ありがとうPizza Love。間違いなくあなたはリアルだった。
昭和の通販番組を彷彿させるテロップで映し出される電話番号。紛れもなくPizza Love本人の電話番号だ。前代未聞のフックで始まるこの楽曲で一躍シーンに躍り出た彼だが、2023年の9月を持って引退していた。
原因はメンタルの不調だという。あんなにも借金に追われながら、あっけらかんとしていた様に惹かれていた人も多いはずだ。そんな彼でもやはり心が折れてしまう瞬間があったのかと思うと、同じ人間だなんだなと少し愛おしくも思えてしまう。
Pizza Loveとは
なんともまあふざけた紹介である。これがTune Coreに掲載されている公式のアーティスト紹介文なのだから本気なんだろう。
いきなり本名まで言ってしまってるし、なんとも潔い。
こんな罵詈雑言がプロフィールに記載されているあたりも、現代の毒されたネット社会に産み落とされたアーティストなんだなと実感させる。おそらくこれらは本当に書き込まれた言葉であろう。見方によってはPizza Loveはギャグラッパーだし弱いチンピラだしネタラッパーである。顔が臭いかどうかは本人の顔に鼻を近づけた人しかわからない。
ただ僕は、Pizza Love (本名は加藤卍優太)のことを一度もギャグラッパーだと思ったことはなく、顔が臭いのはわからないけれど、純粋な音楽として楽しませてもらったし、リスペクトをしていたことをここではっきりと伝えたい。僕はPizza Loveが好きだ。
彼はヒップホップアーティストでありながら、多重債務者でもある。というよりも多重債務者であり、ヒップホップアーティストであった。
とYoutubeの概要欄にも書いてある通り、生活はどっぷりとギャンブルに浸かっており、消費者金融からお金を借りて日々をやり過ごしているらしい。
ソロでの活動の傍、Tajyusaim Boyzという全員が多重債務を抱えた世紀末なグループのメンバーでもある。
まさしくリアルである。ノリアキに並ぶくらいリアルである。
厚生労働省の調査によると、日本国民における20~74歳の3.6%にあたる約320万人がギャンブル依存症、もしくはその危険性があるという。また諸外国と比べ、パチスロをカジノと定義した場合、その市場規模の大きさは北米、マカオに次いで世界3位のギャンブル大国である。
参考:https://gendai.media/articles/-/57381?page=2
彼らの活動や歌詞は、社会問題を如実に反映し、若者の生き方の一つを提示している。と同時に親近感と共に希望を示しているのかもしれない。そう考えると間違いなくヒップホップであり、リアルなのだと言わざるを得ない。
音楽はそんなに高尚なものでなく、ネタだとしてもかっこいいものはかっこいいのだ。
アイマユウタ
彼を語る上で欠かせないのがこの楽曲だろう。
https://www.youtube.com/watch?v=Z_-K0MzKgM4
歌い出しから自己紹介。と思いきや個人情報さらけ出し。
「アイマ ユウタ 080-9704-9649」
訳すのであれば「私の名前はゆうたです。080-9704-9649」
「!?」
いきなり自己紹介されたと思ったら、間髪入れずに電話番号を伝えられる。対人のコミュニケーションだとしても、こんなのたまったもんじゃない。LINEやインスタでのメッセージが普及した昨今、仲の良い友人の電話番号すら把握していないのに、なぜ見ず知らずのラッパーの電話番号を知らされないといけないのだ。
冒頭から混乱しつつも、次には
もはやこれは歌なのか…? まるっきりONE PIECEの名曲「ウィーアー」のモロパクリである。そこに文脈など皆無だ。余計な詮索を入れるほうがおこがましく思える。
この曲を聴いた瞬間、この曲は考えて聴いちゃダメだ…! 魂で聴くんだ..!と思い知らされる。考えた瞬間、我々はPizza Loveに屈してしまうのだ。
