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【彼と彼女のものがたり】SideY〜EX

「魂」で繋がる彼と彼女のものがたり
現実の光と闇を行き来しながらも
お互いの存在を意識しながら
共に生きていく。
《和解》〜SideY〜EX

「ねー!

レコ大見て!!

にーちゃんいるよ!!」


裕太からの電話で、

慌ててテレビのチャンネルを変えた。


年の瀬

子供たちも家を出てしまって

今年もまた二人きりの正月を迎えるのだ、、と

正子は思っていた。


「まったく。。。

あの子は連絡もくれないんだから。。」


正子は慣れない手つきで録画ボタンを押した。


「お父さん!

颯太が出てるんだって!!」

「、、、うん?

どこだ???

あー!

いたいた!」

「連絡あったのかい?」

「颯太だもの。あるわけないでしょう? 笑」

「あいつらしいなぁ。まったく。。」



颯太が上京したい、と申し出てきたのは

浪人中の頃だった、、と思い出していた。


教職の子供なら教職につくものだ、と

どこかで

私もお父さんも思い込んでいたのかもしれない。

幼い頃はカラダは弱かったが、

私の両親に預けてから、

だいぶ元気になってくれて

男の子らしい子に育ってくれたと

思っていた矢先のことだった。


「俺は、父さんみたいには生きられないと思ってる。

否定してるとかじゃなくて。。

自分が好きなことで生きてみたいんだ。」


口数が多い子じゃなかったが、

颯太の言わんとしていたことは

正子なりに感じていた。


「後悔する生き方はしないでね。

あなたはあなたのやり方でいいんだから。」

「、、、わがままでごめん、、

ありがとうございます。。。」


父さんが、反対しているのは

私も颯太も薄々わかっていた。


けれど、

(颯太は

これからの自分のやり方で

示したいと思っているんじゃないか、、、?)

正子はそう思っていたのだ。


「学費と家賃は出すが、

お前の希望で家を出るなら

生活費は自前が条件だ。」

「、、、わかった。」

(、、、本当に大丈夫なのだろうか??

バイトって言ってもたかが知れてる。

ほんとにそれでいいのか、、、??)

「、、颯太?

あなた、やれるの??」

「ん。やってみなきゃ

わかんないこともあるよ。」

「一年の猶予期間があったんだ。

自分で決めた以上は

お前の責任だ。

これ以上は

何も言わないよ。」

「、、、ありがとう」


あれから、

帰省することはあっても

当時の話は

お互いに

あまり振り返ることはなかった気がする。

颯太には子供がなかったから

連絡のやり取りもそれほど多くはなかったし、

いつも東京にいるとは限らなかったから

私からも連絡することはほとんどなかった。


(確か、この人のツアーから

評価され出したんだっけ、、、)


画面の中で

魂の声を響かせる歌姫を

正子は見つめていた。



2011年……

名古屋公演のチケットが

運良く手に入った。

お父さんも誘うことも考えたが、、

何となく気が引けた私は、一人名古屋の会場にいた。


(颯太の演奏を観るのは

高校時代以来だわ、、、)

勿論、颯太にも内緒だった。

(あの子が、、、

こんなスケールの舞台にいるなんて、、、!!!)

信じがたい気持ちと

ようやくここまできたのだ、という

誇らしさが混在していた。

モニターに映し出される颯太は息子というよりも、
初めて見るミュージシャンの颯太であり、
私の知らない姿だった。

コンサート、といういう雰囲気は全くない、、、
どちらかと言えば
ひとつのショーのようだ、、と感じていた。


音楽自体は素晴らしかったし、
感動もしたが。。。

別の世界にいる颯太を垣間見たような気がして

どこか知らない別の国へ行ってしまったような、、、

そんな寂しさが正子を包んでいた。



(あの時、
あのまま大学進学を促していたら、、

上京にちゃんと反対していたら、、、

今日の颯太の姿は観れなかったのだ、、、)


(これで良かったのよね、、、、??

颯太、、、)


プロとしての颯太を正式に観たのは

2015年だった。

「地元に凱旋公演決まったから。

6月の第2土曜日、、空けておいて。

市民ホールでやるからね。」

留守電にぶっきらぼうなあの子の声が入っていた。


当日まで知らなかったが、

イベンターさんの図らいで

親戚人数分をすべて招待していたようだった。


(そういうことが

やっと出来るようになったのね、、)

じんわりと涙が滲んだ。


「なぁ?父さんは、来るの?

また直前で機嫌悪くならなきゃいいけど。。

もうさ、

ほっといて行きたいやつだけで行こうよ。」

颯太の下の弟、裕太も一時期は颯太を真似て音楽の道を目指したが、今は教職についていた。

時間になると、お父さんものそのそと姿を見せた。

裕太と私は顔を見合わせて微笑んだ。

数年前に比べて、

颯太の音はより太く、深みを増したように感じた。

それほど詳しくない私にも、その変化は「親だから」ということを抜きにしても歴然だったと思う。

終了後、

招待された親戚たちの為に

食事の席まで用意されていたのには驚いた。

少し遅れて到着した颯太は、記念撮影やサインにも嫌な顔ひとつせず、にこやかに対応している。

(この子は、、。

本当に

私の子供なんだろうか、、、?)

「ねぇ、お父さん、、

私達も一緒に撮ってもらいましょ?」

「、、そうだな」

「颯太、みんな終わったら

私達もお願いしていいか?」

「、、あぁ!勿論!!ちょっと待ってて?」


(あの時、あなたが言いたかったこと

今日の姿で全部説明がつくよ。。)

(あなたが私達の子供でいてくれて、

よかった。。。)


取り囲まれた輪の中で

笑う颯太の姿は紛れもなく、

私のよく知る颯太だった。







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