社会的インパクトの追求は必ずしも良いこととは限らない?ーー社会的インパクトを企業の「力」にしていくために。
先日、私たち&PUBLICが主催するトークイベント「社会をよくする会社になるための方法論 〜社会的インパクト・マネジメントやB Corp実践例を参考に〜」を実施いたしました。トークイベントのゲストは、一般社団法人インパクト・マネジメント・ラボ共同代表の土岐 三輪さんとライフイズテック株式会社内部監査室 Internal/Impact Auditorの宮本 萌子さん。
本記事はトークセッションで出たご質問に対するお二人の回答をまとめた記事です。「社会的インパクトを追求することで弊害もあるのでは?」「ビジネス的にメリットがあるから社会的インパクトを追求するというのが現実的なのでしょうか」というちょっと答えにくい質問にもお答えいただきました。
あえてこのような問いにも答えていただいたのには理由があります。「社会的インパクト・マネジメント」は、インパクト投資を受ける企業や、金融機関においては盛り上がっていますが、現場の第一線で働く人たちにはまだまだ馴染みのない言葉。でも、地域に根付いた活動をしている企業や団体、規模は小さいけれど、大きな夢と理想を描いて立ち上がった企業にこそ必要であり、多くのメリットがあると私たちは考えているのです。
土岐さんは社会的インパクト・マネジメントの支援に長年関わってきたご経験をもとに、宮本さんは現場第一線で社会的インパクトを生み出す事業づくりに取り組んできたご経験をもとに、全力で質問に答えてくださいました。
※トークセッション本編については「社会をよくする会社になるための方法論 〜社会的インパクト・マネジメントやB Corp実践例を参考に〜」をご覧ください。
※本トークセッションは&PUBLICが主催する実践型研究会「スパイラル」の説明会と合わせて実施いたしました。本研究会では、社会的インパクトをどう企業力の向上につなげるかについて研究会については「社会的インパクトを企業力へ 実践型研究会『スパイラル』」をご覧ください。
◎社会的インパクトを追求することに弊害はないの?
ーー「社会的インパクト」を求めることは必ずしもよいこととは限らないのでは?弊害もあるように思うのですが。
(インパクト・マネジメント・ラボ|土岐さん):何をもって社会的インパクトとするかは、まだ議論が始まったばかりです。社会的インパクトとは、誰かが決めるものではなく、それぞれの人が社会に必要だと思ったことを社会へ提示していくのが良いのではと私は考えています。NPOの活動は、社会課題や社会的な意義を世の中に伝えて認識してもらうところから始まることが多いんです。例えば「日本にセクハラ罪はない」といった発言に対して複数の団体や人々が声を上げ、「社会はセクハラを許さない」という認識が広まりました。そうやって世の中の潮流を作っていくためにも、自分が社会に必要だと思うことについては声を大にして伝えていくべきだと思います。
ただし、「社会的インパクトの量、ボリュームをいかに大きく見せるか」に重点が置かれることには弊害があります。実際には成果は出ておらず実態がないのに、あたかも環境や社会に良いように見せる「インパクトウォッシュ」が起こることも懸念されています。例えば、こどもたちを支援する団体が、「引きこもりの子どもの数を減らす」という成果を出すために、半ば強引に子どもを外に連れ出す、といった活動を進めることが起こりかねない、ということです。測定しやすいインパクトばかりを追求することで起こりうる弊害はあると思います。
社会として「何が社会的インパクトか」という合意が図られていない中で、「これを自分たちの社会的インパクトだ」とすることは、私たちの良心にかかっていると思うのです。自分の良心が「やった方がよい」ということはやった方がいい。でも、「インパクトの数字を積み上げてお金を引っ張ってこよう!」という思考になると、弊害が生まれてしまうかも知れません。
◎小さな地域企業が社会的インパクトを追求するメリットは?