もうだめだ。車のナンバーまで晒しやがる。ちなみにアイマユウタには出てこないけれど、この車はガチのPizza Loveの愛車フィットのナンバーである。
「PizzaLove - 国民健康保険 ft. M.A.G from TajyusaimBoyz」 にはガッツリと
相模 502 12-28のナンバーのフィットが写っている。何よりこの年式のフィットっていうのが本当に良い。世の中で偉そうに世論を代弁しているインフルエンサーとか政治家に、これが日本のボリューム層だぞってのを見せたい。この型のフィット、一番売れたもんね。大好きです。
そのうちクレジットカードの番号でも見せ始めるんじゃないか。と心配したけれど多重債務の彼には関係ない話でした。
途中、サザエさんOPのリリックを挟んだりとツッコミどころが多いが、クセのあるトラック、クセのある映像、クセしかないリリックのせいで楽曲として成り立ってしまっているから感嘆せざるを得ない。なにより電話番号がリフレインされることで耳心地が良く、知らない人の電話番号を暗記してしまうという事態に陥る。完全にイヤーワーム。
おすすめの曲
原宿~Harajuku ft. 惡Smith
元ネタはKanye West & Lil Pump - I Love It feat. Adele Givensから。
服装までちゃんと同じ。一応リスペクト?なのか。
なぜ彼はこの曲を、このトラックを聴いて原宿×チーズハットグの曲にしようと思ったのか。そして所々に差し込まれる「横断歩道を渡り」「ダメ絶対万引き」といった道徳的なリリックが道徳的でたまらない。ってかなんで終始オートチューンかかってるねん。
梨
かつて梨という曲名をつけた楽曲をリリースしたアーティストはいただろうか。
まずMV一発目から、グリーンバッグで撮影されているんだろうけど、色を塗った梨の一部が背景になっていて爆笑してしまう。
と思いきや第一声
「ばーちゃんの剥いてくれた梨はうまいな」である。
ばあちゃんが出してくれる果物ってなんであんなに美味いんだろうか。一人暮らしを始めると、果物の値段が思いのほか高くて、そう簡単に買えない贅沢品になっていた。だからこそ子供の頃に祖父母の家に行くと出てきた果物に、たっぷりの愛情が詰まっていたことを思い知る。うちのばあちゃんちはマンゴーがやたら出てきたな。今思えばありがたかったな。
突然始まる山梨ディスからの持ち上げ。1:10-からのリリックが個人的に好きすぎる。
この曲のおかげて、毎年梨を食べるようになりました。
シチュー
もうコイツ食べ物のことしかラップしてないやん。
もう1回来よう
ほんとLil Pump好きなんだな。聴いててハッとしたことが、オートチューンがなくなっている。加えてスキルが上がっている…? 相変わらずMVは手作り感があって好き。
NIKE DRIP ft. lil鉄火巻
TikTokなどで爆流行りしたNIKE DRIPのPizza Love ver。さらにFeat.はlil鉄火巻という凶悪コラボ。もう初っ端から酷い。唐突に殺意を向けるlil鉄火巻。
僕は仕事中オフィスでこの曲をひたすらに聴いて正気を保っていました。本当に大好きです。以前女の子とドライブ中にランダムでこの曲が流れて、まじでドン引きされたことを思い出した。
0:40から始まるPizza Love パートは、冒頭に紹介した曲を聴いてから比べるとまるで別人である。ドリルなビートに乗っかる刺すようなリリックとフロウ。lil鉄火巻のパートがネタに振り切っているからこそ、対比としてPizza loveのネタじゃない音楽性とスキルが限りなく光る。
実はふざけているように見えて、すごくすごく完成度の高い曲なのでは。思っているだけです。多分気のせい。個人的にlil鉄火巻は天才だと思っています。
スーパースターに会いに行く
ふざけていて、聴いていて笑ってしまうような曲を紹介した前半。それとは打って変わって、映像も楽曲も真面目に作り込まれている「スーパースターに会いに行く」
