ポケットに手をいれていると、だらしなく見える。

まだ自分がごく小さい頃に、よく親から言われた言葉がある。
「ポケットに手を入れて歩いてると、だらしなく見えるからやめなさい」。
以来、50年超に渡り自分はこの言葉が一般的なのだと思って生きてきた。
これからもそうして生きていくであろうこの行為が、一般的ではないことに最近気が付き始めている。

「なぜ、そんなことを思いついたのか?」というと、20年超働いている会社の社長が日常的にポケットに手を入れて歩き回り、従業員への指図をしているのを目にしていたからである。すでに長い付き合いであり、いちいち苦言を呈するのも今更感満載になるので、ずっと20年超の期間「だらしないな・・・」という軽蔑の目で接してきた。まさに「面従腹背」である。

しかし、小さくとも会社の社長たる人物が、なぜそんなことも気づかずに毎日ポケットに手を突っ込み、他従業員や出入りの業者、取引先の前でまで、人の目を気にせず行動しているのか、が気になって調べてみた。
もしかしたら、自分の家だけの話しだったのかもしれないと。
SNSを始め、多くの知人友人に「ポケットに手を突っ込んでいるとだらしない」というキーワードを投げかけ、いくつか答えをいただいた。

「ポケットに手」のエピソードは、自分だけではなかった。
理由はさまざまだが、「ポケットに手を入れて」というキーワードに反応をいただいた。定説とされているのは、転んだときなど手が自由にならないことへの「危険」に対する注意喚起的なものが多かったが、「だらしない」までの流れを汲む回答も少なからず寄せられた。
以下に、一番心に響いた投稿を引用する。

私は社会に出て先輩に言われました。人の上に立つ人間が部下の人にポケットに手を突っ込んだまま指示するんじゃねえよって。以来そうしています。

たなべひろゆき さん

まさに、自分が思っていたことだった。
自分は親からであったが、この方は先輩から言葉をいただいたとのこと。
確かに、人の上に立つようになったり、部下を持つようになったりすると、自然に周りの目も集まることとなり、その人の一挙手一投足が注目されることになるだろう。そんなときにポケットに手を入れたままの姿は果たして見ている側にどんな風に見えるのか、という部分だ。見る人が見れば、「馬鹿にしているのか」とも取られかねない行動だと思う。そういう部分すべてが「だらしない」と判断されてもおかしくはない。

その他にも、「ポケットに手を入れていると背中が丸まり、見た目がよくなくなるから」という躾を受けたという方も。こちらは見た目が「だらしなく」見えるかもしれません。
とにかく、「ポケットに手を入れてると、だらしなく見えるからやめなさい」という我が家の言葉は、ごく一般的ではないにしろ通用しているということが判明しました。

自分の中では、あまり気にしていませんでしたが、たなべさんの「人の上に立つ人間が~」という言葉にはハッとしました。確かにそのとおりであり、そうやって物言いされている側の気持ちはどうなのか、とも思ったりします。少なくとも、小さい頃から言われてきた自分の場合は、ものすごく嫌な気分になることは間違いありません。

ただ、言われてきた人がいる中で、言われて来なかった人も多くいるのも現実なのです。知らなかったことは「罪」ではありません。これは、その人間が育ってきた環境によるところがすべてなのです。日頃「常識とはなにか」ということが話題にされがちですが、人によって少なからずこの常識に変化があると思います。自分にとって「ポケットに手」は常識であっても、そういう環境で生きてこなかった人たちにとっては常識ではありません。

そういう人たちに、この一風変わった(?)常識のようなものを教えるべきなのか、知らないふりをしていたほうが良いのか。
長年生きてきた個人の人生の中で、この「ポケットに手」がどれほどのウエイトを占めるかにも寄ります。教えたとして、気をつけようと思う人は早速実践するでしょうが、「豚の耳に念仏」となる人もいるでしょう。


たなべさんから、ある提言がありました。

もし人の上に立った時こいつは!と思う部下に教えてあげるのもいいと思います。

たなべひろゆき さん

なるほど、と思いました。
あと何年、現役でいられるかわからない自分ではありますが、個人的には「残したい言葉」であります。
その人のためにも、その人と付き合う人のためにも。
些細なことなのですが、きっとこういう小さいことが「人」と「人」の歯車を潤滑に動かす知恵なんだと思っています。

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