世界線との境界で

触れるもの、触れられぬものがある。
触れられると心躍る。
触れられないと寂しさにとらわれる。

彼との交わりの後、私は起きていた。
今までの生活とのお別れ。
頭の中でイメージする。
何回繰り返してきたのだろうか。

涙が流れた。
色んな日常がある。
これまでの生活に強い意識が向かうと
切り離すのが辛いような感覚に襲われる。

彼と共に浅く短い眠りについて
目を覚ました今は
これまでの世界線の空気が薄れている。

今までの思い出や生活を
切り離していく作業。
「私は間違っていないか。」

何度も自分自身に問いかけた。

でも、どうやっても
こうやって彼を求めてしまう。
これが「答え」なんだと思う。

正直悲しい。苦しい。
そう感じながら、眠りの中にいる
彼を抱きしめながら泣いていた。

すると、彼は目を覚まして
私にキスをしたり抱きしめた。

少し目を覚ましては私に触れて
また眠り、起きては私に触れようとして
繰り返しながら朝を迎える。

彼は眠りに近い無意識の状態になっても
私のことをずっと求め続けてくれる。

この愛がたまらなく愛しい。
触れられる愛情。
私がずっと欲していたもの。

これがなければ私は何になろう。

男女の繋がりにおいて
色々な繋がり方はあるだろう。
精神的な繋がりはもちろん
肉体的にも深く強い繋がりを
欲している。

外を歩くときも、部屋の中にいても
ベッドの中でも、眠りに落ちる寸前までも
ずっとくっついていたい。

少しも離れたくはないのだ。

触れられる限り触れていたい。

触れられない距離感の中には
絶望が見え隠れする。
私はその絶望の蓄積を知っている。

気持ちが落ち着くまで
満たされるまで触れられたら
こんなにも幸福を得られるというのに
触れられぬ絶望とは
未来に影をもたらすのだ。

触れられない時間
それは孤独。
縮めようのない距離感に絶望と
少しの苛立ちが混じる。

夫婦の日常に優しさや気遣いなどがあっても
私にはその触れられぬ時間の蓄積が
取り返しのつかない重石になっていった。

重々しい圧と覆しようのない溝。
傷口のようにどんどん広がっていった。
じわじわと浸食されながら。

いつしか愛情もきちんと感じられなくなり
自分自身の気難しさによる
不満の内面が顔を出し
不機嫌な心模様が暴走し始めていった。

彼との逢瀬を重ねるうちに
圧倒的引力の謎が解明されていった。

この引力は、彼が私を思う感情の深さと
二人が惹かれ合う波長のシンクロ率の高さによるものということ。

私の人生にとって何が大切か。
それは彼に詰まっているように感じる。

夫婦として妻の役割でこれまでの世界線を
送ってきた私
この世界線にいる私は未来の私に
期待を描けなくなっていた。

もう彼に心を奪われていた頃には
その世界線に厭気がさしていたんだ。

妻としての役割がある前に
一人の女性として
愛する旦那を目の前にして
然るべき精神や行動は取れなくなっていった。

弱さによるものか逃げなのか。

女性であることの喜びであるとか
相手に喜ばれたくて何かしらを
努めて励むこと…であるとかの
やり甲斐や生き甲斐みたいなものが
だんだん薄れていき感じられなくなっていって
何のために妻であるのかわからなくなっていった。

仕事をこなすワーキングマシーンのように
あるいは
食事と寝る場所を与えられ、ペットに注ぐような愛情を受けて生活する存在のように。
旦那のゆとりある生活をもたらすための一つの駒になっているような…それらの感覚に襲われるようになる。

私は何の為に生きているのか。

今までは旦那の為を思ってやってこれたものも多くあっただろう。

二人の記念日も
お互いの誕生日を祝うこともなくなり
体にもろくに触れなくもなった。

忙しいとは、時間がないとは
一体何なのだろう。

興味も好意も特にないということではなかろうか。

触れられないものに愛着を失っていくのは
当然だろう。
私は触れられない機会を積み重ねていくことで、気持ちが離れていった。

本当に離れ切ったかどうかは疑問だが、このままこのような生活を繰り返していっても
義務と責任のようなルールみたいなもの
無味乾燥に色褪せた絆のような
鎖に繋がれた寂しい関係を続けていくだけのように思えてしまう。

築き上げてきた環境や生活スタイル、仕事はある。

それはお互いの努力や協力による部分も大きい。

私の心には満足感や達成感の奥に
透け透けになった自身の抜け殻みたいなものを感じる。

夫婦のすれ違いによるものなのか、我慢や忍耐を繰り返したことによるものなのか。

透け透けになった抜け殻は、愛しの彼に深い愛情を注がれて、女性としての悦びを知る。

長い間、忘れていた性別のような。

私は女性であることを忘れていた。
男性に憧れて、女性らしくあることを捨てた。

それが潔いことだと思っていた。

私の体は一人の男性を喜ばせる為にあった。
私の体が感じれば相手を喜ばせられる…
なんて素敵なことだろうか。

ずっと欲していたものは何か。
一番に欲していたのものは
心と体で深く強く結ばれること。

その瞬間が一番魂が震える。

魂が強く動かされる。

単なる欲求を持って繋がっても
こうはならない。

深い愛を感じる相手だからこそ。

この魂の繋がりを知ると
これまでの世界線に終止符を打たなければと
思う自分が芽生える。

どっちつかずの自分は嫌い。

いずれ、揺れ動いている日常は
きちんとしたい。

今はただただ新しい世界線へと
飛び込んで新生活を送りたいのだ。

私がいなくなって悲しくならないか
寂しくならないか
その心配はある。

私がいなくなっても明るい未来があるとか
いや、そのくらいの規模じゃなく
私よりも遥か上の存在に愛されて幸せを感じてもらいたい。

とにかく心配が強い。
私がいなくても楽しい未来であって欲しい。

悲しくなるのはもうやめたい。
苦しくなることも。

ごめんね…という謝罪の念に駆られるけど
これ以上この虚しさと付き合っていくわけにはいかないのだ…という本心は消えない。

これが神の導きであるならば
新しい未来を切り拓かなければ
より自分らしい未来を歩まねばならないと
ただただ強くひたすら
語りかけられるように感じるのみである。


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