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本と私と八戸と。

 本が好きだ。読むことはもちろんだが、物体としての本も好きで、装丁や手触りなど味覚以外の四感を使って愛でている。
 これまではただ趣味の買い物だったが、ブックバーを開店してからはそれが仕入れという仕事に変わった。趣味と実益。なんと喜ばしくも楽しい職業だろうか。元々買う冊数に対して読むことが追い付いていなかったのだが、開店してからの4年でそれに拍車がかかった状態だ。最近では「積ん読」という便利な言葉もあって、いつか開かれることを待っている本たちと共に暮らしている。
 そんな私の名前は本の村と書いて「本村」という。さらに店舗が入っている建物は、本が多いビルと書いて「本多ビル」なのだ。名は体を表すとはこのことか。ビル名は不動産屋との契約の時に気が付いて、何か目に見えない力の導きを感じずにはいられなかった。
 これとは別の見えない力(父の転勤)によって12歳から住み始めた八戸市は「本のまち」を宣言している。まちづくり戦略の一つとして、本に親しむ市民を増やすのがその狙いだ。例えば乳幼児を対象にした「ブックスタート事業」や、小学生を対象にした「マイブック推進事業」など、民間では難しい今後数十年の将来を見据えた取り組みが多い(詳しくは各自調査)。
 「本のまち八戸」の拠点施設が「八戸ブックセンター」だ。全国初の市営による本の施設で、コーヒーやビールなどを飲みながら自由に書籍類を閲覧、購入できるという、本好きにとっては夢のような空間だ。まだの方はぜひ足を運んでみていただきたい。
 本離れが叫ばれて久しい。スマートフォンという万能機器の登場により、紙の本は前時代の遺物となってしまいかねない状態だ。全国の書店も減少の一途をたどっていると聞く。しかし、本離れの元凶は別にあると私は考えている。それはズバリ、夏休みの読書感想文だ。夏真っ盛りで、遊びたい真っ盛りの小学生にとって、強制的に感想文を書かされる読書なんて罰でしかない。本離れはおろか、まだ十分本に親しんでもいない時分でそんな罰を受けるのだから、読書はつまらないものと幼い心に刷り込まれてしまうのだ。そもそも読書とは独りで楽しむものだから、誰かに感想を披露する必要はない。だから夏休みを謳歌している世の小学生たちよ、もう読書感想文は書かなくてもよいぞ(無責任)。
 私は私のやり方で「本のまち八戸」を後押ししたいと考えている。八戸市は子どもを中心に事業を展開しているから、「AND BOOKS」はこれまで読書に触れてこなかった大人を対象にした「大人のブックスタート事業」を計画している。怒られない範囲で。
 八戸市の取り組みはまだまだ始まったばかりで、結果を求める段階ではない。「ヤット」でも「ハチト」でもない、私たちの「ハチノヘ」は、既に本業界では全国区の知名度を誇っている。「本のまち八戸」を私たちはもっと誇っていい。


デーリー東北新聞社提供
2022年8月17日紙面「ふみづくえ」掲載

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