普段はおちゃらけていてる同級生が、実はめちゃくちゃ大人で、物事を深く捉えているのを垣間見たような、そんな感覚。
前半でも書いたけれどおふざけの中にも、Pizza Loveという人間の芯みたいなものは、今までの曲にもずっと反映されていて、それが1つの形となって曲に現れたのがこの楽曲。
特にコメント欄に固定されているPizza Loveのメッセージが、1人のアーティストとして彼を好きにさせる、そんな素敵なものなのでぜひ見てほしい。孤独を感じたことのある人間が歌う「一人じゃない」に救われる人が必ずいるはずだ。
Pizza Loveの人間性
ニートTokyoのインタビューより。
多重債務者ならではのエピソード。それに、電話番号晒してから色々な電話がかかってくるのだけど、ちゃんと出てるのが凄すぎる。
内容は端折るが、アイマユウタで晒した電話番号にかけてきた女の子と最初はふざけた話をしていたが、実はその子がPizza Loveと同じような家庭環境で、そんな彼女のためにも、希望を忘れないでという意味で作った歌というエピソード。
この話で、曲中に見える彼の人間性が本物なんだと確信した。こういった内容を覚えていて、ニート東京の場で話そうと思ったことが答えだなと。
個人的にはGOMEESSの話と通ずるものがある。彼らの生き様や楽曲が今日も誰かの力になったり、何かを変えるきっかけになっているんだ。
親父の歌のエピソードを知ったら、僕はどうしても彼をネタラッパーやギャグの人、なんて捉え方はできない。余計に一人の素敵なアーティストだと、尊敬がまた増してしまった。
押し込めはこちら。本当はおすすめの曲に入れたかったけれど、どうしてもこのエピソードと絡めたかったので。
ニート東京のインタビューを踏まえて、さらにおすすめの曲をいくつか紹介させて欲しい。耳心地の良さとクスッと笑えてしまうのが彼の良さでもあったが、一転してシリアスなアーティストとしての純粋なメッセージ性や側面が感じられる曲も多数ある。
親父の歌
一番しんどい時にこんな曲やアーティストに出会えていたら、もう少し気持ちが楽になっていただろうなと、過去の自分と照らし合わせてしまった。自分が受けてきた辛さを音楽に昇華することこそ、HIPHOPの一番かっこいいところだと思う。
諦めましょう
一見後ろ向きに聴こえるかもしれないこの曲。
流れ込む情報により、どんどんと生きにくさが加速するこの世の中に、「もう少し肩の力を抜きなよ」と教えてくれる、Pizza Loveならではの前向きな曲だと思って聴いている。
借金ばかりこさえて、何が力を抜けだよそもそも労働しろ!って思う人もいるかもしれないが、どうかこの動画の固定コメントを読んでほしい。
彼が何を考えて生きてきて、この活動をしているのかを知れるので、見方が変わるはず。やっぱりカッケェよ加藤優太!!
終わりに
彼が人間としても、アーティストとしてもカッコよく見えるのは、実体験から生まれる等身大な歌詞と、リスナーと共にリアルタイムで成長していく姿。なにより、虐げられる側の立場から見せてくれる希望が彼を輝かせているのだろう。
加えて、彼の生き方や楽曲に圧倒的なドラマ性があるからだと思う。
最初はふざけたネタラッパー。いきなり電話番号を晒したり、ふざけたMVやリリックで色物扱いされていたキャラが、どんどんとスキルをつけてきて、そこに到底真似できない彼ならではのバックグラウンドがあり、それを誰かのために音楽に昇華して発信する。
こんなにかっこいい話があるかよ。
リアルタイムで彼の活動を終えたのは、ぼくにとってすごく幸せな時間だった。日を追うごとに、音楽だけじゃなく彼の人間性を好きになり、伴って楽曲もどんどんと聴くようになっていた。
今でも聴く曲はたくさんあるし、僕も彼に救われたファンの一人だ。どうか無理せずまた人生を歩んでほしい。
ありがとうPizza Love。間違いなくあなたはリアルだった。