クロスSSについて。

 今回はクロスSSについて、ひとつ。※当然、主観に基づいた物であり、何の参考にもならないし、今更感満載の内容かと思われますので悪しからず。

―――まず、クロスSSとは?

 その定義は少しばかり曖昧で、やや、いい加減なものではありますが二つの作品をクロスオーバーする。つまり、二つの独立した世界観や設定を違和感なく混ぜることだと思ってます。どちらか一つの作品側に傾いて寄ることもありますが、『上手く混ざれば必ず面白いものになるのでは無いか?』というのが持論です(クロスSS書いたことも無い奴が何を偉そうに)

 ちなみに設定だけ(他作中に登場する能力等)を借りる場合はクロスと言えばクロスだし、クロスじゃないと言えばクロスじゃないような気もしますがその辺りに触れるとややこしくなるからまた今度。クロスという言葉がゲシュってきたのでさくさく進みます。

 今回は『千反田える「わたし、Pになります!」』の感想を述べつつクロスについて私なりの解釈をしたためて行こうかと思いますので、まず、この作品を読んでください(ぉ

 まず、クロスって書く側のことは置いといて、読む側の敷居は少しだけ高いんですよね。クロスと明記されてる場合、読み手はどちらの作品も知っていなければ読むことに若干なりとも躊躇することがあります(俺はそうです)。
 これは二次創作という独自に発展してきた文化というか簡略化された謂わばお約束が原因なのだと思います。はい、noteでも何度か言ってきましたが、二次創作の利点でもあり、新規層を取り込みにくい理由でもある『知識の共有化』ですね。書き手は、読み手がある程度のキャラや世界観を知っているという前提で説明を省きますので、ことクロスSSに於いてはクロスされる側とクロス元、そのどちらも知っていなければ読みながら頭の中が疑問符だらけになってしまうこともしばしば。だってそうでしょう、アイマスを知らない人がアイマス×他作のクロスSSを読んで、何の脈絡もなく春香が「のヮの」ってなったり、いきなり千早が「んあー」って言ってもその面白さの全部は伝わらないもんげ。知ってるからこそ面白いこともあるのだからして。

―――じゃあ、良いクロスSSって?

 はい、それがこれです!

千反田える「わたし、Pになります!」

 ……です。まずタイトルがセンスある。物語をいつも動かしていく、えるたそ~の「わたし、気になります!」という台詞をもじってるわけですね。

 この作品の作者さんとは知り合いなわけで、身内贔屓と言われたらそれまでですがクロスSSに定評のある作者さんらしい、氷菓×アイマスの素晴らしいクロスSSです。アイマスは言うまでもありませんが、氷菓というアニメも好きなあんかけとしましては狙い撃ちされた感じすらあります。おのれ、W●kiさんめ。
 良いクロスSS、もとい、良いSSというのは作品を知らなくても面白い。まあ、逆の理由もまたこれ真なりで『知ってるからこそ面白い』、これも大事。そのどちらも両立できてるのがこのSSなわけさ。そしてアイマスしか知らなくても楽しめるという点に於いてはこのSSはとんでもないポテンシャルを秘めていやがる、のですこん畜生。

 氷菓という作品をご存知ではない人の為に、この氷菓という作品について、少しばかり解説というか紹介を。原作は古典部シリーズと括られた青春ミステリです。何事にも積極的に関わろうとしない「省エネ主義」を信条とする神山高校1年生の折木奉太郎は、姉・供恵からの勧めで古典部に入部する。しかし、古典部には同じ1年生の千反田えるも「一身上の都合」で入部していた。彼女の強烈な好奇心を発端として、奉太郎は日常の中に潜む様々な謎を解き明かしていく。やがて奉太郎とは腐れ縁の福部里志と伊原摩耶花も古典部の一員となり、活動目的が不明なまま古典部は復活する。

 ある日、奉太郎はえるから助けを求められる。それは、彼女が元古典部員の伯父から幼少期に聞かされた、古典部に関わる話を思い出したいというものだった。古典部の文集「氷菓」がその手掛かりだと知った奉太郎は、仲間たちと共に、「氷菓」に秘められた33年前の真実に挑むことになる。

