタートです。
さて、ブランドには様々な効果がありますが、最大限に利用するにはいくつか考慮する点があります。
それは以下の4つです。
 ①どの機能を、いつ求めるか
 ②名前やマークだけでは、限定的な効果だけ
 ③ブランドは時間がかかる
 ④ブランドとマーケティングはお互い支えあっている

ブランドマネジメントに正解はありませんが、とりあえずこうしたことを知っておくだけで結果は変わってきます。

 ブランド価値経営
ブランド価値経営とは、ブランドをマーケティングの基軸とすることです。このブランド価値経営を実現させるためには、「評価軸」「組織構造」「成長の枠組み」をブランド基軸に変換していく必要があります。

①評価軸の変更
 そのままですね。企業活動の評価基準として、売上、利益だけでなくブランド機能の向上という指標を加えることです。

②組織構造の転換
 組織構造を製品・サービス単位から、ブランド単位へと転換させることです。ブランドを構築するために、製品を作っていくというやり方を取ります。


③成長の基軸の転換
 通常企業は設備、技術を基軸として成長していきます。しかし、ブランド価値経営にするためには、「ブランド拡張」を基軸として成長させる必要があります。
ブランド拡張とは、そのブランドに関係する製品・サービス、カテゴリーを拡大させていくことです。ブランド拡張に成功すれば、事業拡大、収益拡大につながります。
ただし、マイナス面として、あまりにもかけ離れた事業を行うとブランド連想が難しくなる可能性もあります。

そのために、ブランド拡張を行うときは
 ①ブランドを使用するためのルールを明確にすること
 ②ブランドをまとめて管理する専門の部署を設けること
この2つが重要となってきます。

 ブランドを評価する
ブランドは企業にとって非常に重要です。もし、間違えたら自分で自分の首を絞めることになりかねません。そのため、ブランドは正しく評価する必要があります。

ブランドを評価する指標として
 ①ブランドの認知率
 ②ブランド連想の内容
 ③ブランドによる効果

こちらを図るのは難しいですが、アンケート調査を通じて行う方法が一般的です。

それでは、これでマーケティングの講義編はおしまいです。

ちなみに、この後発売予定の「経済編入最短攻略シリーズ 経営学・マーケティング」はより使いやすいように用語集の形をとっています。
この原稿はもともと「経済編入最短攻略問題集 経営学・マーケティング編」の一部だったのですが、用語集にした方がテストの点数はとりやすいと考えたためこちらの原稿は不要となってしまったので無料公開とします。

(参考文献)
・石井淳蔵、嶋口充輝、余田拓郎、栗木契,『ゼミナール マーケティング入門』,日本経済新聞社,2004
・和田充夫、恩蔵直人、三浦俊彦,『マーケティング戦略 第5版』,有斐閣アルマ,2016

よろしければサポートもお願いいたします。いただいた額は編入試験の情報をより広められるために使っていきたいと思います。具体的には編入試験の受験サイトのサーバー代などに使わせていただく予定です。