響「朝起きたら、布団の中に卵が」

響「たっ、貴音……あのさ。ちょっと相談があるんだけど……」

貴音「どうしたのです、響。まるで卵を産んでしまったかのような顔で」

響「あ、話が早いパターンだこれ。そうなんだ、朝起きたら自分の布団の中に卵が」

貴音「響!!」クワッ

響「なっ、なに!?」

貴音「卵はどうしたのです!? まさか捨ててしまったのでは……」

響「えっと、連れて(?)きてるけど……」ソッ

貴音「まあっ! なんと愛らしい……」ウットリ

響「卵に愛らしさを感じるってどういう感情っ!?」

貴音「おめでとうございます、響……」ウルウル

響「なに一つ、おめでとうじゃないから!」

貴音「響の子供ならばきっと、玉のような赤ちゃんが……」

響「玉っていうか、卵!!!!」

貴音「ついに我が悲願が成就したのですね……こんなに嬉しいことはない」

響「何が!?」

貴音「ずっと天に願い続けたのです。響が子を授かりますように、と」

響「 お ま え の せ い か ! 」

貴音「それはもう懇切、月に願って、星に願って、夜食を食べる前にも願って」

響「と言うか、卵で良かったの!?」

貴音「想定した中では最悪の結果です。しかしその命に罪は無いのです。命こそ尊ぶべきもの」

響「そうだな、悪いのは全部貴音だもんな」

貴音「面妖な!?」

響「それはこっちの台詞だぞ!!! どう考えたっておかしいでしょ!?」

貴音「はて?」

響「面妖案件でしょ、こんなの! まず自分に産ませようとすることがおかしいよね?」

貴音「そうでしょうか?」

響「神様もびっくりだから! 百歩譲って同性なのには目を瞑るにしても……。卵って!!!!」

貴音「産まれてきた卵に罪は無いでしょうがっ!!!」カッ

響「ホモサピエンスは卵を産まないんだよ、おバカ!! そもそも一体どう願ったの!?」

貴音「我の子が欲しい、と」

響「お前はあれか!? 中国の歴史に名を刻んだ皇帝か!?」

貴音「お前とは、些か乱暴なもの言いではありませんか……」グスン

響「ああ、お前とか言っちゃった、素直にゴメン」

貴音「しかし、人間として産まれてきた以上、子が欲しいと思うのは当然のことかと?」

響「そうだね!!! 全然間違ってないよ!!!」

貴音「でしょうとも」

響「 な ら 自 分 で 産 め よ ! ! 」

貴音「…………」

響「こっちに委ね過ぎでしょ!! 朝起きて!布団の中に温もりを感じて!卵を見つけた自分の気持ち分かる!?」

貴音「確かに。母としての気構えが出来てなければ―――」

響「そうじゃないから! 完っ!全っ!にっ! キャパオーバー! 卵! 分かる!? エッグ!」

貴音「えっぐ」

響「繰り返さなくて良いよっ!! 自分、思わずヘビ香に聞いちゃったからね!?」

貴音「なんと」

響「首を横に振って否定された瞬間、『もしかして、自分が産んだの?』って脳裏に過ぎったんだよ!? もうこれは絶望しかないでしょ!」

貴音「しかし、子供に罪は……」

響「もうそれは良いよっ! そのくだりは自分の神経を逆撫でするだけっていい加減気付いてっ!!」

貴音「しかし、こうなると気掛かりは有精卵かどうか、ですね」

響「それは確かに」

貴音「取り敢えず、温めてみましょう」

響「いやだよ! 怖いよ! もし温めて卵にピシッてヒビが入ったら今世紀最大のホラーじゃないか!」

貴音「事実は小説よりも面妖な、と言いますし」

響「言わねーよ!? 言ったとしても四条皇帝だけだよっ!」

貴音「しかし、響がなんと言おうとも私はこの子を立派に育ててみせます!」

響「いや、本当にやめよ? 自分、気が狂ってビルから飛び降りそうだし」

貴音「きっと、この子の顔を見ればそんな気もなくなりますよ、ふふっ」

響「柔らかく微笑むなっ! いっそ、今、割ってやろうか!?」

貴音「なんと物騒なことを」

響「だって、卵だぞ!? 人間が産まれてこないのは確定じゃないか!」

貴音「分かりませんよ? 信じるものは救われるのです」

響「まず、自分を救ってよ! 不幸すぎるでしょ!?」