 雑に言うと、日常系ミステリです(ぉ

 日常に潜む些細な謎をほうたろ(折木奉太郎)が論理的な推理という手法を用いて鮮やかに解決へと導くのですが、その結末は、どうしようもなく理不尽でほろ苦い、でもそれを受け入れなければならないという青春時代の独特な空気感を想起させてくれます。学校というモラトリアムな空間に押し込められた感情の行先は何処なのだろうか。どちらかと言えば無感情で怠惰的、自分の立ち位置を弁えている(勘違いしている)ほうたろなのですが、それがなんとも歯がゆくて可愛らしいヒロイン(?)だと個人的には思います。

 さあ、そんなところで本題に戻りましょうか。

 良いSSは読みながらニヤニヤ出来るというのが俺の中で培われた経験則です。これに当てはまらずんばクロスSSに非ず。
 この『える「わたP(略)」』は素晴らしいクオリティなのですよ。ニヤニヤが止まらない。その理由のひとつとして、キャラが当たり前にキャラとして会話しているというところ。それは至極当然な前提条件なんですけど、氷菓に関しては百歩譲っても登場人物のキャラが立ってる、とは個人的に言うことは出来ません。キャラ付けこそされているものの、ラノベやアニメのキャラにありがちな、独創的で派手な容姿や、癖のある口調、記号化されたテンプレートでキャッチーな属性等が氷菓の登場人物には与えられてはいないのです。(まあ、作品に触れれば分かるとは思いますが、ほうたろはやれやれ系主人公だし、一応テンプレには属しているのですが……。あと摩耶花はツンデレじゃないから。デレデレだからそこんとこ宜しく)

 ん。少し脱線しましたね。俺個人がニヤニヤ出来るっていう場面を抜粋して例に挙げます。↓(挙げるのに下げるとはこれ如何に)

折木奉太郎「……は?」

える「アイドルのプロデューサーを、Pと呼ぶのが今の流行なんだそうです」
奉太郎「さっぱりわからん。つまりお前は、学校をやめてそのプロデューサーとやらになるのか?」
伊原摩耶花「馬鹿ね。そんなわけないでしょ! あんた、ほんとに知らないの?」
奉太郎「……里志。説明してくれ」
福部里志「はいはい。こういうのは僕の仕事だね。最近はアイドルのファンをプロデューサーと位置づけて、Pと呼んでるんだ。そしていいかいホータロー、今この神山市には映画の撮影ロケでアイドルが沢山来てるんだ」

 この冒頭の、たった1レスにも満たない会話でどれだけニヤニヤ出来ることか!!!

 ほうたろは流行りにあまり敏感ではなく、摩耶花はほうたろに対してつっけんどんと言うか距離感を詰めた言い方をしますし、里志はほうたろに一目置かれ、少なからず頼りにしているキャラだと分かるようにセリフが配置されてます。氷菓を知らなくても、どのようなキャラなのかをおぼろげに理解出来る説明と、状況の説明を同時にしっかりすっきり簡潔にしてくれてる丁寧な出だしでまず1ニヤ(単位)ですね。

 このように会話の端々に、そのキャラの人格を出すというのは物語に於いて必要不可欠なことであり、シークエンスにどれだけのパーソナリティを詰め込めるかが二次創作者としての腕の見せどころであーる(勉強になります)。

 このSSは沢山のニヤニヤポイントが存在するのですが一々挙げていったらキリがないほど、ほうたろがほうたろらしく構えて、えるたそがえるたそらしく気になって、摩耶花が摩耶花らしく食ってかかって、里志が里志らしく取り持って、ほうたろがほうたろらしく頭を抱えるという循環が散りばめられているのです。

『らしく』というのは意外に難しいもので、ただ喋らすだけでは意味が無い。

「そこに必然性を吹き込むことでキャラに命が芽生え、魅力的に感じられるのだ、分かるかね、あんかけ君?(紳士特有の形の髭をいじりながら)」と作者に突きつけられた気がしました。こういう何気ないシーンにこそ気を使うべきなのです。我ら『ニヤニヤしたい党』としてはね(なんだその党)。
 そのキャラが辿ってきた過程を大事にすれば、自ずとキャラクターがキャラクターらしく会話をしてくれる。今回のSSはマジで脳内再生余裕でニヤキチでした。

