やよい「頭文字P」

社長「ようこそ、我が765プロへ」

P「ども」ボケー

社長「君に担当をお願いしたいのは高槻やよいクンなのだがね……」

P「はあ……」

社長「生憎、仕事に出ているんだよ」

P「そっすか」

社長「早速で悪いんだが、彼女の様子を見に行ってあげて欲しい」

P「(見てくるだけで良いのか……) どこに居るんですか?」

社長「ああ、丁度、秋葉原の特設ステージでアイドル公道バトルに出ているよ」

P「アイドル公道バトル――――?」

――――秋葉原。

P「この辺りみたいだけど……」

ザワザワ……

P「うるせー。あっちこっちから音楽が聞こえて……」

\ミンナ- イックヨー♪/

P「……イベント名の通り、みんな公道で歌ってやがる」

\ソコニ ヒザマツイテッ/

P「ふーん。人気のアイドルほどギャラリーが多いってことか」

やよい「『たっ、高槻やよいですっ! よろしくお願いします!』」

P(おっ、見つけた!)

やよい「『それじゃあ、聞いてください、キラメキラリ!』」

P(ちょうど始まるところか。それにしても……)

ザワザワ……

P(人はたくさん居るのに、誰も立ち止まらないし、見向きもしない……)

やよい「『ど・ん・な・種も蒔けば芽だつんです~♪』」

P(全然、目立って無いし……)

\ザワッ/

P(ん……?)

モブ「おい、いよいよ新幹少女の出番だってさ」

ヲタ「なんと。これは待機必須ですぞ」

P「新幹少女……?」

ひかり「新幹少女でーす!」

のぞみ「みんなー! ちゃんと付いて来ないと置いてっちゃうぞぉ~♪」

つばめ「それじゃ、いっくよー!」タッタッタッ

やよい「『晴れが――――……あっ」

P(アイツ等、まだやよいが歌ってるのに、やよいの目の前でスタンバイしやがった……!)

やよい「『れぅ……」オロオロ

ひかり「かなしみのー いーろが まーちにとーけてくー」

のぞみ「でーんしゃはー はーしりーだーすー きーりのかーなーたーへー」

つばめ「かけがえのー なーいーおーもいでをあーとにー」

三人「わーたーしは あーゆーみだーすー あなたとふーたりー♪」

\ウォオオオオオオ/

P(す、すごい人気だな……だけど、このままじゃ……)

やよい「『きらめ……ううぅ……」シュン

P(せっかくサビなのに……エンジンが……)

\KO☆MA☆CHI☆/

のぞみ「『トキメキ 走り出す こまち 微笑んで~♪』」

\KO☆MA☆CHI☆/

やよい「…………」

ひかり「『みちのくの駅ま―――!?」

やよい「―――っ!?」

P「あ、危ないっ! ぶつかるっ!」

――――――
――――
――

――――仮設テント。

P(これが楽屋の代わりか? ……おっと)コソッ

やよい「あっ、あの、すいませんでした……」

のぞみ「アンタのせいで今日のステージが滅茶苦茶じゃない!」

やよい「ご、ごめんなさい……」

ひかり「これだからプロデューサーも居ない三流アイドル事務所は……」

やよい「えっと……その……」

つばめ「もう、765プロと一緒の仕事は受けないようにしてもらわないと」

ひかり「さ、次の仕事に行きましょ?」

やよい「あ、あの……お疲れ様でした!」ペコリ

のぞみ「……アンタ、はっきり言って時代遅れなのよ! もうアイドル辞めたら?」ギロッ

やよい「えっ……」

のぞみ「ふんっ」スタスタ

シーン……

やよい「うう……。私、やっぱりアイドル向いてないのかも……」シュン

P(…………)

やよい「あっ、時間!? いけない、タイムサービスが終わっちゃう……!」バタバタ

P(……走って行ってしまった。俺もいったん報告がてら事務所に戻るか)

