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セキュリティ・クリアランスの保有者になるためには?適性調査では何を調査されるのか?

行政機関が保有する重要経済安保情報の提供を受けて国の仕事をしたい、または外国政府から機密指定で日本政府に提供された情報を活用して国際共同研究に参加したい企業は、情報保護のために必要な施設設備を設置するなど適合事業者としての環境を整え、行政機関との契約に基づいて重要経済安保情報の提供を受けることができるということがわかってきました。
重要経済安保情報を取り扱う国家公務員や適合事業者の従業員については国が調査を行い、各行政機関から適性評価を受けたらセキュリティ・クリアランスの保有者になれることもわかりました。
適性評価のための調査では何を調査されるのでしょうか?

7項目の調査事項が明記されています。

一つ目は重要経済基盤毀損活動というようなものです。
過去にそういうことをしたかどうか、重要経済基盤、これは重要なインフラであったりサプライチェーンであったりするんですが、これを損なうような情報スパイ活動、テロ活動のようなものだったり、あとは危険な団体に資金提供をしたとか、それから公務員に対して何かお金を渡したりいろんなことをして不正な行為をさせるようなことをしたことがあるかどうか、といったようなことなんですけれども、それが一つ目の項目です。

二つ目が犯罪歴と懲戒歴です。
犯罪歴というのは逮捕されたというようなことは犯罪歴に含まれません。
あくまでもその方が有罪になったということで、犯罪歴というのは市町村が持っていますので、これは調査されるということ。
それから懲戒歴というのは、お勤め先で何か懲戒処分を受けたかどうかというようなことになります。
三つ目が情報の取扱いの非違履歴。
情報を不適切に取り扱ったことがないかどうか。
四番目が薬物の乱用ですとか薬物の影響です。
五番目が精神疾患があるかないか。
六番目が飲酒の節度というのがあります。
七番目に信用状況、経済的な状況というのがあります。
とんでもない借金があるとかないとかそういうようなことです。

一つ目の重要経済基盤の毀損活動というのも明らかに犯罪として行われたような場合には、これは犯罪歴の方で見れると思うんですが、外国の情報機関に対して重大な情報を渡した、そういうようなことがあり得るのかどうかの参考情報として、実はご家族と同居人についても最小限の事項ですが、氏名・生年月日・住所・国籍・過去に保有していた国籍、これは帰化をされた場合、これは書類に記入をしていただくということになります。
どこまでが家族の範囲かということなんですが、これは配偶者、ご両親・父母、子ども、兄弟姉妹ということになっています。

このような適性評価のための調査というのは自発的に重要情報、自分の方から漏えいする恐れがあるかどうかということ。
それからもう一つは働きかけを受けた場合に、その影響を排除できると重要情報を漏えいする恐れがあるかどうかということ。
また意図せず過失によって重要情報を漏えいする恐れがあるかどうかということを総合的に見る観点から行うものです。
だからどこか一項目に引っかかったからダメというんじゃなくて、全体的に見て判断をされるものです。
この評価対象者になられる方については、あらかじめ今言った7項目をこういうふうに調査します、という調査内容がきちっと告知されます。
それから、それはご本人に書類を書いていただくわけなんです。
ご家族の情報であったり、自分は借金があるんだったらありますとか、それは書類に基本的にまず書いてもらうんですけれども、それでもここがわかりにくいなという場合には、必要な範囲で評価対象者や知人、その方の上司だったりも含めて質問することもできますということも告知します。
それから必要な範囲でさらに資料の提出をあなたにお願いするかもしれませんよということも告知します。
それから情報を見ててわかりにくいことは公務所、公的なところです。
公務所や公私の団体に照会することもあります。
例えば出入国の記録、これは政府に残ってます。
出入国の管理庁に残ってます。
それからさっき言ったように犯罪歴、これは市町村が持ってます。
だからそういった情報というのは照会すること、問い合わせをすることもありますということが告知されます。
それらのことをしっかりと書類で読んだ上で同意をして調査を実施するということが法律で決まっています。

特定秘密保護法、この重要経済案法の保護及び活用の法律よりも先行して10年前から施行されている特定秘密保護法のクリアンスホルダーになるための評価対象者に対して渡される書類を私もじっくり見ました。
今申し上げたのは調査内容ですとか、どういう方法で調査しますという手法がすごく詳しく書かれていて、私は調査を受けますということを同意をした場合に署名する同意書も付いてますし、こういうの調べられるんやったら調査いらんわと言ったら、もう私は調査に同意しませんということについて署名をする書類も付いています
そんな形で行われます。

