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秋吉くん


透き通った白いもの

りんごを剥く

ティーポットへお湯を注ぐ

蛇口から水滴が落ちる


りんごを剥く

手をとめて 窓の外をみつめる

プラタナスの葉が

空気中の水分を包み

澄み切った大気を満たす


遠くには沈む夕日と

白煙をあげる3本の煙突

もくもくと白い煙は空にまっすぐ吸い込まれて行く


りんごを剥く音は

シンクへ落ちる水滴の音と重なる

晩秋という名のりんご

暗闇の赤りんご


カーテンの隙間から現れたその人は

点滴の滴下速度を確認して

去っていく

白い指先をわずかに動かし、

クレンメを緩める

ベッドサイドに吊るされた鳥かごには

文鳥が二羽控えめにさえずる

二羽の瞳は瞬きを交互に繰り返す

ティーポットから注がれた

お茶にはほとんど色がない

白い小さな花の香りがすると

いうけれど

湯気のほかには何も見えない


りんごを食べる

その指先を見つめながら

クレンメをわずかに緩め、点滴の速度を速めた

瞬間を思い出す


プラタナスの葉がわがままを言う

椎名通りを下った角まで

葉を届けることが出来ないなら

赤くならないと


晩秋という名のりんごを

放り投げた途端に

スプーンは宙を舞う


キッチンは

すっかり冷えきり

目を覚ます


おはようプラタナス

おはようナース

おはようスー

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