――――――
――――
――

社長「―――そうか、そんなことが……。いや、よく相談してくれた」

P「うす」

社長「この件は私が直々に向こうの事務所に……」

P「待ってください」

社長「……?」

P「なんつーか、それじゃ意味が無いんです。多分、だけど」

社長「……ふーむ。分かった。君に何か考えがあるようなら、プロデューサーである君に任せよう」

P「あざっす」

社長「高槻クンのこと、よろしく頼むよ、キミィ」

P「うす。あの、それじゃ、今日はもう帰って良いですか?」

社長「まあ、初日だしそれは構わないが……」

P「じゃあ、お先に失礼します」ペコッ

社長「う、うむ……」

P「あ、そうだ、それと―――」

――――――
――――
――

P「―――社長から聞いた話だと、この辺りにやよいの家が……」

P「高槻……高槻、っと……ここか。うちと同じくらいボロいな……」

P「んん……? なんか、鼻歌が聞こえてくる……。庭が道路に接してるのか」ガサガサ

やよい「ふふふふーふーん♪」ザッ

P(これじゃ、完全に不審者だな……。オレ……)コソコソ

やよい「えーっと、こう……。うーん……」ザッ

P(やよい……自分で振り付けを考えてるのか?)

やよい「こうやって、ここで……くるーって」クルッ

P(普通は振付師が教えるものじゃないのか……?)

やよい「よしっ! ここで……っ!」グワワッ

P(…………こっ、これは!?)

やよい「あっ―――」グラッ

P「―――危ないっ!」ガサッ

やよい「!?」

\ズテーン/

やよい「あうう……。失敗しちゃった……」サスサス

P「だっ、大丈夫かっ?(今のやよいの挙動は……)」

やよい「ああ、はい。転ぶのは慣れっこなので、だいじょう―――はわっ!?」バッ

P(あっ、白……じゃなくて!)

やよい「あのー」

P「あ、これは、その……」ジャリッ

P(じゃりっ? って、庭だから砂だらけのなのか……)ザッザッ

やよい「どちら様ですか?」

P「えっと、通りすがりのギャラリー、だけど……」

P(って、これじゃ本当に変質者じゃねぇか……!)

やよい「ぎゃらりー、さん……ですか。えへへ、なんか嬉しいかも!」

P「……えっ!?」

やよい「私、アイドルなんですけど、いつもぎゃらりーの人が居なくて……」

P「あ、ああ……。今日のバトルも見てたよ」

やよい「えっ!? そ、そうだったんですかー!? えへへ、ごめんなさい……」シュン

P「どうして謝ったりなんか……」

やよい「だって……。あんなにたくさんの人の前でカッコ悪いとこ……」ザリッ

P「あれは、やよいのせいじゃないだろ! アレはアイツ等が……!」

やよい「それでも……」

P「…………」

やよい「やっぱり、私、アイドル向いてないのかなーって……」

P「マイクを持って踊れたら、立派にアイドルだよ」

やよい「私、人気も無いし、歌も踊りも上手く無いし……」

P「やよいはなんでアイドルなんかしてるんだ?」

やよい「えっと、うちってビンボーだから、その……。少しでも両親を助けたくて……」

P「……楽しいのか? そんなんで」

やよい「楽しい……か、どうかは分かりません……」

P「それなら、無理にアイドルを続けなくても――――」

やよい「だけど、ひとりでも応援してくれる人が居ると身体の奥がぽわぽわ~って温かくなるんですっ!」

P「――――っ!」

やよい「だから、私……!」

P「……七時半か」チラッ

やよい「…………?」

P「なあ、やよい、さっきのダンスをもう一回見せてくれないか?」

やよい「さっきのダンス、ですか……?」

P「ああ」

やよい「でもでも、いつも練習で失敗してるから、本番でも試したことが無くて……」

P「いや、大丈夫だ。多分……だけど」

やよい「……?」

P「じゃあ行こうか」

やよい「へっ? どっ、どこにですか!?」

P「公道に、な―――!」

――――――
――――
――

??「ふーん……ここがアキバ、ね? やっぱり竹下通りとは違うのね」

??「ちょ、ちょっと、律子姉ちゃん……。変装くらいした方が……」

??「誰も私たちのことなんて気にしてないわよ」

??「いや、そう思ってるのは本人だけで……」

ヲタ(あそこに居るのは新宿の竹下(通り)を根城にしてるオータムーンの秋月姉妹ですぞ!)ヒソヒソ

モブ(いやいや、姉妹じゃなくて、従兄弟らしいぞ? 麗しの横メガネ萌えぇえええええええ!)ヒソヒソ

ヲタ(いや、秋月なら断然、涼の方でしょーがjk)ヒソヒソ

モブ(バッカ、りっちゃんは貴重なメガネ成分なんだよっ!)ヒソヒソ

涼(ほら……)

