なぜ泣けないのか
母が亡くなった。
倒れてからしばらく入院していたが意識は戻らずそのまま逝った。
倒れた時も、病院でベッドの傍らにいても、夜中に呼ばれて臨終に立ち会った時も、通夜も、告別式も、泣かなかった。いまだに涙一粒もこぼれない。
ずっと考えている。
なぜ泣けないのか。
母は教室をやっていて生徒さんやお弟子さんが葬儀にはたくさん来てくださった。しゃくりあげて泣いている人もいた。親戚も泣いていた。父は悲しみにくれるというより、どちらかというとぼんやりしていた。
母はきちんとした人で厳しかった。私は母の望むようなことは何一つしなかった。出来なかったこともあるし、やりたくなかったこともある。喧嘩になることはないが決して仲がいい母娘ではなかった。いつも一定の距離をおいていた。たくさんの愛情を受けて育ったはずなのに、笑顔の母はあまり思い出せない。
泣けない理由を考えていて、自分でもどうしてもよくわからないことに涙が出そうになる。違う、違う。泣くならもっと親孝行がしたかったとか言って泣かなきゃ。
ママ、ごめんね。
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