借金があるかないかなど経済的状況は他人に知られたくない情報です。
働いている会社の社長からセキュリティクリアンスホルダーになるための調査を受けるように依頼された社員は断りにくいと思います。
調査を受けることを断ることはできるのでしょうか。

これは評価対象者の同意を得なければ調査を実施できないということが法定されてますので、法律に決まってますので、堂々と断ることはできます。
国家公務員の方でもこれまで10年間運用されてきた特定秘密保護法に基づく調査に同意をしなかった方もおいでなんですけれども、別に不利益的な取扱いは受けていません。
事業者が受け取るのは調査をするのは今回は内閣総理大臣が内閣府の長ですから、内閣府において一元的に調査をするという形にしているんですが、その内閣府から事業者が受け取る従業者の適性評価の結果の通知、これには従業者が調査に同意しなかったので適性評価を行われませんでしたということも結果の通知には含まれるんですが、適性評価の結果の通知を重要経済安保情報の保護以外の目的のために利用提供することは条文で明確に禁止されています。
つまり事業者は決して目的外利用はできない。
ですからこれは嫌な場合は堂々と断っていただいたらいいと思っています。

社員が調査を受けることを断ったことによって会社側から解雇されたり不合理な配置転換をされたりすることはないのでしょうか?

先ほど申し上げましたように事業者が受け取る従業者の方の適性評価のその結果、これは従業者が調査を断ったので、適性評価が行われたかったということも含まれます。
要は適性評価によってクリアランスホルダになったかならなかったかという結果が事業者に通知されます。
しかしいずれの結果にしても目的外利用の禁止というのも法律で定めていますので、従業者に対して事業者側が解雇したり不合理な配置転換をしたり、減給・お給料を減らしたり、こういうことをした場合には法律違反になるということになります。

国に調査された経済的な状況や犯罪歴、そして薬物濫用などの情報は働いている会社の社長や同僚に知られてしまうのでしょうか?

それは知られたら嫌ですよね。
事業者に通知されるのはあくまでも適性評価の結果のみです。
従業者が断ったので適性評価はしませんでしたというのも結果なんですけれども、お宅の従業者に調査を行った結果、適性評価をちゃんと受けて要はクリアランスホルダになりましたとかダメでしたとかなれませんでしたとか結果だけなんです。
だから適性評価にあたって収集される情報というのは、評価対象者と政府の間でのみやり取りされますので、しかも政府で厳重に管理されますので、これは絶対にバレません。

これは行政機関の長についても、この適性評価にあたって収集される個人情報を重要経済安保情報の保護以外の目的で利用提供することを禁止すると、第16条1項に規定されてます。
だから調査による個人情報というのはお勤め先の経営者にも同僚の方にも決して知られない、こういう法律になっています。

調査を受けたものの、適性評価を得られなかった場合には、何か問題がある人物と思われて解雇されたりすることはありませんか?

行政機関の長についても目的外利用は禁止されているのが第16条1項だったんですけれども、第16条2項で事業者についても適性評価の結果を目的外利用する、要は重要経済安保情報の保護以外の目的のために利用提供することが明確に禁止されてます。
だから事業者が適性評価の結果をもって解雇するということになると、これは重大な法律違反になります。
労働法規にも触れてくるんだろうと思うんですけれども、実務上は行政機関と適合事業者の間で締結する秘密保持契約というものがあります。
だからその秘密保持契約にも、従業者の適性評価の結果について、目的外利用を禁止するという旨を改めて盛り込もうと考えてます。
この雛形は政府の方で契約書の雛形を作りますので、そういったことを法律でも禁止してるけれども、秘密保持の契約書の中にもきちっと書くということで担保したいなと思ってます。
ですから極端な話ですけれども、こういうことは起きちゃいけないんですけれども、仮にその事業者の人が自分のところの事業者の方を解雇したとか、そういうあまりにも行き過ぎた目的外利用が起きた場合には、政府としては契約違反によって契約解消をすることができます。
もうその業者と一緒に仕事ができませんと、契約違反です。
そういう実務でも担保すること、これを私は今考えてます。

それからもう一つは、それでも不合理な取り扱いを受けたって場合には、民法で不法行為というのが定められてますので、従業者の方はその事業者に対して、民法上の不法行為として司法手続きを取ることもできます。
ですからいろんな形でこれはやっぱり適性評価を受ける国家公務員ですとか適性評価を受けようとする各事業所の従業員の方を守れるように、ここはかなり心を砕いていろんなことを考えながら法律案を作成しました。

適性評価の有効期間は10年間です。
長いのではないのでしょうか?
10年間の間に事情が変わった場合はどうするのですか?