貴音「本当にそう思っているのですか、響」

響「えっ……。それは……」

貴音「もしそのように考えているのなら、私は響の頬をぶたねばなりません」

響「ぶってよ……」

貴音「…………」

響「ぶってよ! そしたらきっと夢から覚めるんだ!」

貴音「…………」

響「いつもと同じような平和な日常が待ってるんだ……。みんなが事務所で待ってるんだ……」

貴音「響、歯を食いしばりなさい!」

響「っ……!」ギュッ

貴音「この愚か者っ!」ブンッ

響「 ど っ ち が 愚 か 者 だ よ っ ! ! ! 」バシッ

貴音「ほげっ!?」ドタッ

響「誰のせいでこうなった!? こんなにも酷い願い、ドラゴンボールでも叶えられないからっ!」

貴音「ぽるんがなら、或いは」

響「その、ナメック星のドラゴンボールに寄せる全幅の信頼は何なの!? フリーザなの!?」

貴音「行きますよ、どどりあさん」

響「色的にはお前がドドリアだよ!!」

貴音「行きますよ、ざーぼんさん」

響「ぐっ、悔しいけどそれに対して全力では否定できない……」

貴音「響、人間は孕むのです」

響「言い方がエロ同人みたいで卑猥!」

貴音「人とは皆、『夢』という卵を大切に抱え、成長を待ち望むのです」

響「人に卵を産ませるのが『夢』だと言うのなら自分は夢を捨てて沖縄に帰る」

貴音「そもそも、本当に私と響の子供なのでしょうか?」

響「えっ……?」

貴音「もしや、私以外の子なのでは……?」

響「そこは信じぬけよ! 毎夜願ったんでしょ!?」

貴音「でぃいえぬえぇ鑑定を受けに行きましょう」

響「存外に冷静だな!? その冷静さがあるなら、まず卵を産ませようって発想をどうにかして欲しかったぞ」

貴音「まあ、疑いを挟む余地も無いとは思いますが」

響「どうゆうこと?」

貴音「先ほど、響から卵を預かったとき、卵の殻を通して伝わってきた温もりが教えてくれたのです。間違いなく私の子、だと」

響「貴音……」

貴音「響が産んだのなら、何があろうと、この子は私と響の子なのです」

響「自分、きっと一人じゃ、耐えられないと思う。だけど貴音が傍にいてくれたら……」

貴音「ええ、もちろんです。共に、良き子に育てましょう」ニコッ

響「うん……!」

――――――

――――

――

十五年後―――。

響「貴音~、朝ごはんは何が食べたいー?」

貴音「ふふっ、響が作ったものなら何でも」

響「それ、ズルい! 毎日メニューを考えるの大変なんだぞ!?」

貴音「ふふっ、響は何年経っても変わりませんね」ニコニコ

響「何それ、それじゃあまるで自分が成長してないみたいじゃないか」

貴音「ふふっ、十五年ですか。色々なことがありましたね」

響「そうだな。結局、後にも先にも産まれたのはあの卵一個だけだったし」

貴音「奇跡、だったのかもしれませんね……」

響「奇跡、か……本当に奇跡だったんだよね、きっと」

\ガチャッ バタンッ ドタドタ/

貴音「おや、その奇跡が目覚めたようですね」

\アンマー ハハウエ-/

響「朝から騒がしい奇跡だな、まったく……」

\ドタドタ/

?「あんまー、どうしよう!?」

響「どうしようじゃなくて、朝起きたらまず挨拶でしょっ?」

?「ああ、そうだった。母上、あんまー、おはようございます」ペコッ

響「はい、おはよう」

貴音「おはようございます。それで、どうしたのです?」

?「えーっと……。起きたら、卵が産まれてた……」

響「……」

貴音「……」

?「うぎゃ~!? 信じてないでしょ!? ホントだよっ!? ほらこれっ」スッ

響「…………」

貴音「…………」

?「どうしよう、病院行ったほうが良いのかな!?」

響「……ぷっ、あはははは!!」

貴音「ふふっ、ふふふ」

?「……?」キョトン

響「事実は小説より面妖な、だな、ホント」

貴音「ええ、本当に」

響「とりあえず……」


響・貴音「おめでとう」ニコッ


                      おわり。

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