ーーでも、現場に目をうつすと、「いかに明日の売り上げを立てるか」「どうやって従業員の給料を払おうか」ということを考えざるを得ない企業もたくさんありますよね。そんな小さな地域企業が、社会的インパクトを追求することに意義はあるのでしょうか。
(ライフイズテック|宮本さん):企業の大きさと社会的インパクトを求める必要性には何の関係もないと思っています。そもそも、社会的インパクトを生み出す行動は、どんな商品を選ぶのか、どんな企業のサービスを利用するのか、といった私たちの日々の消費者の消費行動でもできること。一つひとつは小さかったとしても、社会の一人ひとりが今から社会的インパクトに対して向かっていかなければ、世界が直面している課題は多すぎて解決しきれないと思うのです。
確かに企業には「大企業」「中小企業」といった分類はあるけれど、解決すべき課題はセクターや企業の規模によって分かれているわけではなく、究極的にはひとつのものをシェアしているのではないかと思います。だからこそ、社会的インパクトを生み出すムーブメントが広がり、担い手が増えていったら幸せだな、と思います。
(土岐さん):「SDGsが〜」とか「ESG投資が〜」といった外的要因を背景に社会的インパクト・マネジメントを推進しなければならない、というお話はいったん横に置いておいて(笑)、私が考える「企業が社会的インパクトを追求する1番の理由」は、「社員がハッピーになる」ということなんです。
自社が生み出す社会的インパクトを明確にすることで、社員一人ひとりが自分と会社の関係性を認識し、「なぜ自分はこの会社で働いているのか」「自分の仕事が社会にどう役立っているのか」と、仕事を通じた社会との関わりを考えるきっかけになると思っています。
「社員のエンゲージメントを向上させる」という表現をしてしまうと安易に聞こえてしまうかも知れませんが(笑)、社員の方々が、社会へ貢献したい、地域をよくしたいと仕事に取り組み、仕事を通じてワクワクする機会が増える。そんな風にイキイキと働く社員さんがいるから、イノベーションが生まれ、企業が発展する。社会的インパクトを軸に、そんな企業が増えたらいいなと思っています。
ーー仕事を通じて社会と繋がっている実感が持てるということですね。むしろ、小さい企業の方が社会とのつながりを感じやすいかもしれませんね。
(土岐さん):確かにそうですね。私はコロナ禍で多拠点生活を始めて、地方にいく機会が増えたんです。人口が5000人くらいの町では互いの顔がわかっているので、プロジェクトのキープレイヤーが明確になりやすく、どんどん事業が興っています。自分が地域のエコシステムにどのように介入すれば、どういう可能性が生まれるのかが分かりやすい。環境問題や社会問題に敏感な30代40代が中核となり、次の未来を作るためにいろんな手を打っていけるのは、地場企業の強みではないかと思うんです。「インパクト」「アウトカム」を大企業や金融機関の取り組みとするのではなく、地域に密着した企業の方にも使ってもらえたらと思っています。
◎ビジネス的にメリットがあるから社会的インパクトを追求するの?
ーー本来は経営者に「社会的なインパクトを生み出したい」という想いが自発的に生まれることが理想だとは思いますが、現実的には「社会的インパクト」は自発的に追求されるものではなく、ビジネス的にメリットがあるから追求するものなのでしょうか。
(土岐さん):私は、人間とは根源的に「社会的にいいこと」「環境にいいこと」をやりたいと思っている、と信じています。例えば、不正や道徳的に良くないことが行われている企業は、雰囲気が悪くなったり、社員はお金のためと割り切って仕事をしてしまうと思うのです。逆に自分たちの企業は社会によいことをやっていると胸を張って言えれば、社員は誇らしさを感じ、働く価値を感じることができる。働きがいは、生きがいにもつながり、結果として事業のプロセス自体が充実していきます。私はこの感覚が好きで、全人類に味わってもらいたいです(笑)。
確かに何を「よいこと」とするかの判断は難しいですよね。究極的には、自分の中の倫理観、日本人風に言うと「お天道様に胸を張って言えるのか」を真ん中におくとよいのではないかと思っています。
(宮本さん):私は企業が自発的に社会的インパクトを追求していく社会が理想だと思っています。会社を興したときや事業継承したときに、「稼ぎたい」以外の「何か」があったはずです。そして、商品やサービスを買ってくれる人がいるということは、誰かの心が動いたり、誰かのネガティブをポジティブに変えるインパクトがあるということ。
これからの社会でサステナブルに事業を続けていくにあたって、社会的インパクトを生み出していることは経営にポジティブに働くはず。例えばオールバーズという会社は、カーボンフットプリント削減のためにその計算式まで公開しています。これからの時代は秘伝のタレのレシピを門外不出で守りながら競争するのではなく、自分たちが生み出した知恵を共有していく社会になっていくはずです。
◎実践型研究会「スパイラル」
2023年6月から、&PUBLICは実践型研究会「スパイラル」を開催しています。本研究会では、10社のみなさまとともに「社会的インパクト」を具体的な企業の力に変えるにはどうしたら良いのだろう?を半年かけて議論し、実践していきます。
11月には公開講座を行い、研究会で得られた知見を広く共有し、日本全体、そして世界全体がよりよくなる未来を目指していきたいと思っています。ご興味ある方はぜひ、ご参加いただけたら嬉しいです。
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