これも先行している情報保全制度である特定秘密保護法は適性評価の有効期間は5年なんです。
この重要経済安保情報は特定秘密よりは機微度が低い情報です。
ですから適性評価を受けるための調査って評価対象者にかかる負担が一定程度あります。
いろいろな書類に記入したり、それを何度も何度も受けていただくというよりは、やはりできるだけ長く活用していただく方がいいかなと考えまして、評価対象者にかかる負担と情報が漏えいした時のリスクの比較考慮をしてみて、それに鑑み特定秘密における5年よりは長い、でも10年間は有効ということにしました。

ただ調査を受けて適性評価をもらって特定重要経済安保情報を漏らす恐れがない人だと認められ晴れてクリアランスホルダを得るようになれたという後に、何か疑いを生じさせるそういう事象が生じた場合には、10年を待たずに適性評価をもう1回実施する、調査も含めてもう1回実施することができることにしてあります。
だからクリアランスを取得した後に事情変更があった場合には、行政機関に自己申告していただくということを制約書で求める、こういう運用を今想定しています。

どういう事情変更を考えられるかといったら、10年もあったら結婚したり離婚しちゃったり住所が変わったり、という基本的な最初に書類に書き込む項目が変わるということもあるし、10年の間に犯罪歴がついちゃったり、薬物を乱用するようになったり、飲酒で大きなトラブルを起こしたり、というようなことも考えられますので、そういった時には再評価ということになります。

適性評価を受けることができてクリアランスホルダになった人が情報を目当てに外国のスパイから狙われることはありませんか?

ありえます。
この人はクリアランスホルダだと。
じゃあ重要な情報を取り扱っているんだということで、外国のスパイから狙われるってことはあると思います。
そもそも適性評価を受けた方、つまりクリアランスホルダの方というのは、重要情報の漏洩のリスクが低いということが確認されている方ですから、かなり慎重に重要な情報を守ってくださると思うんですが、そういう方でも重要情報を取り扱っているがゆえに情報を盗まれたり悪意ある人から接触を受けたりというか、この新たなリスクにさらされるということはあり得るということを念頭にまず置いていただくことが必要です。
こういったリスクに備えるためには、まず事業者が平素から厳重な情報管理をすると。
つまりうちの会社には「この人とこの人とこの人がクリアランスホルダでいる」というようなことで、それを言いふらしたりするとかはそもそも禁止されています。
目的外利用になりますから。
だからそういうことはしない。
それからもう一つは従業者の方々がちゃんとリスクを認識しておくということが必要で、クリアランスホルダになったからといってネット空間とかで「私適性評価を受けまして、この度重要経済安保情報を取り扱えるクリアランスホルダになりました」とかやって公表しちゃうと、しっかりターゲットになると思いますので、そういうことは避けていただくということです。

10条の3項4号に規定がありまして、行政機関と事業者の契約を結ぶ、その契約の中で事業者における従業者に対する情報保護に関する教育に関する事項というのも定めるということを規定してますので、国の政府の機関でも重要な情報を取り扱う職員については教育がなされてますが、今後事業者でもデュアルユースの大事な情報を取り扱う、そして国からクリアランスホルダとして認められた方に対しては教育をしていただくということを考えています。
これは法律に定めてますので、そういうことを契約書でも書いて守っていただくということだと思っています。

重要経済安保情報の漏洩や不正取得について、5年以下の拘禁刑、もしくは500万円以下の罰金、または併科という罰則はどのような考え方で決めたのでしょうか?

経済安全保障の分野でも厳しい安全保障環境を考えますと、情報漏洩のリスク対策には万全を期す必要があります。
ですからその漏洩とか不正取得に対しては、重い罰則を設けるということが適当だと考えました。
どの程度の量刑かというのは国によって違うんですけれども、他国の事例も見ながら考えたんですけれども、基本的には国内法ですから、これは国内の他の法律とのバランスを見て決めるというのが基本です。
そうすると重要経済安保情報よりも機微度が高い特定秘密に関して定めた特定秘密保護法で同じような罪の最高刑が懲役10年であるということ。
それから国家公務員法の秘密漏洩の罪。
これは最高刑が懲役1年なんです。
そうすると国家公務員が秘密を漏らした場合に1年、特定秘密漏洩の機微度の高いものを漏らした場合は最高刑が10年ということで、これは他の法律とのバランス、それから行為の悪質性、それからその結果の重大性、そういったものを考慮して今回は最高刑を5年の拘禁刑ということにいたしました。

やはり世界に通用する情報保全制度というのをきっちりと整えて、トップシークレット・シークレット・コンフィデンシャル級、全て秘密情報(Classified information)ですので、そういった情報が守られる、世界から信頼される、そういう形を作るために頑張っていきたいと思っています。

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