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大人になっても海で石と貝殻拾いするの楽しいよね

「朝起きたら、その時の気分でどうしたいか決めていいからね!」

 会う約束をしていた親友からそんなLINEが入っていた。寝起きにその連絡を通知で確認して、ベッドで横になったままぼんやりと窓に視線を向けた。カーテン越しに伝わる白く眩しい光に、今日もかなり長い時間眠ってしまった事を知る。眠剤の抜け切らない頭で、そんな自分をまた責めてしまう。

 色んな鳥の鳴き声と、風に揺れる木々の音がする。実家の自然に溢れたその音色が好きだ。生まれ育ったこの家この土地が好きだ。病気にもいいと言うから散歩に行こうかと思ってふと、

「もう何年も海に行ってないから、裸足で砂浜歩いて足だけでも海に浸かりたい」

 と親友にLINEの返信をした。すぐに既読がついてOK!30分後には着くという返信に慌てて起き上がり、30分以内で間に合うようにと急いで身だしなみを整えて化粧をした。彼女のことだから恐らく10分は遅れてくるだろうという予想通り、45分後に彼女は私の実家まで迎えに来てくれた。

「そう言う気がしてたんだよね。」

 海に行けるようにサンダルとタオルを持った彼女がそうにんまり笑った。

 親友とは物心ついた頃からの仲で、同じクラスになったことはなかったのに家が近いので気付けば毎日一緒に過ごしていた。小学校5年生の時に両親の離婚で県内の少し離れた場所へ彼女が引っ越してしまっても、子供では到底行けないような距離だったので文通や電話をして仲を保っていた。どちらともなく文通が途切れても、何故か知り合い越しに連絡が来て再会した。中学に入学して部活が始まり、それぞれ忙しい日々を送っていると思いきや、私の恩師が翌年彼女のいる中学校へ転任になるという不思議な出来事でまた連絡を取り合って笑い合った。その縁も途切れて暫くしたと思ったら、今度は高校の入学式でばったり再開するという奇跡まで起こった。彼女が中退してまた疎遠になっても気付けばまたくっつく、そんな不思議な縁で繋がっている彼女だった。

 そんな彼女は、私とは面白いほどに性格が正反対だった。いつも大人の顔色を窺っている、真面目で慎重派、地味でおっとりしていて人見知りの私。大人の言うことを聞くのが大嫌いで派手で面白い事が大好き、思い立ったら即行動、喋り出したら止まらないマシンガントークで敵も味方も友達も作り放題な親友。そんな二人なのでもちろん幼い頃は喧嘩が絶えず、しょっちゅう絶交していた。でも数日後にはどちらからともなく謝って、結局誰よりも仲良く色んな事をして遊んだ。

「旦那と離婚したくて悩んでるんだよね」
「彼氏と結婚したくて悩んでるんだよね」

 海沿いのカフェでお互いの悩みを話しながら、悩みすら正反対で顔を見合わせて笑った。なのに数あるメニューの中から注文する食べ物は同じで、二人ともフライドポテトが大好きなのでランチとは別に注文してモリモリ食べた。

 専業主婦をしていて旦那さんは単身赴任で週末婚の彼女。仕事が忙しすぎて彼氏とすれ違い生活をしていた私。お互い希望の日取りが合わずなかなか会えずにいたが、私が心身共に壊れて休職したのをきっかけに度々会うようになった。
 お互いがお互いを羨ましいと思う人生を歩んでいるからこそ、彼女には何でも話せたし彼女も何でも話してくれてはいると思う。私は彼女のその自由さが、若くして子供を産んでいる事が、働かずに何不自由なく生きて行けている事が羨ましい。彼女は私のコツコツ積み上げた勤続年数がキャリアが、自分でお金を稼いでいる事が、結婚ではなく同棲という縛られない形で長年楽しく一緒に暮らしている事が、(そして決して口には出さないが)子供がいない自由な生活が羨ましい。

 けれど根本的な悩みは同じであるように思う。
”私の人生、このままでいいのかな?”

 食事を終えて砂浜へ行こうと、地図で見つけた初めて聞く海岸へと車を走らせた。辿り着いた小さな海岸は人が一人もいない代わりに、海開き前だからか貝殻や海藻や色々な漂流物がたくさん流れ着いていた。綺麗な貝殻拾いを楽しむ親友と、綺麗な石探しを楽しむ私。

「こういう子供みたいな遊び、やっぱり好きだわ」
「何てったって私たち、自然あふれる田舎育ちだからね」

お気に入りの石ハートの石を集めてはしゃぐアラサー

 途中カニの死体を見つけてはきゃあきゃあ騒ぐ彼女と、流れ着いたナマコの大きさにビビって固まる私。反応すら正反対なのに、それぞれが楽しんで過ごせているのが、昔と変わらなくて安心した。石や貝殻を探して集めて、色々な話をしたりおもむろに砂を掘ってみたり、ただぼんやりと波音を聞いて海を眺めたりして過ごした。

「そろそろ帰らなきゃね」

 気付けば日が傾く時間になっていた。悩み事が解決したわけでも何かに結論が出たわけでもないのに、何故か妙にすっきりとした気持ちで帰路についた。少し童心に返りたかったのは、ふと毎日悩み考え続ける頭を空っぽにしたかったのは、お互いにそうだったのかもしれない。次はカラオケに行こうと約束をして、それぞれ石と貝殻を持って家に帰った。

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