「このキャラならこういう言い回しをするだろう」

「このキャラならこういう反応でこう突っ込むだろう」

「このキャラならこうやればパンツを脱ぐだろう」

 全てが台詞に集約されてるとまでは言いませんが、説得力というのはそういうところから徐々に形作られていくんですねぇ。なるほど。勉強になります。

 そしてSSは、と言えば、物語は進み、アイマスキャラたちが少しずつ登場していくわけですが、まずこの親和性の高さな(な?)。
 まあ、当たり前だのクラッカー。天海春香のどんがらー、くらいアイマスも日常系なのですから(SSという範疇で)。でもね、ここに違和を感じちゃうと作品としてはマズイわけで、このクロスオーバーする部分はかなり重要なの。だから題材選びも慎重に。でも、好きなもの同士を掛け合わせて良いんだよ。どうしたいかだけで良いんだよ、ってね。はい次に進みましょうねー。

 アイマス側の見地に立って読み解きましょうか。人間には必ず感情が存在する。その感情が事件を難解にすることはミステリやサスペンスでは常套手段なのですが、『アイドルも人間であり、Pも血の通った人間なのだ。我々はそれを決して忘れてはいけない』と戒めの如く、でも優しく突きつけられるわけです。ネタバレになるから言えないけど、もうニヤニヤしっぱなし。
「なんでこんなに可愛いんだろうなぁ、この子は」と、Pというか親目線で読むことを強いられますが、これがなんとも心地良くて悔しい。思いやりの気持ちこそが清くて暖かくて、人間ってイイな、と思わせてくれるのです。

 氷菓のSSにも少しだけ触れときましょっか。

 氷菓のSSも大概ゆるい日常系が多い。シリアスなアニメほどSSになると日常系に侵食される法則ですな。まあ、作品内でカップリングさえあれば百年は戦えるのが二次創作者のカルマでもあるので、日常系に落ち着くのは仕方ないの。でもミステリ好きとしてはやっぱり『謎』が欲しいのよ。そんな読者と作者の悲しいすれ違いから発生するストレスを『える「わたP」』は消し飛ばしてくれます。メンカタダブルカラメ謎マシマシです。

 しかもなんと! ミステリパートは一回だけじゃないんです。一粒で何度も美味しいなんて、この作者、神ですか。マジで。二つ目の謎を解決したとき、「もうこのSSも終わっちゃうんだね……。でも二個も謎が頂けるなんて嬉しい(咀嚼)……でも、終わるのは寂しい……」と、淋しがりつつ、PCモニターのスクロールバーを見てみたらまだ4割残ってたとき、俺の感動を司る精神プログラムは崩壊して変なダンスを踊っちまったよ。心の中で祭りだったよ。カンヤ祭だったよ。「なんて計算高い野郎だ! この俺がまんまと踊らされちまった!」的なアレです。綿密に仕組まれたシナリオは隙を乗じぬ二段構えの摩天楼だったのです(混ぜすぎ)。
 その残りの四割にこそ詰め込まれていた氷菓らしさ。もう押し売り状態でお腹いっぱいなのにまだ口に詰め込まれる料理が美味しいのなんの。満腹中枢が壊されたことをここにお伝えしておきます。

 ミステリのお約束まで含めて徹頭徹尾クロスとして氷菓とアイマスを融合させ、氷菓らしさ、そしてアイマスSSらしさを混ぜ合わせ纏め上げるセンスにただただ脱帽し、賞賛のスタンディングオベーションでした。素晴らしい作品だった。もう言葉にならないくらい感動しました。このSSを読まないと損しちゃうんだからね!?(おすぎ

 まあ、長くなった割に『クロスSSとはかくあるべきだ』みたいなことは言えませんでしたが、それは俺が伝えることじゃなくて、あなたたちがこの作品から学んでくださいという投げっぱなしジャーマンも決まったところで、そろそろお開きにしましょうかね。そいじゃまた。

 最後に。

「『らしい』を描けば『素晴らしい』」

 はい。

PS.ところで、本編のミステリ映画はいつ公開ですか?


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