律子「涼、私は公道バトルで使うギリギリの端っこを見てくるから」

涼「あ、うん。じゃあ、僕―――じゃなくて私は……」

律子「あんたは自分がアピールする場所、中央をよく見ときなさい」クルッ

涼「分かった」

P「―――うわ……流石に秋葉原はこの時間でも人が多いな」キョロキョロ

涼(おのぼりさんかな? ……っと、ちゃんと下見しとかないと律子姉ちゃんに怒られちゃう)コソコソ

やよい「あのー……。本当にここでダンスしなきゃダメなんですか……?」

涼(っ!?)ピクッ

P「ここなら多分、大丈夫だと思う」

やよい「でもでも、今は普通の道になってるから踊るって言っても歩道くらいしか……」

P「え? あ、そうか……。公道バトルの時は道路を封鎖してたのか……」

やよい「はい……」シュン

涼(公道バトル……と言うことはこの背の低い子もアイドルなのかな? 珍しいな……)

P「まあ、いっか。あそこ、少し広いからそこで踊ってくれ」

やよい「でも……お店の前で……」

涼(公道バトルは如何にギャラリーを沸かすかが大事)

P「ここだって公道じゃん」

やよい「うう……。そうですけど……」

涼(だから、よりダイナミックなダンスが出来る、高身長で手足の長いアイドルが有利とされているのに)

P「道があって、アイドルが居たら、どこだってステージだろ?」

やよい「…………!」

涼(いや、それは……。こんな人通りの多い中で踊るなんて無茶にも程が……)オロオロ

やよい「私、やってみます!」ガルーン

涼(えぇええっ!?)ガビーン

P「さっきの、だぞ」

やよい「はいっ!」

涼(面白い……! 少し見物させて貰おうかな、ふふっ)コソコソ

やよい「~♪」フリフリ

涼(なかなかの足回りだけど……)

やよい「あっ……」クルッ

涼(やっぱり、身体が小さいせいかダイナミックさが足りないな……)

やよい「えっと……こうやって」バッバッ

涼(残念だけど、やっぱり今の時代には合ってない、かな)

やよい「こう!」シュバッ

涼(話を聞く限り、アキバをホームにしてるアイドルらしいから少しは期待してたけど……)

P「いいぞ、やよい!」

涼(せめて、あと10センチあったら、ね……)

やよい「えへへ♪」クルクル

涼「さて、と。僕も自分の仕事をしとかないと、律子姉ちゃんにどや―――」クルッ

P「今だ、行けっ! やよいっ!」

やよい「はいっ!!」グワワッ

涼(……こっ、これは―――!?)

――――――
――――
――

律子「―――やっと見つけた。ちょっと、涼?」

涼「…………」

律子「アンタ、こんなところに座って、ちゃんとチェックし―――」

涼「…………」

律子「やだアンタ……顔色悪いわよ? 大丈夫? どうしたの?」

涼「…………分からない」

律子「…………は?」

涼「まるで『幽霊でも見てる』みたいだった―――」

―――次の日。

P「おはようございます」ボーッ

小鳥「おはようございます、プロデューサーさん♪」

P「…………誰?」ボーッ

小鳥「あっ、え~っと、この事務所の事務員で、音無小鳥といいます」

P「…………ども」

小鳥「あ、ども」

P「ふわぁ~……。眠ぃ……」

小鳥(なんなのこの人!? 初対面の人の前でアクビ!?)

やよい「おはようございまーっす!」ガチャッ

小鳥(いや、それだけ距離感が近いってこと? あれ、それって……)

P「ああ、おはよう、やよい」ボーッ

やよい「あっ、ぎゃらりーさん!」パァアアア

小鳥(これはもう結婚するしか!? ……って、ギャラリー、さん?)パチクリ

やよい「昨日は、ありがとうございましたっ!」ペコリ

小鳥(……昨日?)

P「ああ、今日からよろしく」

やよい「よろしくって……?」

P「オレ、やよいのプロデューサーだから」

やよい「ぎゃらりーさんが、ぷろりゅーさん……?」キョトン

P「プロデューサー、な」

やよい「そうなんですかー……って、えぇ~~~っ!!!?」ガガーン

小鳥(………え、なになに?)

                          続く。

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